『Shirayukihime to 7 Nin no Koibito』to iu 18 kin Otomege Heroin ni Tenseishiteshimatta Ore ga Zenryoku de Oujitachi kara Nigeru Hanashi chapter 70

恋人6、Dopey
 大気が死んだ様な不気味な静寂を破ったのはスノーホワイトだった。

「は、はああああああ!?けっけけけけけ結婚!?お前何言ってんの!?」
「いや、この際そっちの方が良くね?その方が色々捻るだろ」
「捻るって一体何が捻るんだよ!?」
「馬鹿、ここは俺に話合わせとく所だろうが」
「う……」

 ルーカスに小声で耳打ちされ鼻白むスノーホワイトを見て、私は我に返った。

(ああ、そういう事ね)

 私とした事がルーカスの言を本気にして一瞬思考が飛んでしまったが、すぐに彼等が意図している事を理解した。
 彼等は私同様、今まで通りここで生活を続ける事を望んでいる。そして私が油断してボロを出すか、上手く私から召喚主の事を聞き出す事を狙っているのだろう。
 しかしだ。先程私が彼等の前で抜刀した事もあり、ルーカスは私とスノーホワイトを二人きりにする事を恐れている。

―――それでも元の世界に帰りたいのならば、二人は私の傍から離れる事は出来ない。

 ルーカスは彼女と私を二人きりにするのを恐れているが、同時に自分が私からその事を聞き出す事は出来ないであろう事も理解している。もし私から召喚主の情報を聞き出す事が出来るのならば、それは自分ではなくスノーホワイトだと考えている。
 ルーカスはスノーホワイトを使って私から情報を探ろうとしているが、彼女が完全に私と二人っきりにするのは避けたいと思っているのだろう。
 彼等からすれば幸いな事に、この家には私の他に6人の男が暮らしている。
 彼等は隙あらば我が我がとスノーホワイトの隣に行く事を望んでいる事もあって、昼間は私とスノーホワイトが二人きりになるのは簡単に避けられる。

 しかし夜が来たらそうもいかない。

 七日に一度、私と彼女と二人きりで過ごす夜が来る。――…そして、それは明日だ。

 明日の夜、私達が二人きりになる事を恐れたルーカスがそれを避ける為の案を用意した。それが先程の”交際宣言”なのだろう。
 二人は口裏を合わせたはずだった。
 しかしスノーホワイトの反応を見ると、話が打ち合わせの段階と変わっているのだろう。
 抜け目ない騎士はこれを好機とみなし、このまま彼女と既成事実を作ろうとしている様だ。

「で、でも!付き合うって話だけだったじゃん!流石に結婚までする必要は……、」 
「お前一体いつまでこんな生活続ける気だよ?いい加減、そろそろ誰か一人を選んでおいた方が良いと思うけど」

 「うっ」とたじろぐスノーホワイトに騎士は一気に畳みかける。

「その点、俺なら気も使わないし一番楽だろ?目的も一致してるし」
「……で、でも!それでもないないないない、それはない!!」
「なんで?理由は?」

 断る理由が思いつかなかったのかスノーホワイトは押し黙る。
 勘の良い何人かが「目的?」と訝し気な表情を浮かべるのを見て内心まずいと焦るが、そんな私の胸中を他所に二人は続ける。

「ないならいいじゃん、俺と結婚しようぜ。――――……お前が何度転んでもいい、何度立ち止まってもいい。その分俺がお前の手を引っ張って走ってやるから。だから一緒に現世(いえ)に帰ろう」

 狼狽を顔に漂わせ、驚きのあまりに固まるスノーホワイトの手を取ると、男は彼女の手を握ったままその場に跪いた。

「姫、身分違いである事も不敬である事も百も承知で申し上げます。不肖この私、黒炎の騎士ルーカス・セレスティンにあなたを生涯守る栄誉をお与え下さい。私がこの命に代えてもあなたの事を守ります」

