二度と出られぬ部屋 最終章 オーバードーズ Part.1

 「どう、気持ちがいいでしょう」

 うつ伏せになった沙綾香に対し、その背中から太腿にかけてをほぐしながら、百合が囁きかける。

 百合のマッサージは巧みだ。羽毛の先で撫でるようなソフトタッチをしていたかと思えば、無駄肉などない沙綾香の肉を強引に搾り出すほど力を込める。その緩急つけた刺激は、臀部さえも性感帯に変えてしまうようだ。

 今も沙綾香は、白い尻肉を捏ね回されながら、切ない声を上げつづけている。

「あああ、ああ……あっあ、あああああ…………!!」

 思わず、という感じで甘い声を上げながら、太腿を強張らせ、下腹をタオルに擦り付けるようにして身悶える。あれを快感でないと見るのは無理がある。

 百合は最後の仕上げとばかりに沙綾香の足首を掴み、脹脛を押し潰し、その圧のままに腿から尻肉にかけてを手の平の付け根で擦りあげる。

「くああああああぁっ!!!」

 沙綾香の喉から、格別に大きな声が上がった。つい数週間前までの彼女なら、カラオケぐらいでしか出さなかっただろう声量。今ではそれを、臀部の刺激で発してしまっている。だが、責められない。膝から下が哀れなほど力み、足のつま先がシーツに食い込んでいるのを見ると、声ぐらい上げても仕方ないと思えてしまう。

「はぁーっ、はぁーっ、はーーぁっ…………!!」

 荒い息を吐く沙綾香の身体を、百合が反転させる。目の錯覚かもしれないが、沙綾香の股座とタオルが離れる瞬間、光る筋が見えた気がした。

「あら、こんなに? お尻のマッサージだけで何度達したの?」

 タオルの一部を見つめながら、百合が問いかける。問われた沙綾香は、両手を目の上に重ねながら、まだ荒い息を吐き続けていた。

「せ、先輩……きつい、です……。少し、休ませて、ください…………」

「何を言っているの、まだまだこれからよ」

 クールダウンの要求を拒み、百合はとうとうクリトリスに狙いを定めた。中指と人差し指で挟み、根元から上へ優しくなぞる。同時に割れ目にも、ごく浅く指先を沈めていく。

「うっあ……はあっ!!」

 沙綾香から漏れる声は甘い。百合の指先が“摘む”動きをしている時点で、クリトリスは勃起しているようだ。浅くくじられる割れ目からも、すでに水音が漏れている。

「足を閉じなさい」

 百合はそう囁き、沙綾香のすらりと長い両脚を揃えさせる。それから、また改めてクリトリスを扱きはじめた。

 ソフトな動きだ。俺の位置からでは、クリトリスの上にただ指先を置き、じっとしているようにしか見えない。だが、間違いなく刺激を与えているらしい。

「……ふっ、ふっ…うぅ……。んふ、ふうっ…ん、んっ…………!」

 下唇を噛んだ沙綾香の口からは、鼻を抜けるような声が漏れつづけている。太腿も、ふくらはぎも、足指も、けして派手ではないが、電気で痺れるような動きを見せ続けている。

「どう、気持ちいいでしょう。クリトリスは敏感だから、こうやって時間をかけて、優しく丁寧に刺激してあげるのが一番なの。ガラスのコップに、一滴一滴、快感が溜まっていくのをイメージしなさい。そのコップが一杯になってあふれた時には、今までにないくらい気持ちよくなれるわ」

「そ、そんな……先輩、怖いです……。このまま気持ちよくなりすぎると、自分がなくなりそうで……」

「リラックスなさい。難しいことなんて、何も考えなくていいの」

 若い女性同士の、素肌での触れ合い。絵面こそ美しいが、やっていることは洗脳だ。ガスの効果で心を乱しているところへ、愛撫と共に安心感を与え、快楽中毒にするつもりか。

 『コップの水』は、着実に溜まっていく。最初の兆しは、沙耶香の左手が頭の横に置かれ、控えめにシーツを掴みはじめたことだ。そこからさらに数分後には、明らかに息が荒くなり、下腹がヒクヒクと上下しはじめる。

