恋人4、Doc
もう覚えてる方がいるかどうかアレですが、初期の方でイルミは既に何度も白雪に「私の可愛いカナリア」とかなんとか言っています。
本人は無意識の様ですが、察してあげて下さい。
「――スノーホワイト、あなたのご両親はどの様な方だったのですか?」
「私のですか?」
「ええ、貴女のです」
彼女の幼き日の父親との思い出を聞きながら夜の森を歩く。
(なるほどな…)
坊やの言っていた事も一理あるのだろう。
確かに両親の事を質問され、彼等に好意的な感情があれば、この様に楽しかった思い出話に花を咲かせたり、尊敬する部分をはにかみながら語るのだろう。
「もう少しですか?」
「ええ、こちらです」
―――ややあって。
辿り着いたのは小さな湖だった。
以前スノーホワイトが浚われた盗賊のアジトである古城の畔にあった湖とはまた違う湖である。本当にこの闇の森は広い。
アミール王子の話によると、昔はあの古城の周りを囲むある小さな森だったと言う話なので驚きである。
湖の前には人の丈の三倍程はある、巨大な植物がうねうねと踊る様に蠢いていた。
その植物の上には数個、人の頭の二倍程度の大きさの毒々しい色をした花が狂い咲いている。
その植物は私達の姿を見付けると、――いや、正確にはヒト科のメスであるスノーホワイトの匂いに誘われて、こちらにザワザワと近付いて来た。
「い、イルミ様……あ、あの…?」
スノーホワイト足が止まる。
「珍しい花でしょう?この時季この森でしか咲かない、おしべ草と言う植物です。有性生殖タイプの雌雄異株であり、その名の通り雄しべしかない花を咲かせる魔法生物です。この季節の青の月夜はおしべ草の繁殖期で、彼等はめしべ草を求め、夜な夜な森の奥を彷徨っている」
「え、えっと…?」
勘の良い彼女の顔が引き攣っている。
「ちなみにおしべ草の出す花粉は、媚薬や男性の精力増強・ED治療薬の材料として高値で売買されています」
「何か……猛烈に嫌な予感がするんですけど、」
「相変らず勘は良いですが、今回は気が付くのが少々遅かったですね。あなたも知っての通り、今我が家は火の車なのです。まあ、頑張って来てください」
その背中をドン!と押して前に突き出した瞬間、おしべ草の毒々しい色の花がスノーホワイトに襲い掛かる。
バフッ!
「あ、あふ……え?」
黄色い花粉を掛けられ目を回したスノーホワイトが地面に倒れこむよりも先に、おしべ草の蔓が彼女の四肢を縛り、空高く持ち上げた。
「いやぁ、助かりましたよ。男の私だけでは、おしべ草の花粉を入手するのは不可能なので」
「な、……何がデートのお誘いよ!!イルミ様の嘘付きー!!」
正気に戻ったらしいスノーホワイトが顔についた花粉を振り払いながら叫ぶが、その目は既にとろんとして来ている。
おしべ草の花粉を吸ってしまったせいだろう。
おしべ草の花粉には即効性の催淫効果がある。彼等はめしべ草に花粉をかけて発情させ、逃げられない様にしてから受粉させると言う、非常にロジカルな子孫繁栄戦略をとって繁殖して来た。植物だからと言って侮れない。
「何を言っているのですか、デートには違いありませんよ。おしべ草の花は、この時季この森でこの時間にしか見られないと言うのも嘘ではない。さあ、しっかりとおしべ草のおしべを受け入れて、受粉して下さいね」
「じゅ、受粉!?」
スノーホワイトの顔が青ざめる。
「おしべ草はめしべ草に『受粉させた』と錯覚する事により、稀少な実を実らせるのです。本来ならばめしべ草でなければ不可能なのですが、発情期に限りヒト科のメスのめしべでもその実を採取する事も可能なのです。実はおしべ草のその実が今入用でして」
「イヤ―――っ!!イルミ様の馬鹿あああああっ!!」
おしべ草の蔓は彼女の夜着を捲り上げると、胸の丸い膨らみをきつく縛る。
すると花の中の黄色い雄蕊 達がにゅるにゅると伸びて、彼女の胸の頂きをちょこちょこと擽り始めた。
「きゃあああああああ!?な、なに!!?」
「貴女のそれがめしべかどうか確認している様ですね」
雄蕊の先端から次々と溢れ出す花粉が、彼女の胸元に塗りこまれて行く。
他の雄蕊達もスノーホワイトのめしべを探そうと、彼女の体の上を這いずり回り始めた。
「あ、……っん!」
蔓がズリズリと下着の上から秘裂を這い、彼女が声を上げる。
彼女の下着が湿って来ると、雌しべのありかに気付いたらしいおしべ草は発光し姿を変える。
花の中から次々と伸びた雄蕊達が、スノーホワイトの下着の中へと飛び込んで行く。