 そのままルーカスはスノーホワイトの手に口付けした。

―――それは紛れもなく求婚だった。

 ただ、今の求婚にはもう一つの意味が含まれてあった。

 しかしその事に気付けたのは、その場にいた私とスノーホワイト――…いや、ミウラ・アキラだけだろう。

 空気どころか時間までもが凝結したような静寂の中、部屋に冷気が漂い出す。
 私をはじめとした何人かが「何だ?」と視線を冷気のする方へ向ければ、その発生源は真顔のまま固まっているイルミナートと、脱力のあまり肩を落とし、虚ろな目で二人を凝視しているエルヴァミトーレが冷気の発生源だった。
 魔力を持つ者が感情的になるとその体の内から魔力が漏れ出す現象がある。
 彼等の魔力の属性は水だ。だから冷気が漏れたのだろう。
 イルミナートの周りからは肌に粘つく潮風の様にひんやりとした空気が満ちており、氷魔法を主とするエルヴァミトーレの体からはブリザードが吹き荒れていた。

 次の瞬間、パリン!と音を立てて家全体が凍り付く。 

 パンを焼いていた薪ストーブまでもが凍り付き、薪の炎が立ち消えて中のパンまでもがカチカチに凍り付いた。

「ケッコンって、……ルーカスがこの先ずっとスノーホワイトを独り占めするって事だよね?」

 その時、薪ストーブの前でパンが焼けるのをずっと待っていた男がゆらりと立ち上がると、二人の前に立ちはだかった。
 喜怒哀楽が激しく、いつも子供の様に目まぐるしく表情がコロコロと変わる騎士――ヒルデベルトの顔には、今日は珍しく感情の色がない。
 ルーカスは立ち上がると膝の埃を払いながら、彼にまっすぐ向き合った。

「おう、そうだ。――――…つかさ、お前等何か勘違いてるみたいだから、前から言いたかったんだけどよ。こいつは前世から俺のもんだから。人の(スケ)に気安く触ってんじゃねーよ」

「前世?……ああ、そうか。ルーカス、君は…、」

 ヒルデベルトの眼が赤く光り出す。

「お、おい、何言ってんだお前」
「いいからスノーちゃんは黙ってて。ここはオニーサンに任せとけって」

 ルーカスがスノーホワイトの細い腰をグッと抱き寄せて、唇まで彼女の唇に寄せた、まさにその時――、

 パン!と何かが弾け飛ぶ。

グオオオオオオオオオオオ!!

 それはヒルデベルトの着ていた服が破れる音だった。

「へえ、な~る。ヒルデベルト、それがお前の本性ってワケか」

 突如家の中に出現した銀色の狼に、ルーカスはスノーホワイトを自分の後に下がらせて抜刀した。

「道理で鼻が利くワンコ君だと思ったわ!」
「る、ルーカスさん!剣をしまってください!!ヒルも元に戻って!!?」

 スノーホワイトは止めるが、牙を剥き襲い掛かる銀狼にルーカスは斬りかかる。
 三人に一歩遅れて、エルヴァミトーレが素っ頓狂な声を上げた。

「な!なんでこんな所に森の主が!?」
「はあ、ついにバレてしまいましたか。……アレはヒルデベルトです」
「あ、ああ、なるほど。だからこないだスノーホワイトが畑の泥棒がヒルだって言ってたのか、……って、えええええええ!?知らないの僕だけなの!?なんで皆知ってるの!!」

 溜息を付きながら頭を抑えるイルミナートは冷静さを取り戻したらしく、彼の周りから冷気は消えているが、エルヴァミトーレの周りには未だ氷の塊がフヨフヨが浮かんでいる。

「いいえ、私も知りませんでした。姫様、危険です」
「ありがとう、メルヒ。……って、待て待て待て待て!!銃は駄目!!銃はまずい!!」

 猟銃を手に取り構えるメルヒ殿をスノーホワイトが慌てて抑えるのを見て、イルミナートがこちらを振り返る。

「アミール様、”幽魔の牢獄”を」

 イルミに急かされて私は我に返った。
 このままメルヒにヒルデベルトが撃たれたらまずい。家中が凍り付き、室内で戦闘が始まっている現状、既に色々とまずい。
 獣形態に戻ったヒルデベルトは二階建てのこの小屋から頭が飛び出す大きさはないが、少し動けば家具が吹き飛ぶ程度の大きさはある巨大な魔狼なのだ。
 さっきからテーブルや椅子が壁を突き破り、外へと吹き飛んでいる。