「……い、いく……い、いきそういきそう……っ!!」

 ついに、絶頂の訴えが声になった。すると、クリトリスへの指の宛がわれ方が変わる。鉤状に曲げた中指を引っ掛ける形だ。

「頃合いね、後は絶頂するだけよ。変に我慢せず、開放感に身を委ねなさい!」

 そう言って百合はクリトリスを一気に責め立てる。中指の腹を使い、クリトリスの根元から先端にかけて……男の亀頭でいうところの『裏筋』の部分だけを力強く擦り上げていく。

「うあっ! あ、お……ほっ、おっ、おっ、おおっ…………!!!」

 沙綾香から漏れるのは、格別に濃い快感の声。愛らしさはない代わりに、真実味に満ちている。

 そして、その次の瞬間。とうとうコップの水があふれだした。

「っくぁあああああ゛あ゛ーーーーっっっ!!!!」

 沙綾香は悲鳴を上げながら、盛大に潮を噴く。顎を浮かせ、持ち上がった足先をピンと伸ばし、百合の指先で寝台にピン留めされたような格好だ。

 どすっ、と重い音を立てて、沙綾香の頭と踵がベッドに降りる。聴こえてくる呼吸は、遠泳でも終えた直後のように荒い。

「はあ、はあ、はあ、はあっ……こ、こんなイキ方、初めて……おしっこ、全部漏れちゃったみたい…………」

「大丈夫。これは潮よ、アンモニア臭がしないもの」

 百合は潮の浴びせかかった沙綾香の脚を撫で下ろす。今の沙綾香は、それだけで膝を揺らした。

「絶頂する時に潮を噴くのは、とてもいい傾向よ。潮噴きは男を楽しませるためのパフォーマンスなんて声もあるけれど、私はそうは思わない。潮が出るとショックでしょう、感覚的には失禁と変わらないもの。だから潮噴きを伴う絶頂は、そうでないものより、ずっと深く記憶に刻まれるの。それは、女の本当の喜びを知るための近道よ。私は、絶頂するたびに潮を噴くようになってから、はっきりとした多幸感を味わえるようになったわ」

 百合が多幸感を味わっていたのは事実だろう。映像内のある場面で、彼女は幸せに満ちた表情を浮かべていた。だがそれは、何を口走っているのかも認識できない、自我を失った段階においてだ。

「だから貴女も、潮を噴きやすい体質にしてあげる。それが先輩としての役目だもの」

 百合はここで初めての笑みを見せる。卑劣な笑みだ。優しさの仮面を被った知人を、沙綾香のような良い子が拒めるはずもない。

 せめてもの救いは、俺と視線が繋がった沙綾香の眼に、まだ力があることだ。

 みすみす快楽に溺れたりしない。ベッドに横たわったまま俺を見るアーモンド型の瞳は、確かにそう訴えていた。




                 ※




「次は、膣のスポットを開発するわ」

 百合はそう言って、沙綾香に這う格好を取らせた。そして足を肩幅に開かせてから、割れ目に2本指を挿し入れる。

「ん!!」

 指が第二関節まで入った辺りで、沙綾香が顔を顰めながら呻いた。針でも刺さったような反応だ。

「膣粘膜が痛んでいるのね。可哀想に」

 百合は一旦指を引き抜き、近くにあった小瓶を手に取った。瓶の蓋を開けると、薄桃色のクリームのような中身が覗く。百合はそれを指で掬い取ると、改めて沙綾香の膣へと指を沈めていく。