「っひゃ!?――…あっ、や、やぁ、待っ、いやぁ……!!」
「ほう」
なんともまあ、いやらしい光景である。
雄蕊達の手により、スノーホワイトが着用していた色鮮やかなネイビーブルーの下着は恥肉の溝までずらされてしまい、彼女の秘すべき場所はすぐに露にされてしまった。
つつましやかに閉ざされた肉の割れ目を雄蕊達は左右に開くと、彼女の一番弱い部分を覆い隠す細長い三角の苞を剝き上げて肉の芽まで露にする。
女が化粧をする時に使用するアイシャドウチップの様な雄蕊の先端が、彼女の剝き出しの肉芽にパフパフと花粉をかけて、受粉させようと必死に花粉をなすり付けている。
「ひん!う、ぅぁ、ぅ、……だ、だめぇ……っ!」
催淫効果のある花粉を弱い部位にたっぷり擦り付けられて、彼女は身を捩りながら甲高い声で叫ぶ。
おしべ草の蔓により四肢を縛られ宙に吊るされているスノーホワイトは、自身の陰核に花粉を擦り付けている雄蕊から逃れる事も出来ない。脚を大きく開かされて押さえつけられているので、私の見られている事に気付きながらも、秘所を隠す事すらままならず、羞恥に咽び泣く事しか出来ない。
「っふう、あ、――ゃ、っだ、……み…みない、で……!」
「そう言われたら、じっくり鑑賞するしかありませんねぇ」
「ぅあ、ぁ、っ!や、や、やだ、いるみ、さま……ぁっ!」
「ほら、ちゃんと見ていてあげますから。下等な魔法生物の雄しべに擦られて、はしたなく達する姿を私に見せてごらんなさい」
「そん、な…!いや、いやぁ……っ」
私も実際目にするのは初めてだが、繁殖期のおしべ草にヒト科のメスを与えると、おしべ草がヒトの陰核をめしべとみなすと言うのはどうやら本当らしい。
おしべ草の雄蕊達は競う様に彼女の陰核に花粉を塗りつけている。
「っは、あ、ぅんん! やっ、も、……るみさま、たすけ…て!!」
「まあまあ、そうは言わずに頑張って下さいよ。ちゃんと実が採取出来たらご褒美をあげますから」
微笑を浮かべながら彼女の体に巻き付く雄蕊を1本手に取って、あらかじめ持って来た小瓶にその花粉を入れる。
「しかし、貴女は本当に良い声で啼く」
「いるみさま、こ、これ……?」
今までの淫蟲達と違い、いつまで経っても自分の秘めやかな場所に侵入して来ないおしべ草に気がついたらしい彼女は、今にも泣き出しそうな顔をして私を見た。
おしべ草の花粉を吸い込み、粘膜に直に花粉を塗りたくられながら刺激を与え続けられた彼女の剝き出しの亀裂は、既に腫れぼったくなっている。
雄蕊達によりもてあそばれている肉のしこりの下にある裂け口からは、いやらしい女の蜜がしとどと溢れていた。
「ええ、そうです。おしべ草の目的はめしべなので、あなたの陰核に花粉を擦り付ける事以外興味はないのです」
「そ、そんな……、」
「さて、どうされたいですか」
下衣の前を緩め既にそそり立っている己の物を取り出すと、彼女は条件反射で叫ぶ。
「いるみさ、ま、おねがい、入れて……っ!!」
いつもなら限界まで焦らして焦らして隠語を語らせながら懇願させたり、私の目の前で卑猥な道具を使わせて自慰をさせ、それと私の物のどちらが良いか詳細に語らせたりして、彼女のみだらな様を愉しんでから挿れるのだが、今は何故か早く彼女と一つになりたかった。
おしべ草の蔓により宙吊りにされている彼女の腰を掴み、自分の前まで体を降ろす。
にゅち……、
彼女の内股のあわいに己の肉の先端をあてがい、グッと力を込めると、きつく閉ざされた肉壁をこじ開けて行く。
「ひぁ、あ、あぁ、あああああ!」
苦痛に歪んだ顔と悲鳴染みたよがり声の中に、戸惑いの色が混じって行き、付け火された愛欲の炎が次第に隠せなくなって行く。私に煽られ自身の中に産まれた炎に翻弄されて、困惑しながらも必死に耐え忍ぼうとしているあの顔が良い。
与えられる快楽に、もうどうしようもなく感じてしまい「痛かったはずなのに」「嫌だったはずなのに」と混乱している瞳が、忘我の途に踏み込んでしまう瞬間のあの顔が良い。
私に揺さぶられ快楽に酔い痴れながらも、恥じらいを忘れず、声を漏らさない様に唇を噛み締めているあの顔が良い。それでも押さえきれずに漏れてしまう甘い声がまた堪らない。それを力技で吐き出させる瞬間に見せる、彼女のあの顔が最高に良い。
(随分と私好みの女に育ってくれたものだ)
「男の味を覚え、膣内 でイクコツを掴んでから乱れ具合が一段と激しくなりましたねぇ、コレはそんなに良いですか?」
「――っん!やぁ…ん、……あっ、あ!ああ…ッんん!」