「幽魔、準備はいいかい」
『了解しました、アミール王太子殿下』

 私は腰にかけた国宝の神剣を抜くと、柄の石の部分を額にあてて目を閉じる。

「終末の日、太陽が消えた日、月を喰らいし貪欲な狼よ
 三度目の冬、きらめく星々が大地に墜ちた日、
 天と空もを切り裂いて 神々の玉座と血潮で染めた(いにしえ)の邪神よ
 盟約より幽冥への道を辿り 今我が元に来たりて
 怒れる獣を盈虚宮(えいきょきゅう)の牢獄へ導きたまえ!」


****


 ヒルデベルトを幽魔に閉じ込めた後は、丸一日をかけて家の修繕作業と大掃除に励む事となった。
 普段はこの手の事に協力的ではないイルミナートも今夜の寝床がないのは流石に困るからなのか、それとも他の恋人達と同じく体を動かしたい気分だからなのか、珍しく手伝ってくれた。
 皆黙々と働いた。
 誰もが必要最低限の話しかしなかった。
 先程ルーカスがしたプロポーズについて何か言う者はいなかった。

 余談になるが日曜大工が得意らしいメルヒ殿がここで大変役立ってくれた。
 元々今私達が住んでいる山小屋(ログハウス)は年季が入っており、外壁には苔が生え、丸太自体も随分と黒ずんでいた。
 そこでメルヒ殿がが森から刈って来てくれた丸太を使って、とても良い具合に家を修繕してくれたのだ。
 内装だけなら新築同様だ。
 なんでもメルヒ殿は純粋に丸太だけを組んで小屋を作った経験があるらしい。
 以前よりも趣のある家になった事に私は関心した。

 流石に一日で完成までは至らなかったが、今夜の寝床をどうにかする程度に山小屋(ログハウス)が片付いた時には、午後の光は既に薄らいで夕暮れの気配が辺りに漂っていた。
 午後の穏やかな陽だまりの記憶が薄れ行くにつれ、森の空気が冷え込み肌寒くなって来た。

(私の姫君(スノーホワイト)は……?)

 ふと彼女が肌寒くはないだろうかと心配になった。

(シュガー)、寒くはないかい?……少し汚れていて悪いけれど、これを羽織ると良い」

 小屋から少し離れた場所にある、獣避けの外壁の傍で箒でゴミを掃いていたスノーホワイトを見付ける。
 私はすぐさま駆け寄ると、自分の着ていた上着を脱いで彼女の肩にかけた。
 彼女は少しだけ困惑した様な表情を浮かべた後、「ありがとうございます」と言ってふわりと微笑んでくれた。
 美の女神も裸足で逃げ出してしまう様なその微笑みに、体の疲れが一気に吹き飛ぶ様だった。
 本日最後の日差しがスノーホワイトの後にある白壁から照り返して、彼女までもを茜色に染め上げる。
 何人か私に先を越された事を知り不貞腐れた顔をする恋人達の姿を見付けるが、今はそれに苦笑する気も起きなかった。

「そうだ! 僕、お茶でも入れてきますね!」

 額の汗を拭い、パタパタとエルヴァミトーレが小屋の中へと消えて行く。
 イルミの弟にしては可愛い顔をしているが、意外にあれも好戦的だ。私に先手を取られたので、自分も何かスノーホワイトの為になる事をしなければと思ったのだろう。
 室内から聞こえたクシャミの音と盛大にガラスが割れる音に、私達は顔を見合わせる。 
 家が半壊した際に埃など色々な物が舞ったせいだろう。今日一日中ずっとクシャミをしていたエルヴァミトーレの目は赤く、涙目だった。
 いつもは私や弟、スノーホワイトが入り終わるまで風呂は遠慮する彼だが、今日は早めに入らせてやった方が良いかもしれない。

「大変!私手伝って来きます!」
「ならば私も行こう」

(故意なのかどうか微妙な所だが、これは一本取られたな)

 やれやれと肩を竦めながら走り出した彼女の背中を追いかけようとした時の事だ。

「で、答えは?―――…今日一日考えられただろ。そろそろ教えてくれてもいいんじゃねぇの?」

 その時私達の前に立ちふさがった男の影に、私の目は自然と鋭くなる。

「ルーカス」

 スノーホワイトが口を開く前に私達の前に割って入ったのは、あの騒動があってからずっとむっつりとした顔で口を閉ざしていた弟のエミリオだった。

「お前の主として、――…いや、この国の王子としてお前に大事な話がある」
「は?悪いですけど、こればっかりはエミリオ様でも……、」
「まずは僕の話を聞け。聞いた上でもう一度彼女に求婚すれば良い。その時は僕も彼女を愛する一人の男として、誠心誠意お前に向き合ってやる」