「ふん…………っん、あれ……?」

「今度はどう、痛い?」

「い、いえ……急に痛みが和らぎました」

「そうでしょう。粘膜の傷によく効く軟膏なの。ハードプレイの後でも、これさえ塗っておけば大丈夫よ」

 百合はそう言って指の関節を曲げる。今までは膣壁をなぞっていただけだが、今度は特定のスポットに狙いを定めたらしい。

「あっ!!」

 沙綾香がまた声を漏らした。快感の声だ。

「いい声ね。もっと聴かせてちょうだい」

 百合はそう囁きながら、指の動きを早めていく。ピアニストが鍵盤を叩くような指使いだ。

「ん、あ、あ……あはっ、は、はっ……! んくっ、あああ……っ!!」

 沙綾香から漏れる声が甘くなっていく。百合の巧みな技を受けている以上、何の不思議もない。

 くちゅくちゅくちゅくちゅ、という水音が繰り返される。そんな中、沙綾香の上体が崩れた。枕に顔を突っ伏し、腰だけを上げる格好だ。

「それでいいわ、リラックスできる姿勢で浸りなさい」

 百合はそう言って目を細め、左手で軟膏を掬い取ると、今まさに右手で刺激している割れ目へと沈めていく。手の甲が半ば隠れるほどの深さまで。

「あっ!?」

「きついかしら? 両手の指が、合わせて6本も入っているものね。でも、もっともっと拡がるはずよ。貴女、とても良い筋肉を持っているもの」

 百合はさらに指入れを続ける。指圧をする整体師のように、肩を高く張りながら。

「あっ、あ、あ……ふあ、あっくっ……んん、あっ……!!」

 沙綾香の声はさっき以上に甘い。沙綾香自身もそれを自覚しているらしく、やがて彼女は抱きかかえた枕に顔を埋めた。それでも、まだ声が殺しきれない。

「う゛、うう゛っ! うむうう゛、ふ、うんうう゛っ!!!」

 百合の両手が膣の中で蠢くたび、腰が上下に揺れ、くぐもった声が漏れる。

「ここも感じるでしょう?」

「力加減はどう? もう少し強くした方がいいかしら」

 百合は巧みに指を動かしつつ、何度も沙綾香に問いかけていた。

「はっ、はっ……い、良いです……」

「つ、強くしないでください……。今でも、十分……んんんっ!!」

 沙綾香は問いに答えるため、何度も枕から顔を浮かせなければならない。そのたびに彼女の腕はぶるぶると震え、喘ぎも酷くなっていく。百合はそうした反応を見下ろしながら、あくまで冷静に責め続けていた。その果てに、とうとう沙綾香の腰が高く浮く。

 そして。

「んっ、ふううう、う゛……あ、かっ、んんあ゛ああ゛ッ!!」

 沙綾香は嬌声を上げながら、盛大に潮を噴いた。水風船を針で突いて破裂させたような勢いだ。潮は敷き詰められたタオルの上に降り注ぎ、かなり広い範囲を変色させていく。

「あらあら、すごいわね。膣の中を刺激されて絶頂できるってことは、もう粘膜の痛みはなくなったのかしら」

 百合は雫まみれの指を引き抜きながら、沙綾香に問う。

「はあ、はあ、はあ…………はい、お陰様で…………」

 沙綾香は息も絶え絶えだ。あれだけの潮噴きをした直後となれば、かなり体力を消耗しているに違いない。

 だが、百合には沙綾香を休ませるつもりなどないようだ。

「それは良かったわ。じゃあ、次に行きましょう」

 百合はそう言って沙綾香を抱き起こしつつ、背後から腕を伸ばす。右手が狙うのは割れ目、左手が狙うのはクリトリス。マッサージの総決算ともいうべき2ヶ所責めだ。

「あ……あ! あっは、はぁァ……っあ!!」

 百合の左手がクリトリスを扱くたび、右手がスポットを押し上げるたび、沙綾香の声量が大きくなる。十分に目覚めた性感帯……それを2つ同時に責められれば、昂るのはあっという間だ。