既に降りてきている子宮口に、自身の先端をグリグリ押し付けながら言うと、彼女は涙を零しながら何度も何度も頷いた。
「は、い……!すごい、いい…の!」
「もっと鳴きなさい、私の可愛いカナリア」
(カナリアか…)
口に出した後、苦々しい思い出が胸に蘇った。
****
カナリアと言う鳥は発情している時に活発に鳴く。
発情しないとカナリアはあまり鳴かなくなる。
なので飼い主はカナリアの餌に卵黄粉を混ぜ、一日の日照量を長くし、籠の中に小鳥専用の小さな鏡や巣箱を入れて、長い間発情させる工夫をしてそのさえずりを愉しむ。発色剤を餌に混ぜると色鮮やかに羽毛が染まる鳥なので、そうやって見た目の美しさを楽しむ事も出来る。
しかしそんな事をさせれば、当然カナリアの体には負担がかかり寿命も短くなってしまう。
その事実を初めて知った時、私は人間のエゴに酷く陰鬱な気分になったものだ。
それから私は、自分のカナリアに発情餌や換羽期前の色揚げ粉も与えるのを止めさせた。
自分で人参をすりおろしてカロチン餌を作り、赤く色付けさせる事も出来るらしいが、それもどうなのだろうと思った。そもそも私のカナリア自身が人参をあまり好んで食そうとしない。
なら無理に食べさせる事などせず、彼の好む青菜などを食べさせた。
本のページを捲る自分の指を嘴で甘噛みするカナリアを見て、思わず苦笑する。
『こら、邪魔をしてはいけません』
本ではなくこちらを見ろと言う様に、本の上に立ってピィピィと抗議された。
歌を歌わなくなっても、淡紅色の羽が退色してまだら模様となっていたとしても、それでも卵から孵化させて手乗りになったカナリアは可愛い。
ここまで懐かれれば流石の私も悪い気分はしない。
突き詰めて考えて行けば、籠に閉じ込めて飼う事も人間のエゴなのだろうが、もう野生では生きていけない小鳥をそのまま空に放って殺す事もない。
安全な籠の中でしか生きられない様にしてしまったのなら、短い命を終えるその時まで籠の中に入れて大切に飼うのが、エゴの塊である人間 に唯一出来る事だと思う。
ガジガジと本のページを齧り出したカナリアを見て、雄の癖に下手な女よりも嫉妬深い鳥だと苦笑する。
『私のかわいいカナリア、そろそろ籠の中へお戻りなさい』
このまま本の上で排泄をされたら困るので、籠の中にカナリアをしまおうとしたその時、母が私の部屋の前を通りかかった。
『あら、このカナリアこんな色をしていたかしら?』
私が籠に入れたカナリアを見て、母が眉を寄せる。
『ええ、餌を変えたので』
『以前の様に鳴かなくなったのね』
『鳴かせる事も出来なくはないのですが、発情餌や色揚げ粉を与えてカナリアの体に負担をかけたくないのです』
鳴かなくなり羽色の悪くなった私のカナリアを見て、つまらなそうな顔で籠の中を覗き込む母に事情を話した。
私の話をどうでも良さそうに聞き流しながら、母は鳥籠に指を入れる。
『痛っ!!』
いきなり籠の中に指を入れて来た母の指を、驚いたカナリアが嘴でつついた。
母は驚き悲鳴を上げた後、顔を顰めた。
『まあ、なんて嫌な鳥なの!』
『今のは母上が悪い。懐いていない人間の指がいきなり籠に入って来たらカナリアだって驚きます』
『私は昔からこの手の生き物が嫌いなの。……鳴き声や羽色まで雄の方が美しいだなんて、鳥類って奴等は随分と女をコケにしているわ』
まあ、そんな鳥の性質が気に入っているからこそ、我が家は祖父の代からカナリアを飼っているのだが、カナリア達には罪はないのでフォローをしておく。
『一部の男が女性蔑視の材料にその手の話を好んで使う事があるだけで、別に鳥達がヒトの女性性を貶めている訳ではありません。鮮やかな羽を大きく広げて雌を誘う鳥も、美しい囀りで雌を誘うカナリアも、それは繁殖活動の一貫でしかない。人間女性と違って鳥類の雌の生には、美しい羽も鳴き声も不要なだけです』
『それが嫌なのよ、私達人間女性の日々の涙ぐましい努力が否定されている様で』
『霊長類と鳥類の繁殖における求愛ディスプレイの違いを比較するのもどうかと思いますが。現に母上だって雄鳥に求愛給餌をされても困るだけでしょう?私もこれに餌を持って来られていつも困っている』
『……本当に嫌な子。年々父親みたいに理屈っぽくなって来て』
『それは仕方ない、私は父上の息子ですから』
『けれど鳴かないカナリアに何の価値があって?しかもこんな色の落ちた鳥のどこが良いの?』
『愛玩動物を愛玩する理由は人それぞれです』
『へぇ、可愛がっているのね…』