 ルーカスはスノーホワイトを置いていく事を躊躇っていた様だったが、弟はすぐに私達から背を向けると、森の方へと一人ですたこらさっさと歩き出す。

「こ、困りますよエミリオ様!」
「ルーカスさん」

 スノーホワイトが大丈夫だと言う様に小さく頷いて見せると、ルーカスは既に背中を向けて歩き出した主の背中と彼女の顔を見比べて嘆息した。

「へいへい、分かりましたよ王子様」

 今は他の恋人達もいるし、私も落ち着きを取り戻しているので少し位ならばここを離れても大丈夫だと思ったのかもしれない。
 騎士は長い三つ編みを指ではじいて背中に流すと、弟の後を着いていく。

(まさか、話す気なのか…?)

「エミリオ」

 弟を呼び止めると、彼は足を止めると私に背中を向けたまま答えた。

「悪いな、アミール。これは僕の部下の不始末だ」
「待て、言うつもりなのか」
「安心しろ、口止めはする」
「そういう問題ではない」

 夜めいた匂いのする風が、魔獣の雄叫びの様に轟々と哮りながら私達の間を吹き抜ける。
 木々の梢を吹いて私達の体を激しく打ち付ける風の中、弟は毅然とした瞳でこちらを振り返った。

「お前はお前で自分の部下達の方をどうにかしろ。――…僕がお前と直接決着をつけるのは、それからだ」
「お前の方は好きにすれば良い。しかし私はあの事を彼等に話すつもりはない」

 弟とルーカスの間には確かな信頼関係がある様に見えるが、私とイルミを始め他の部下達の間にはそこまで大層な物はないのだ。
 そりゃイルミとヒルデベルトとはそこそこ長い付き合いではあるが、スノーホワイトの事は誰も一歩も引くつもりはない。イルミとはあれ以来険悪なままだし、ヒルデベルトなんて今はこの通り剣の中だ。エルヴァミトーレとはここに来るまで話した事もなかったし、メルヒ殿など先日出会ったばかりだ。

「お前が話さないと言うのならば、あとで僕が皆に話す。お前がスノーホワイトの前で格好を付けたいがあまり、自分たちのそ知らぬ所で命の危機に晒されている民の身にもなってみろ」
「…………。」

 今、自分が死ねば自国は滅びるであろうと言う自覚があるだけに耳の痛い話だった。

 同時に弟の今の言は彼が私の事を信じているからこその言でもあるのだ。少しだけ罪悪感が沸いた。
 少なくとも弟は私がスノーホワイトを幽魔で閉じ込めたり、邪魔なライバル達を手に掛ける様な人間ではないと思っている。――…しかし、実際の私は彼女を手に入れる為ならば何だってするし、今までだって現に何でもやってきたのだ。


****


 リンゲインに婿入りするはずだったエミリオがスノーホワイトとの顔合わせから逃げたあの日、私は弟の妃になるはずだった姫君のエスコート役を父から頼まれた。
 大人達が大人の話している間、私は彼女をルジェルジェノサメール城の中を案内した。

 一目惚れだった。

 城の案内している間、鼓動がずっとドキドキと高鳴りっぱなしだった。
 すぐに彼女と打ち解けた私は、(うち)の庭で巣作りしている雲雀の卵を彼女に見せてあげたくなった。
 そろそろ孵化しそうなその卵を弟とそっと覗きに行くのが、当時の私の数少ない娯楽だったのだ。
 しかし、残念な事に彼女を案内して良いのは城の中だけだと言われている。
 嘆く私に白雪姫(スノーホワイト)も「残念です、私も見てみたかった」と言う。
 しょんぼりする彼女を見ていたら、普段の私らしくもない、子供らしい悪戯心が芽生えた。
 私は彼女を抱き上げると三階の窓から木を伝って庭に飛び降りて、護衛達を撒いた。

 天使の庭に着くと、草の根元にある枯れ草で作った雲雀の小さな巣の中で卵が割れ出した所だった。

『すごい、卵が孵りました!』
『まさかこの瞬間を君と一緒に眺める事が出来るとは思わなかった、もしかして君は幸運の女神なの?』
『もしかしたらそうなのかも。またこの子達に会いに来ても良いですか?』
『喜んで。――これからは、毎年夏のバカンスのシーズンになったらうちに遊びにおいで。君に見せたい物がまだまだ沢山あるんだ』