「あぁあ!……あ、あっ!!」

 切羽詰まったような声と共に、沙綾香の両脚がぶるりと震えた。絶頂だ。

「“イッた”のね、沙綾香?」

 百合の確認に、沙綾香が頷く。かなり深い絶頂だったのか、声を出す余裕もないらしい。その様子を見て、百合の口元が吊り上がった。

「そう、良い子ね。でも次からは、イク時はイクと宣言なさい。自分の絶頂宣言を耳で聴くことで、『絶頂している』という認識を強めるの」

 そう囁きながら、両手の指を蠢かす百合。相も変わらず巧みで繊細な指使いだ。

「ううっ! せ、先輩! い、今イッたばっかりで、まだ敏感……あ、はあっ!? あっ、あぁあっ、あっ!!!」

 沙綾香は、最初こそ抗議していたが、すぐに喘ぐばかりになる。そして数秒後、大口を開けて叫びながら、また足を震えさせた。

「駄目よ沙綾香、イク時はイクと言いなさい」

 百合は叱りながらも指の動きを緩めない。けして激しい動きではないが、悪寒に震えるような沙綾香の反応を見る限り、完全にツボを押さえた責め方のようだ。

「あ、はっ、はっ……い、イキますっ、イキ、ますうっ……!!」

 事実沙綾香は、2度目の絶頂からわずか4秒で、次の絶頂へと押し上げられてしまう。百合の唇の角度はますます上がった。狙い通りと言わんばかりだ。

「どう沙綾香、気持ちがいいでしょう。こんな愛撫ができるのは、同じ女だけよ。『先生』とか言ったかしら。あの人よりも、私の愛撫の方が感じるんじゃない?」

 百合はそう言って、不意にこっちを見上げてくる。

「いくら慣れていたとしても、男は女の反応を窺いながら責め方を覚えていくしかないもの。自分自身で女の感じ方を実感できない以上、女を本当に満たすことはできないわ」

 明らかな挑発だ。確かにあの女の指使いは巧みだし、沙綾香の反応を見ても、俺よりテクニックが上というのは真実味がある。だが、だからといって認められるわけがない。沙綾香が、俺以外の人間の手で、俺の時以上に感じているなんて。

「クソッ!!」

 悔しさのあまり歯噛みする俺を見て、百合はいよいよ愉快そうな顔になる。

 沙綾香の唇が静かに開いたのは、そんな時だった。

「……先輩」

「ん?」

「あの人を、悪く言わないでください。」

 汗にまみれた顔を上げ、強い口調で告げる沙綾香。俺と百合は、同時に目を見開いた。

「どうして庇うの? あなたまさか、本当に……」

「…………好き、なんです」

「!」

 迷いなく言い切られた答えに、百合が息を呑む。

「ヘンに思われるかもしれないけど……本当に好きなんです。初めて好きになった人なんです」

 沙綾香は百合の方を振り返りながら、さらに続ける。

「そんな。それはセックスを通した錯覚で──」

「違います!」

 百合は珍しく焦りを浮かべ、必死に諭そうとする。だが、沙綾香はそれを切って捨てた。ついさっきまでの委縮した態度が嘘のようだ。

「センセは……変わってるんです。見た目はいかにも出来る人って感じで、ナルシストっぽい感じもするのに、実はどこか抜けてて、変なぐらい優しくて。そういう一面を見てるうちに、どんどん興味が湧いちゃって……気がついたら、同じ部屋にいるあの人の事を、ずっと考えるようになってました。最初は、ガスで発情してるせいかなとも思ったんですけど、抱かれてみてわかったんです。私は本当に、あの人のことが好きになってたんだって」

 沙綾香はそう言って、何度か瞬きを繰り返す。まるで、涙を閉じ込めるように。

「可愛い、好きだ、って囁かれるたびに、あったかい気持ちになれました。センセと肌で触れ合ってるうちに、初めて自分のことが好きになったんです。……ずっと、自分が嫌いだった。お父さんの言いなりになってる自分も。期待に応えなきゃって無理してる自分も。家を出てから今風な子を目指してみたけど、そうなりきれない中途半端な自分も。だけど、センセに可愛いって言ってもらえる自分だけは好きになれた」

「………………」

 沙綾香の語る言葉を、百合は黙って聞いていた。表情はない。だが、言葉そのものには興味を示しているようだ。

「あたし……センセのことが好き。センセのためなら、死んだっていい。センセ、今でも上の部屋に閉じ込められてるから、どうにか助けたいんです。あたしはどうなったっていいから。センセだけは…………!!」