『ええ。犬猫だって血統証でなくても、見目が悪く頭も悪く何の芸が出来なくとも、可愛がって飼っている飼い主は世の中沢山いるでしょう』
私が籠の中に指を入れると、カナリアは嘴を寄せて擦り寄って来た。
『ほら、別に歌を歌わなくても、色が抜けていても可愛らしいとは思いませんか?』
私のその言葉には他意はなかった。
何日かぶりに顔を合わせた母に、自分のカナリアを見せただけだ。
私は彼女が父と結婚してこの屋敷に来るまでは、鳥が嫌いではなかった事を知っている。これが彼女がまた鳥を好きになる良い切欠になればと思っただけだった。
―――しかし、
『……私が産んであげたのに、私から産まれて来た癖に、それなのにあなたまでそんな事を言うのね…』
低い呪う様な声に後を振り返る。
『……女の腹から産まれて来た癖に、女がいなければ産まれて来る事も出来ない癖に、それでもあなたも女は男に劣る生き物だと言いたいの?』
『母上、いかがなされましたか』
『血統証の私が!あの雑種達に負けていると言うのか!?』
その血走った目に、扇子を持つ震える手に、思わず言葉を失った。
『この私が!あの雑種達に負けているとでも!?あんな教養も素養も何もない!脚を開いて、男に媚びへつらう事しか出来ない最底辺の女達に!!自ら女性性を貶めている事にも気付いていない、知性もなければ品性もない、尊厳も品位も何もない、男を受け入れ悦ばせる事しか能のない、あの動物と変わりない雑種達に!!』
バン!!
母は手に持っていたセンスを乱暴に閉じると、そのまま床に叩き付ける。
『この私が、負けている訳がないでしょう!!』
ガシャンッ!!
次に母が床に倒したのは、カナリアの入った鳥篭をぶら下げている真鍮のバードケージスタンドだった。
『何を!!』
そのまま鳥篭を蹴り上げる母を羽交い絞めにして押さえる。
『あら、その発情餌とやらを与えてやらなくてもこうしてやれば鳴けるじゃない!』
それはカナリアの鳴き声ではなく、悲鳴だった。
『やめてください!!』
駆け付けて来たメイドに母を連れて行く様に命令し、慌てて部屋の外まで転がって行った籠を追いかける。
籠を開けて中のカナリアを取り出すと、私のカナリアは痙攣していた。
カナリアと言う鳥はとても小さい鳥だ。
体長は10cm少々しかなく、足はとても細い。
足の骨が折れたのだろう、カナリアの足はありえない方向に曲がっていた。
カナリアはヒトとは違い、強膜を露出していないが故にいつも黒目の生き物だ。
たまに瞬膜と言う白目の様な物を目の脇から覗かせる固体もいるらしいが、私はつい今さっきまでそれを目にした事はなかった。
当たり前の話だが、鳥にも白目があったのだなと当然の事を思いながら息を飲む。
カナリアはいつもの様に私の親指を嘴で甘噛みした後、弱弱しく一鳴きすると、そのまま動かなくなった。
(私のカナリアが……、)
手の平のカナリアはまだ温かく、ただ眠っている様にも見えた。
微動だにしない私の背中に、メイド達に押さえられた母は静かに語りかける。
『イルミ。今日は特別に、誰も教えてくれない人生の秘密を教えてあげる。毎日楽しくても、幸せでも、良い事があっても、決してそれを顔や態度には出してはいけないの。口に出すのはただの馬鹿よ。――…それが人に嫌われず、憎まれず、僻まれず、平穏に生きる人生のコツなのです』
呆然としたまま振り返ると母は笑っていた。
私の手の平の中で動かなくなったカナリアを確認すると、彼女は満足そうに頷き、顔を歪めて笑った。
『世の中、恵まれていない人の方が圧倒的に多いのよ。皆が皆、貴方みたいに恵まれた環境に産まれて、何不自由のない生活を送っている訳じゃない。皆悲しいの、皆泣いているの、世界は絶望で満ちている』
―――したり顔で語りだすその女の顔は、恐らくこの世で最も醜い。
『戦争、飢え、寒さ、干ばつ、いわれなき差別や迫害。誰もが皆、救いのない世界に悲観し、失意にまみれながら生きている。誰もが毎日楽しく生きてる訳じゃないの。むしろ逆の人間の方が多いのよ』
『奥様、』
『だからね。貴方みたいな恵まれた環境で生きている人間が、さっきの様に楽しそうな顔をして笑っているとそういう人達の不興を買うのよ。お分かりになって?私は何もあなたが憎くてこんな事をした訳じゃないの。これは人生勉強の一貫として、親としてあなたに人生って物を教えてあげているだけで、』
『奥様、もうお部屋に戻りましょう』