(――――…弟がいらないと言うのならば、私が貰おう)

 私はその後、父に隣国の姫君を糧に外に連れ出した事を大層叱らる事になる。
 しかしその程度の事で私が懲りる訳がない。私はその夜の晩餐会の席で、父とリンゲインのローレンス国王陛下に「スノーホワイトを私の妃にしたい」と直談判をした。
 当初はエミリオがリンゲインに婿入りする事が予定されていたが、弟の代わりに私がリンゲインに行くのではなく、彼女をこちらの妃に迎え入れる事を望んだ。
 何故ならば、新しく父の妃になったフロリアナがロルフを次期国王へしようと暗躍を始めた時期だったからだ。
 私がリンゲインに婿入りすれば、この国はウンディーネの血を引かない人間に乗っとられてしまう。 それだけは絶対に避けなければならない。
 ウンディーネが長年リゲルブルクに加護を与え続けて来たのは、自分と自分の愛した男の子孫の国だからと言うのが一番の理由だ。ウンディーネの加護を失うと言う事は、数千年の乾き――つまり、リゲルブルクの滅びを意味する。
 外部から王室に入った父はこの辺りの事情に疎く、全く役に立たないのがまた痛かった。

 リゲルブルクの第一王子の私がリンゲインの第一王女の彼女を自分の妃に迎えたいと言っても、最初は大人たちは鼻で嗤って相手にしなかった。
 それでもローレンス国王達がルジェルジェノサメール城に滞在中に必死に食い下がり続けた甲斐もあって、どうやら彼にも私の本気が伝わったらしい。

 ある日の食事の席で彼は言った。

『幼き王子よ、リンゲインの跡取りは王女(スノー)一人しかおらぬのだ。されど私は新しい妃を迎え入れるつもりはない。亡き王妃(ミュルシーナ)の事を愛しているから』
『ゴードゥン族の長の首をリンゲインに捧げると言っても、ですか?』

 長年リンゲイン苦しめていた蛮族の長を討つと言った私に、会食中の大人達はどよめいた。

『ラインハルトよ、そなたの息子は随分と大それた事を言うな』
『やめなさい、アミール』
『父上のお手を煩わせる事はいたしません、私一人でボルボマーラの首を獲ってきましょう』
『子供のお前に一体何が出来る?』

 父は冷ややかな目で私を見ながらそう言うが、彼の前で感情を現さない事に慣れている私は何食わぬ顔で答える。

『もう私は12です、一人でその程度の事も出来ない様であれば所詮私はそれまでの男だ。大国を治める能も器もない。もし私が単身ボルボマーラの首を獲ってこれなかった場合、私が継ぐ予定の王位をロルフにでもロランにでもくれてやって構いません』
『あなた、ここまで言っているのだからアミールにやらせてあげても良いのではなくて?』
『……フロリアナ』 

 私の想像を裏切らずフロリアナは喰いついて来た。
 喜々とした表情で父の肩にしな垂れかかる年若き王妃に父は嘆息する。
 王室(こちら)の醜聞はリンゲインにも筒抜けだろう。スノーホワイトが体調不良で今夜の晩餐会に出ていない事に、私は内心安堵した。
 同時に失敗したなと思ったが、何故かローレンス国王は興味深そうな目で私を見つめながら言う。

『まだ幼いそなたには娘を思う父の気持ちは解らぬだろうな。私の可愛い王女が欲しいのならば、蛮族どもの長の首だけでは足りぬ。バルジャジーアの剣王の首も持って来い』
『バルジャジーアの剣王デュランの首、ですか?』
『ああ、出来るものならな。それが出来たのならばお前はこのローレンスだけではない、そなたの父王ラインハルト以上の器だ。その時は私の可愛い白雪(スノー)だけでない、我が国土もそなたに受け渡そう。そなたがそれほどの傑物ならばリゲルと併合した方が我が国の為になろう』
『その言葉に嘘偽りはありませぬか、子供との口約束と軽視してはいませぬか?』
『私は約束は守る男だ、幼き王子よ』