 沙綾香は震える声でそう言うと、ついに目を覆って泣きはじめてしまう。そんな姿を見るのは、俺だってつらい。胸が引き裂かれそうだ。

 百合は、どうなんだろう。同じ女として、同じ奴隷として扱われた身として、思うところはないんだろうか。

「…………だったら、耐え抜きなさい。どんな快感の波にも呑まれずに。どこまで深い闇に堕ちても、自分を見失わずに機会を待つの。ここに囚われた女にできるのは、それだけよ」

 百合はそう言って、沙綾香の細身を抱きしめた。判断に迷う言葉だ。沙綾香を応援する意味でのエールとも取れるし、逃げ道を塞ぐ悪魔の囁きにも聴こえる。


「惚れた男のために、か。泣かせるじゃねえか」

 手越がそう言って、沙綾香達のいるベッドに近づいていく。沙綾香は慌てて足を閉じようとするが、百合が膝を押さえてそれを阻んだ。

「だが純情ぶる割にゃ、ずいぶんと気持ちよく濡らしてるじゃねぇか。マンコがヒクヒクしてるぜ、男の物を欲しがってよ!」

「ち、違う! クリとGスポット刺激されて、まだ痙攣してるだけだって!!」

 手越の指摘を、沙綾香は必死になって否定する。ちらっと視線が上向いたのは、俺の存在を意識しているからか。

「ほー。んじゃお前は、淫乱じゃねぇってことだな?」

「あ、当たり前じゃん!!」

 続く言葉も、沙綾香は否定するしかない。それが手越の狙いだとわかっていても。

「だったら、証明してみせろ。十番勝負の2回目だ」

 手越はそう言って、ロドニーに合図を送る。するとロドニーは、部屋の端でセンサーを作動させた。扉が開いた先にいたのは、例の10人の黒人。どいつも目をギラつかせ、待ちきれないとばかりに股間を膨らませている。

「やる事は一回目と同じ、あの連中とのセックスだ。だが、今度は一人あたり2時間相手をしてもらう。制限時間内に調教師側が精根尽き果てて、もうヤレねえってことになりゃお前の勝ち。2時間が経ってもまだヤラれてりゃ、お前の負け。この条件で勝ち越したなら、『先生』を地上に戻してやるよ」

「えっ……!?」

 手越の出した条件に、沙綾香が表情を変える。

「なにっ!!」

 俺は顔を上げて端塚を見るが、奴は涼しい顔で手越達の方を眺めているばかり。こいつの俺に対する執着心は異常だ、おそらく俺を開放する気などないだろう。だが、沙綾香にその判断はつかない。自分を開放するという条件なら嘘だと見抜けるだろうが、俺を開放する条件となれば、信じる余地がある。

「沙綾香、騙されるなっ! そんな約束は守られない!!」

 そう叫んではみるものの、向こうに声が届いた様子はない。

 沙綾香は、手越を見据えたまま押し黙っていた。

「やろうぜジャパニーズ、もう待ちきれねぇよ!!」

「ああ、コックが茹でたソーセージみてぇに破裂しちまいそうだ!!」

 黒人達が野次を飛ばす中、延々と悩み、考えた末に、顔を上げる。

「…………わかった。受けるよ、その勝負。その代わり約束して。沙綾香が勝ったら、先生のことは自由にするって」

「ああ、いいぜ。倶楽部に協力する気のねぇ元ボスなんざ、居ても邪魔なだけだからな。ここでの記憶だけ綺麗に消して、日の当たる世界に帰してやるよ」

 手越の返事を聞いて、沙綾香は安心したように息を吐く。そして目元を引き締め、決意を秘めた表情に変わった。

 

 勝負など受けてほしくはなかった。だが俺は、彼女を強く非難することはできない。

 もし、立場が逆だったら。

 俺が試練を与えられ、その代償として沙綾香を開放すると迫られたら。

 俺もやはり、悩みに悩んだ挙句、一縷の望みに賭けただろうから。

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Siti Dara

Hi. I’m Designer of Blog Magic. I’m CEO/Founder of ThemeXpose. I’m Creative Art Director, Web Designer, UI/UX Designer, Interaction Designer, Industrial Designer, Web Developer, Business Enthusiast, StartUp Enthusiast, Speaker, Writer and Photographer. Inspired to make things looks better.

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