『うるさいわね!黙りなさい!話を遮らないの、この雑種風情が!!――イルミ、分かった?だからと言って毎日辛気臭い顔をして、不幸自慢ばかりしていても駄目よ!? 鬱陶しいし、見ている人をイライラさせるだけだから。私、愚痴っぽくてジメジメしてる陰気臭い人が本当に苦手なのよ。こっちの運気まで吸い取られてしまいそうで』
母の言っている言葉の意味は判った。
つまり自分は不幸なので、あまり楽しそうにしてみせるなと言う事なのだろう。
同時につまらなそうな顔もするなと言う事なのだろう。
―――では一体どんな顔をして生きて行けば良いのか。
(女とはなんて身勝手な生き物なのだろう)
いや、女と言う生き物全てが身勝手な訳ではない。この女が身勝手なのだ。――…そして、父も。
(ああ、そうか)
―――私は両親の事が嫌いだったのだ。
物心付いた時から両親は私の敵でしかなかった。
人間関係とはどんな関係においても上下関係があり、力学関係が存在する。それは家族と言う関係性においても適応される。
我が家の場合、父が一番強い権力を持っていて、その次は母で、一番低いのは子供である私だった。
父が母に当たれば、母は私に当たる。川の流れの様に下へ下へと負の連鎖反応が起こる。それは私の体格が両親を超えるまで続いた。
形あるものはいずれ壊れる。
大切な物など作らない方が良い。
あの家にいる限り、親の金で生かされている限り、自由などなかった。
金だけなら公爵家や侯爵家よりもあったので誰もが私の生活ぶりを羨んだが、自分がそんなに良い生活を送っていると思った事はなかった。確かに物質的には満たされてはいたが、自分自身が満たされていると感じた事は産まれてからただの一度もなかった。
何か大切な物を作っても、どうせすぐに父か母に奪われて壊されてしまう運命なのだ。
どうせ奪われるのならば、壊されるのならば、何もいらないと思ってた。
そうだ。それで私は何かを大切にする事も、誰かを大切にする事も止めたのだ。
―――しかし今、あの家には私から何かを奪う者も壊す者もいない。
私はもう大人で、父と母の庇護もなく自分の力で生きている。
大切な物を作っても、もうあの屋敷にはそれを奪う者も壊す者もいないのだ。
家の外だってそうだ。国内に私を脅かす者は皆無に近いと言っても良い。
(それなのに何故、今こんなに戸惑っているのだ)
ああ、そうか。
父と母と言う敵がこの世にいなくても、命は有限だからだ。
自分の手の平の中で冷たくなって行ったカナリアの事を思い出す。
「鳥も死ぬと死後硬直するのか」と当たり前の事を思いながら、本当に歌を歌わなくなってしまったカナリアをそのまま何時間も見つめていた。
目の前のこの少女にも、いつ何があるかも判らない。
(私は、怖いのかもしれない)
―――彼女があのカナリアの様に冷たくなって、動かなくなってしまうその日が。
大事に銀の鳥籠の中に閉じ込めて厳重に鍵をかけたとしても、このご時勢彼女を守りきれる保証はない。
人の命は永久ではない。人はいずれ死ぬ生き物だ。
(しかし、そんな事でどうする)
自身の肉を引き抜くと、一瞬遅れて彼女の中からボタボタと白い情熱が溢れ出た。
無言でおしべ草の花の上に生った毒々しい色の実を捥ぐと、ランプの中に入れていた魔術の光を上空に投げる。
おしべ草は光に弱い。
おしべ草は彼女の体を放すと、すぐさま闇の向こうへと逃げて行った。
「はい、お疲れ様でした」
蔓から解放された少女を宙で受け止めると、腕の中で彼女は蕩けた瞳のまま言う。
「ね、ねえ、イルミ様……、」
「なんでしょう」
「きす、したい、……ご褒美に、キスしてくれませんか…?」
不意をつかれて体の動きが止まった。
「キス、ですか?」
言われてみて、自分が彼女に口付けをした事がない事に気付く。
この女は本当に良い声で鳴くので、口を塞ぎたくないと常々思っていた。
自分とする時は絶対に声を我慢させない。
彼女が口を押さえ声を抑えようとすると、手を縛るか、そんな余裕がなくなる位、激しく攻めたてるのが常だった。
複数でする時も、他の男が彼女の唇を唇で塞ぐ事を忌々しく思っていたものだ。
「私とじゃ、その、……したくないのですか?」
呆然とする私の顔を彼女は恐る恐る覗き込む。
「いえ、いいんです。その、出来心と言いますか、ずっとイルミ様にしていただきたいなって思っただけで、……すみません、厚かましかったですよね、えっと、」
もう何も言わせたくなかった。
そのまま己の唇で彼女の口を塞ぐと、彼女は大きく目を開いたまましばらく固まった。
一旦唇を離し、口角を吊り上げて哂う。
「貴女も私も、案外お馬鹿さんなのかもしれませんねぇ」