 何を思ったのかは分からない。

 その日から、私にずっと無関心だった父が暇さえあれば私に剣の稽古をつけてくれる様になった。―――「剣王の首はそう簡単には獲れないぞ」と言って。 

 父の訓練は虐待ではないか?実はこのまま私を殺そうとしているのではないか?と思う程、痛烈を極めた。

 それから間もなくして、ボルボマーラの首を持ってリンゲインに赴くとローレンス国王は私が本気である事を悟ったらしい。

『なんでもたった一人で首を獲って来たらしいな。一体どんな魔法を使った?』
『食糧庫に火を放ち、そちらに注意が向いている隙に闇討ちしただけです』
『タイミング良く奴らの馬の全てが病に倒れている状態だったらしいが』
『天が私に味方してくれたのでしょう』

 頭を下げたまま臆面もなく答えたが、ボルボマーラの首を刈る1週間前、ボマーラの草原に馬に有害な寄生虫を放ったのはこの私だった。
 よって彼等のほとんどは逃げる事もままならず蒸し焼きとなった。

『流石はあのベルナデットの忘れ形見と言った所か、面白い小僧だ』

 王は喉でクツクツと笑う。

『未来の我が息子よ、剣王の首を楽しみに待っておるぞ』
『ええ、未来の義父上。……ところで私の姫君はいずこにおられるのでしょうか?未来の夫が遥々国境を越えてやって来たと言うのに、顔も見せてはくれないのか』
『私はまだお前の事を娘の婚約者と認めた訳ではない。大国の王太子とは言え、嫁入り前の娘をそうやすやすと年若い男と会わせられる訳がないだろう?』
『…………。』
『娘に会いたいのならば、早く剣王の首を取って来い』

 私はリンゲインから戻るとその足で真っ直ぐに父の執務室へ向かった。

「次は剣王の首を獲って来る、兵を貸して欲しい」と言うと、父は賛成もしなければ反対もしなかった。
 彼は書類から目を上げると、「二百の兵を貸す、グデアグラマ国境紛争を鎮めて来い」とだけ言った。
 もし鎮める事が出来るのならば、バルジャジーア侵攻に必要な数の兵を貸すと言う言質を父からとった私は、早速諜報員を放ち情報収集に励んだ。
 グデアグラマとは長年我が国とも友好関係を築いていた国だったが、最近は国家自体が貧しくなっているせいだろう。我が国との国境にあった鉄鉱山をかの国が実効支配したのがつい先日の事だった。
 場所が場所なだけあって兵を出しにくい場所でもあった。 
 グデアグラマが国境に配置している兵の数はおよそ六千。襲撃に合った際、サンティティエルの街から駆け付けるであろう兵の数はおよそ七千。まともにやったら勝ち目のない戦いであった。
 その時の私は、幽魔すら持っていなかったのだ。

 グデアグラマ国境紛争では、パブリックスクールで出会ったイルミナートが随分と役立ってくれた。
 卓上に広げた地図を見ながら、私は顎に手を当てる。

『まずは毒ガスを流して鉱山から兵を追い出すのが定石だと思うのだが、非道だと思うか?』
『いいえ、上策です。私もそれ以外に考えられない。異論はありません』
『ガスを流した後は出口と言う出口を塞ぐとして、……それで一体何百の兵が削れるか』
『諜報員の話によれば鉱山内で見張りをしている兵の数はさほど多くはない。まあ、四百削れれば良い方でしょうね』
『どれだけの間、表の兵に鉱山内の異変に気付かせないでいられるかだな…』
『なるべく即効性のあるガスを使う予定ですが鉱山内部は広いですからね。うちの女を使い、酒を振る舞いましょう。男しかいないむさ苦しい場所に美女を投入して酒を振る舞えば多少の時間は稼げます』
『問題はその後だ、五千六百の兵をたった二百の兵でどうする?』
『サンティティエルから援軍が来るまでの時間がおよそ三日、つまり三日以内に片付ければ良いだけです』
『それでも戦力は二十八倍だ、まともにやったら勝ち目はない』
『ならばまともにやり合わなければ良い』

 イルミナートの指がベーレ川を指す。

『ベーレ川の上流は我が国にある』

 悪人にしか見えない友人の笑みにハッとする。

『川に毒を流すつもりか?』
『まさか。今の時代そんな事をやったら国際社会から袋叩きに合いますよ。それよりも何よりもグデアグラマを我が国の物にした時に仕事が増える』
『……となると、水を塞き止めるのか』
『正解です』