角度を変え唇を重ねると、彼女はそっと瞳を伏せて私の背中に手を伸ばす。
湖の中心に小石を投げた様に、今まで知らなかった温かい感情 が私の中でジワジワと拡散されて行く。
スノーホワイトの唇は、ほのかに甘い林檎の味がした。
血の様に真っ赤な唇はどこか罪の果実めいていて、毒性の高い媚薬の様な中毒性があった。
一度味わってしまえば最後、離す事が難しい、甘やかな唇を味わいながら私は苦笑する。
(口付けくらい、もっと早くしてやれば良かったな)
私は飽きるまでスノーホワイトの唇を味わった後、大地の上に彼女の体を組み敷いた。
「ほら、もっとその甘い囀りを聞かせなさい、私の可愛いカナリア」
「っく、ん!……は、はあ、あ…」
「今夜も沢山鳴かせてあげましょう」
「や、やっぅ、…ぅぅ、んあ!あ、ああああッ!!」
****
「スノーホワイト、先ほどの話の続きです」
「はい?」
事後。彼女の作ったサンドイッチを片手に、湖を見つめながら語りだす。
「私は両親が嫌いでした。自分の事しか考えていない未熟な大人だと軽蔑していた。死んでくれて良かったとむしろせいせいしている」
「は、はい?」
情事の余韻で蕩けていた瞳が「いきなり何を話しだすのか」ときょとんとなる。
そんな彼女の様子に構わず、私は自身の心の内を吐露し続けた。
「父にいたっては政治的に利用出来る死に方をしてくれて感謝すらしています。死んでくれて本当に良かった」
「は、はい」
「私の父はとても身勝手で、他人の気持ちを思いやる事の出来ない男だった。彼の物事の判断基準は、自分が快か不快か、得をするかしないかだけだった。自分の思い通りにならないとすぐに癇癪を起こし、物や人に八つ当たりをする。他人が傷付く事や誰かの人生を台無しにする事よりも、自分の快楽と利益をいつも優先していた。いくつになっても子供のままで、堪え性がなく、自分が一番に優先され、大事にされ、愛されていなければ我慢の出来ない男だった。かと言って、自分から誰かに優しくしたり、大事にしたり、愛する事は決してしない男だった」
「はい」
「私の母は自分が不幸だから周りも不幸でないと満足出来ない女だった。不幸であるのならば幸せになる努力をすれば良いだけなのに、その努力をしない怠惰な女でもあった。そんな女でも暗い穴の中から助け出そうと差し伸ばされた手はいつだってあったのに、その手が気に食わなければ救いの手に気付かないフリをして、自分は不幸だ不幸だと嘆いてばかりいる傲慢な女だった。同時に変化を恐れて、自分の人生や生き方を変える事が出来ない、行動力と意気地のない弱い女でもあった。誰もが不幸になる事を望んでいる怨霊の様な女だった」
「はい」
「本当にどちらも嫌いでした。あなたと話していて気付きましたよ、私はあの人達の事が心の底から嫌いだったのです」
「……私も、実はお父様が嫌いでした」
苦笑混じりに呟いた彼女の言葉に、今度は私が驚く番だった。
彼女と彼女の父親の微笑ましい思い出話は先程聞いたばかりだ。
「あなたはご自身のお父上の事を敬愛していたのではなかったのですか?」
「私もイルミ様のお話を聞いて思い出したのです。――……ええ、確かに私、お父様の事は敬愛しておりました。大好きでした。大好きだけど、同時に大嫌いだったんです。継母 しか見ていないお父様の事が、大嫌いだった」
大きく目を見張る私に、彼女は苦笑を浮かべながら続ける。
「亡くなったお母様の事を思い出さそうともしないあの人の事が嫌いでした。お母様の事を話してと言うと嫌がるあの人の事が嫌いでした。私の為と言って新しい妃を貰ったのに、義母様が私の為になっていない事に気付いても見ないふりをし続けて、自分の都合を優先するお父様が、嫌いでした」
それは人間離れした美貌を持つ彼女の中にある、とても人間くさい、人間らしい生身の感情だった。
「だって、とても寂しかったから。――……もっと、私の事も見て欲しかった」
呆然としていると、私の目の前に彼女の美しい顔があった。
重なった唇の柔かな感触に、彼女に口付けされたのだと気が付いた瞬間、彼女はパッと唇を離して悪戯っぽい表情で微笑む。
「でも、私。今、とっても幸せなんです。――あ、自分で言っていておかしいのは分かっているんですよ、なんたって恋人が7人もいるんですから。そんな変てこりんな生活だし、家事も大変だけど、私、今までこんなに沢山の愛情を貰った事ってなかったから。だから、今、とっても幸せなんです」
「スノーホワイト…」