 それから私達は二百の兵を使い、リゲルブルク内にあるベーレ川に堰を作った。

 夏だった。

 川を塞き止めると、すぐに川は干上がった。
 水の引いた川の上で魚達が跳ねている。死に行く魚達と水辺の生き物達から漂う腐臭に顔を顰めながら、雲雀の雛達が孵化したのを見て大はしゃぎする彼女の笑顔を思い出した。ぼんやりと「あの子が見たら泣くだろうな…」と思いながら、罪を犯した訳でもないのに私達人間のいざござに巻き込まれて死んでいく生き物達を見つめていた。

 しかしこれが覇道ならば、私は突き進むしかないのだ。

 遅かれ早かれ、私は血濡れた道を歩く事になるだろう。――無血の王などいない。戦乱の時代、玉座に座ると言うのはこういう事だ。

 その後私達はすぐに鉱山に毒ガスを流した。
 向こうはパニックに陥り、死傷者以上に離脱兵も出た。
 最終的にグデアグラマの兵は四千を切った。
 しばしして向こうの兵達に全ては私達の仕業だと気付いた様だったが、それでも私達は自国の領土にある川に堰を作り、乗っ取られた鉱山から兵を追い出しただけなのだ。向こうにどうこういう言われる筋合いはない。
 ベーレ川のすぐ傍には我が国の新兵訓練基地街マル・バーチンがあり、二万の軍隊が常駐していると言うのもミソだった。
 新兵訓練基地街とは言っても、マル・バーチンに常駐している兵の半数が正規の兵だ。新兵達も戦争に出た経験がないだけで、いざ出陣となれば正規の兵として戦う事の出来る兵達である。
 もしグデアグラマの軍隊が国境を越えれば、私達二百の兵とマル・バーチン二万の兵を相手にする事となる。
 グデアグラマの軍師はイルミナートの読み通り堰を破壊する事を諦めた。
 そして彼等は近隣の村の井戸を支配する様になる。
 水がなくなれば農作物は育たない。
 大地は干上がり、すぐに食糧難になり暴動が起こった。
 食料がないと兵の士気が下がる。
 この時点で向こうの兵の数は三千を切っていた。

 暴動に紛れて、私は二百の兵で国境を取り戻す。

 私達が国境を取り戻しても、東のサンティティエルから七千の兵は援軍に駆け付けてはこなかった。
 サンティティエルの街は、鉄鉱山のある街の北に位置する。川下の向こうも水不足で大変な事になっていたらしい。
 こうして私はパブリックスクールの夏休み中にグデアグラマ国境紛争を解決した。
 その後は抜け目ない父の軍隊がすぐに駆け付けて来て、国境からサンティティエルを実行支配した。そのまま父は一気に王城まで一気に攻め込んでグデアグラマは我が国の国土となったそうだが、それはただの|学生(抜け作)に戻った私の知る所ではない。
 私とイルミは残り少ない夏休みを満喫する為に、私が知人から譲り受けた森の別荘に避暑に行き、そしてそこで半人半獣のヒルデベルトを拾う。

 その後、グデアグラマ国境紛争に多大な貢献を果たしたと言う事で、イルミナートは我が国最年少の宰相となった。
 彼の功績を父に報告し彼を推しに推しまくったのは無論私だ。ここでは自分の息子を自分の跡継ぎにしたいイルミナートの父親が私の良き味方になってくれた。
 今ルジェルジェノサメールの高官のほとんどがフロリアナ派だ。イルミナートの父親ですらそうだった。
 しかし新しい宰相が私派となると、城内でも次期王位後継者の権力闘争図が変わって来て、私は随分と動きやすくなった。

―――そして次に私はバルジャジーア侵攻を開始した。

 「学業に支障が出ない様に」と言う、父のもっともらしい命令に従うしかないのがまた悲しい所だ。
 計画は次の冬休みになった。
 しかしこのバルジャジーア侵攻は、たった三日で失敗に終わる事になる。