衝動的にそのまま彼女を押し倒しかけたが、彼女は既に泥酔状態に陥っていた。
(ああ、そうだ、この女は酒が弱いのだ)
酔い潰れた女を抱く趣味はない。
それから彼女が作った果実酒で喉を潤しながら、酒の回ったお姫様の与太話に付き合った。
真っ赤な顔で真剣に父親への苦言を述べる彼女が、何故だか妙におかしくて笑えて来た。
(私はもしかしたら、彼女のこういう所を好いているのかもしれない)
人間誰しも汚い感情を持っている。
しかし私の周りの女達はそれを出す事を良しとしなかった。
どの女も良い女ぶって、聖女の様な態度で私に接して来た。どの女と付き合ってもマネキンと付き合っている様な感じがして、薄気味が悪かったものだ。
彼女は私の前で良い女ぶって自分を作る事も、聖女の様に振る舞ってみせる事もしない。
彼女とのまぐわいは、尽くされるだけの接待セックスでもなければ、私に気に入って貰う為の媚売りセックスでもない。そのフランクさが良いのかもしれない。
今まで数え切れない程女を抱いて来たが、本当の女を抱いたのは彼女が初めての様な気すらするのだ。
どうせ明日になれば彼女には記憶もないだろう。
彼女に付き合い、私も今まで自身の胸に蓄積されていたヘドロの様な物を一緒に吐き出した。
話始めれば、果実酒が入った瓶はあっと言う間に空になった。
「今年はとても良い年でした、両親とも死んでくれたのだから」
全てを吐き出した後、何故だか妙に不安になった。
「――――…私がこんな事を思っていると知って、貴女はどう思いましたか?」
「へ?どう思うって。……イルミ様だな、イルミ様らしいな、としか…?」
果実酒に浸していたリンゴをフォークで差しながらこちらを振り返る彼女に、思わず吹き出してしまう。
「私らしいか、――…そうですね、その通りだと思います」
そうだった。
私はこの女の前では不思議と猫を被った事はなかった。出逢ったその時から全てを晒し出して来た。
私は自分の価値を自分で知っている。
それなのに今、何故他者に――…スノーホワイトにあえて自分の真価を委ねる様な真似をしたのか。
私は今までの人生、他者にどう思われるかなど気にした事はなかった。
他者に好かれようが嫌われようが、正確に評価されようがされまいが、私と言う人間の絶対的な価値は変わらない。揺るがない。
(ああ、そうか。これが恋なのか)
気付いてしまえば後は早かった。
「スノーホワイト、私は案外あなたの事を気に入っている様だ」
いきなり何を言い出すのだと言う顔で首を傾げる少女の手を取って、その甲に口付ける。――手の甲への口付け。それはこの国では敬愛と忠誠を意味する。
(偉大なる太陽王の末裔に、私の持てる能力 の全てを捧げましょう)
「どの位気に入っているかと言うと、先祖代々守り続けて来た伯爵家とリゲルブルクの存亡との秤にかけるくらいには気に入っています」
「ふへ…?」
―――このカナリアを閉じ込めている籠を、私がこの手で壊してやろう。
(仕方ない、アミール王子に協力してやるか)
私は今までずっと彼のなそうとしているリスクの高い策に反対し続けてきたが、まあ、良いだろう。あの男に乗せられてしまった感は拭えないが、今回だけは乗せられてやる。
「貴女は本当に不思議な人だ」
私は自分はもっと合理的で賢い男だと思っていた。
その自分がこんなリスクの高い事を、無償でやろうとしている事が信じられない。
「こんな気持ち、私は知らない…」
「いるみさま…?」
(人生は長いんだ。一生に一度位、私も馬鹿になってみるのも良いのかもしれない)
たとえそれで損益が出ようとも、私ならばすぐに取り戻す事が出来るだろう。――その程度には私は優秀だ。
何故か妙に晴れ晴れとした気分だった。
「私が何故今まであなたに口付けしなかったのか、教えてさしあげましょうか?」
「はい?」
トンと優しく草の上に押し倒すと、彼女は私達の頭上で光る月の様に清らかな瞳で私を見上げる。
「あなたの声が好きだからです」
「え…?」
(しかしそんなに貴女が私の口付けを欲しているのなら、これからは毎回してあげても良いですね)
私はカナリアと言う鳥が好きだ。
その鳥が奏でる美しい歌声は芸術性が高く、爽やかさと厳かさを持ち併せており、下手なオペラ歌手の歌を聴きに行くよりもずっと良い。
カナリアの歌う歌は、幅広い音域があって聴いていて飽きが来ない。
朝露を弾く新芽の様に潤いのある特徴的なさえずりや、楽譜もないのに関心する音程の変化、抑揚のある響き、深く味わいのある旋律。カナリアの歌う繊細な歌のその微妙な変化を楽しむ事は、存外奥が深い行為だ。
部屋の中でずっと聴いても、あの耳触りの良い音色ならばうるさいと感じる事はない。
昔から部屋にカナリアがいると勉強が捗った。
大人になってからも、あれがいれば仕事が捗るのにと思う事が良くあった。
―――しかしカナリア自身が私に口を塞がれるのを望んでいるのならば、こうして塞いでやるのも良いだろう。
****
「さて、そろそろ帰りますか?」
それからしばらくスノーホワイトと湖面に映る月を楽しんだが、明日も早い。
重い腰をあげようとしたその時の事だった。
「イルミ様!見て下さい、小鳥だわ」
彼女の肩に止まったそれは、随分と色落ちした赤カナリアだった。
淡紅色の羽が退色して、まだら模様となったそのカナリアの羽模様には見覚えがある。
そしてそのカナリアの奏でる歌にも聞き覚えがあった。その特徴ある、転がる様な連続音を私が忘れるはずがない。――それは祖父の代から教師鳥により受け継いで来た、我が家のカナリア達の特色である節回しだ。
(これは……、)
「まあ、あなたはとっても歌がお上手なのね」
スノーホワイトに指で目元を撫でられて目を伏せた、人に慣れたその鳥を信じられない思いで見守る。
「――――……私のカナリア」
「えっ?」
恐る恐る彼女の肩に止まった、アプリコットと白が入り混じったまだら模様の鳥に指を伸ばす。
私の指が触れた瞬間、そのカナリアは消えてしまった。
呆然としていると、スノーホワイトも自分の肩から消えたカナリアに驚き、辺りをキョロキョロと見回す。
「えっ、あれ、どこに行っちゃったの?」
「私が触れた瞬間、消えました。……恐らく探してもいないでしょう」
「今の何だったんでしょう?精霊か何かでしょうか?」
「……あれは、私が昔飼っていたカナリアです」
「ああ、なるほど、だからなんですね」
「何がですか?」
「あの子、たまにイルミ様の肩に留まっている子なんです」
「え?」
「とても可愛がっていた子なのでしょう?いつもイルミ様の周りをパタパタ飛んでいましたよ」
普段の私ならば、こんな非現実な話をされれば彼女が相手でも冷たく一笑しただろう。
しかし何故か今夜はそんな気も起きなかった。
「そうですか。私のカナリアはどんな様子でしたか?」
「イルミ様の髪の毛を齧って味見したり、……これ、言っても良いのかしら?イルミ様の頭の上に乗ったり、頬を舐めたり、足で頬に蹴りを入れてる時もありました」
「…………。」
思わず沈黙する私に、彼女は慌ててパタパタと顔の横で両手を振る。
「あ、違うんです!そういうのじゃなくて、……もっとイルミ様にベタベタしたいけど上手に出来ないみたいで、その苛立ちと言いますか、悪気はないんですよ。イルミ様に並ならぬ愛情を持っているんだけれど、人種が違うせいもあって、その表現の仕方がわからなくてもどかしいようで。それで良くイルミ様の耳を齧ったり、頬を蹴ったりしているんですけど、その様子がとても可愛らしいんです。良くイルミ様に外から木の実を持って来たりもしていましたよ」
それは本当に私のカナリアの癖そのものだった。
絶句する私を見て、彼女はクスクス笑った。
「あの子、何て言う名前なんですか?」
「……名前は、ありません」
「では何て呼んでいらしたの?」
「私のカナリアです、私のカナリアだったので」
私の言葉に彼女は「まあ」と息を漏らしながら頬を赤らめる。
赤く染まった頬を両手で押さえる彼女に私は慌てて訂正をする。
「こ、こら、そういう意味ではない。勘違いをするな。我が家にはあれの他にも父のカナリアや祖父のカナリアがいてですね、あれはただ単純に私のカナリアだったのでそう呼んでいただけで、貴女が思っている様な意味では……、」
「どちらにしろ、あの子がイルミ様に愛されていた事は変わりないわ。カナリアって雛の頃から愛情をかけて可愛がって育てないと、手乗りにするのが難しい小鳥ですもの」
「……まったく」
(……本当にあのカナリアだったのか?)
呆然としながら空を仰ぐと、青い月が私を笑っていた。
満月が近いせいか、今夜は天上の月がやけに大きく見える。
スノーホワイトも私に釣られる様にして、夜空を見上げて微笑んだ。
「イルミ様のおっしゃる通りです。月が青い夜は本当に不思議な事が起こるのね」
「ええ、そのようですね」
―――これは恐らく、青い月が見せた真夏の夜の夢。
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