 父の命により、私の指揮する軍は全軍帰還する事になったのだ。

―――そう、ホナミが現れた。

 進軍するには金がかかる。
 日夜遊び暮れ散財するホナミに、バルジャジーア侵攻は中止せざるを得なくなったのだ。

 おとりとして送り込んだ扇動部隊が窮地に陥った所に、敵軍の背後から奇襲をかけるつもりだった本軍を出す事が出来ず、私は二千の兵を失った。――あの時の無念を、恐らく私は一生忘れる事は出来ないだろう。

 私はきっとホナミを殺すだろう。
 それを邪魔をするのなら私は血を分けた父でも殺すだろう。母の遺言に従い、何よりも可愛がってきた弟でも殺すだろう。

 今までだって自分前に立ちはだかる敵は容赦なく殺してきた。

(そして、これからだって……。)



「アミール様、どういう事ですか?」

 自然と冷たい目になる私に声を掛けたのは宰相のイルミナートだった。

―――話す時が来たと言う事だろうか?

 ホナミとの戦いが終わるまでは口が裂けても言うつもりはなかったのだが…、まあ、こうなってしまっては仕方ないだろう。

(もし邪魔をすると言うのならば、また私の可愛い白雪姫(スノーホワイト)を使うだけだ)

 彼女を餌にすれば、――…最悪、人質に取れば、どの男達も私の指示通りに動くだろう。それこそ、自分の持ち得る能力全てを使い、私の為に全力で働いてくれるはずだ。
 私はいつもの温和な笑みを顔に浮かべると、新しくなった家のドアを開けた。

「……いいよ、ただ女性には刺激の強い話だから(シュガー)のいない所で話そうか?」



―――そして、その夜。

「――――…さて、スノーホワイト。いや、アキラと言った方が良いのかな?」

 弟とルーカスは戻らなかった。

 今晩は弟の番だったのだが、彼が不在と言う事で明日の晩彼女と過ごす私に順番が繰り上がったのだ。

「君には色々と聞きたい事があるのだけれど、君は話してくれないみたいだから」
「んー!んー!んんー!!」

 ベッドの柵に両手を縛られ、口をテープで塞がれた涙目のスノーホワイトが懸命に首を振る。
 縛っているのは手だけではなく、脚を折り曲げた状態で太腿の付け根と足首も縄で縛ってある。

「直接体に聞いてみようね」

 スノーホワイトの上に覆いかぶさると、彼女の顔が絶望で溢れかえる。
 そんな彼女を宥める様に出来るだけ優しい声を出すと、耳から顎のラインを優しく撫でて、テープの上から彼女の唇を指でなぞる。

「ああ、その前にあの騎士との……いや、他の6人とあなたが今週犯した浮気(あやまち)について、お仕置きをするのが先だね。可哀想だけど……、」

 スノーホワイトの艶やかな髪を一束取ってそれに頬擦りしながら微笑むと、彼女の喉が引き攣り肩が震え始めた。
 口に貼りつけたテープの上から唇を落とす。
 何度も何度もテープ越しに口付けを繰り返している内に自分の雄だけでなく、精神的な何かも昂って来ているのを感じた。
 大声で助けを呼ばれると面倒なので口に貼ってみたものの、邪魔にしか思えなくなってきたテープの皺に喰らい付き、そのままビリッと引きちぎる様にして剥がす。
 彼女は今から私にされる事を察しているのだろう、恐怖で声も出ない様だった。

「私は女性にあまり酷い事をするのは好きではないのだけれど、これは私の可愛い(シュガー)の為なんだ、ごめんね?」

 テープをシーツの上に吐いて微笑みながら、テープを乱暴に剥がされて少し赤くなった唇の軟らかな感触を指でしばし楽しむ。
 その後手指をスノーホワイトの口内に射し込んで、舌を摘まみ、弄んでいると彼女の目がとろんとして来た。

―――散々快楽を教え込んだその体で、どこまで耐えられるか見物だ。

(今夜は楽しめそうだ)

 邪魔者はいない。

 一週間分、朝までたっぷりと可愛がってあげるとしよう。

す、すみません…1万文字超えたのでいったん区切ります。
次エロです、次こそエロです!
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Siti Dara

Hi. I’m Designer of Blog Magic. I’m CEO/Founder of ThemeXpose. I’m Creative Art Director, Web Designer, UI/UX Designer, Interaction Designer, Industrial Designer, Web Developer, Business Enthusiast, StartUp Enthusiast, Speaker, Writer and Photographer. Inspired to make things looks better.

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