『Shirayukihime to 7 Nin no Koibito』to iu 18 kin Otomege Heroin ni Tenseishiteshimatta Ore ga Zenryoku de Oujitachi kara Nigeru Hanashi chapter 77

1・ちんぽには勝てなかったよ…。
最終章なのに、我ながら話タイトルが酷いのでその内直すかもしれません。
「可愛いな、……挿いれただけなのにもうイってしまったの?」

 貫かれた瞬間、疼痛が狂おしいほどの快楽にすり替わって、全身にビリビリ鳥肌が立った。
 躰が楽になったのはほんの一瞬だけで、熱い肉で押し広げられた場所に甘く切ない疼きがじんわり広がって行く。
 奥がジンジン疼いてしょうがなくて悶え泣く自分を見て、妖しく微笑む男のこのしたたるような色気は一体何なのか。

「たくさんあげる。私の全てをあなたにあげるから、しっかりと味わって?」

 歯を食いしばってみても、唇を噛み締めてみても、どうあっても呻き声は漏れてしまう。
 胸は鞴の様に上下して、震える腰には汗の玉が浮き、震える手をギュッと握り締めると汗でじっとりと濡れていた。
 たった今暗闇の中で弾けた水晶玉の様な汗はスノーホワイトの物なのか、彼女に覆いかぶさっている男の物なのかももう判らない。

「あみーさま、……あっ、あの!手の、はずして、くださ、い」
「ん?」
「だっこして、ほしいの、ぎゅっ、してほしい……!」
「もう、そんなに可愛いおねだりをして、あなたはどこまで私を虜にするつもりなの?」

 スノーホワイトちゃんの知識ではこの辺りに熱帯夜が来るにはもう少し先のはずなのに、この部屋の空気はからみつく様に濃密で、とても暑く重苦しい。
 それともこの寝室は空調が悪いのだろうか? 息も絶え絶えの状態で、何度も肩で大きく呼吸を繰り返してみるのだが、いつになってもちっとも楽になりやしない。
 もしかしたら酸欠なのかもしれない。上手く呼吸が出来なくなってから大分経つ。
 そのせいか頭がクラクラして視界がぼやけてる。

「っや!うぅッッ――!?」

 熱を埋め込まれたまま陰核に触れられて、声にならない悲鳴が上がった。

「愛してるよ、スノーホワイト。早く私の形を覚えて、私だけの(もの)になってね」

―――ここは、もしかしたら地獄なのかもしれない。

 いつまで経っても終わらない責め苦にそんな事を思った。

 こうやって中と外を同時に攻められると、イクにイケないのだ。花芯でイこうとすると、中に埋め込まれている肉の圧倒的な違和感に苛まれてしまう。か言ってこいつが動いてくれない事には中でもイケやしない。
 この男のしようとしている事は判ってる。
 女体とは花芯を弄ると中が締まる様に出来ている。
 自分の熱を挿入したまま陰核を弄る事により、スノーホワイトの体にきゅうきゅう締め付けさせて自分の形を覚えさせようとしているのだろう。

 意味が判らない。こんなの向こうだって辛いだけだろうに。

「ねえ、わかる?今、私の物がどこに当っているのか」

 この男の声は何故かスノーホワイトの子宮に良く響く。
 こうして耳元で囁かれるだけで背筋をザワザワした物が這い上がって行き、ゴクンと喉が鳴る。
 やはり向こうも辛いのだろう。熱い吐息混じりの言葉はとても悩ましげで。

(キス、したいな…)

 思考回路はとっくに正常ではなかった。

(「キスしてください」っておねだりすれば、してくれるかな…?)

 目の前にある、男にしておくには艶めかしい唇をぼーっと見つめる。
 正直一生知りたくもなかった、知る必要もなかった事実だが男の唇とは案外柔らかい。
 目を瞑ったままキスしたら、俺には相手の性別なんて絶対判らないだろうなって思う。……まあ、女の子の唇がどんな感触なのかは俺、全然知らないんだけどさ。もしかしたら女の子の唇はもっと柔らかいのかもしれない。

「あなたのここが、私を欲しい欲しいと言って、私の事をきゅうきゅう締め付けるから、少し辛いけど、……でも、こうやって抱き合っているだけで、とても気持ち良いね、とても幸せな気分だ」

(うん、俺も)

 裸で抱き合うこの感触ってやばい。
 何だか凄い落ち着くし、とっても気持ち良い。いつの間にか病みつきになってしまってる。
 スノーホワイトちゃんの脳内でセロトニンが大量放出されているのか、謎の幸福感のようなものまである。

―――でも、さっきからずっとナカがジンジン疼いてるんだ。……もう、一秒だって我慢できないくらい。

「やっ……だ、やだ、うごいて、動いて、くださ…い…っ!」
「こら」

 泣きそうになりながら自ら腰を動かそうとすると、怒られてしまった。
 「駄目だよ」と言われて、スノーホワイトちゃんのくびれたウエストを押さえられる。

「そんな事をしてしまったら私も我慢がきかなくなってしまう」

(―――…我慢なんて、しなくていい)

「私が腰を動かして、ここ、ここにこうやって、ピッタリ先端を当てたまま射精して、奥へ、奥へと子種を押し込んでしまえば、きっとあなたは私の子を孕んでしまうよ。……いいの?」

(いいよ、もう、いいから……っ)

「――――…私に動いて欲しいのなら、何て言えばいいのか賢いシュガーなら分かるよね?」

―――そう言って俺に微笑みかける目の前の男は、もしかしたら悪魔なのかもしれない。

 駄々をこねる子供を諭す様に、柔らかく微笑む男の口調はとても優しいのに意地悪だ。

「でもあなたはまだ私の子を産む覚悟が出来ていないのでしょう?私は愛するあなたに無理強いなんてしたくないんだ。このまま抜いてしまおうか?」

(そんなの、いやだ…)

 スノーホワイトちゃんの瞳からブワッと噴きだす涙を見て、男はまた艶やかに微笑んだ。

―――今思い返せば、初めて会った時からそうだった。

 この甘い声色に鼓膜を擽られると、コイツの蒼い瞳にジッと見つめられると、肌と肌が触れ合うと、もう、それだけで何もかもがどうでも良くなってしまう。

 躰が熱い。

(あつくて、あつくて、つらいんだ。)

 躰だけじゃなくて、背中の下のシーツとマットレスまで熱かった。マットレスに熱源でもあるんじゃないかって位熱い。
 ふと視線を横に投げると、汗と汗ではない物で既にグチャグチャになっているシーツのおびただしい皺の数に驚いた。
 おかしい。俺がベッドメイキングした時はシーツには皺一つなかったのに、いつの間にこんなに酷い事になってしまったんだろう。

 男の微笑みはとても優しい。

 肌と肌がぴったりつっくいてるのが良いのに、男はゆっくりと上体を起こして俺から離れて行く。
 なんでこんな意地悪されてるのか判らない。
 自身の中からゆっくりと抜かれる熱に、唇が震えた。

「…………イ、イヤ、……ぬか…ないで、」

 引き留める様に腕を伸ばす俺を見て、男は口元に浮かべる笑みの形を深める。

「そんな事言われても。……困ったねぇ、どうしようか。アキラ、このまま続けたら君は向こうに帰れなくなってしまうかもしれないよ?」

「…………いいの、もう、それでもいいから」

 もう、元の世界も何もかもがどうでも良かった。

 そんなのもうどうでもいいから、いつもみたいにギュって強く抱きしめて欲しい。
 背中の骨が軋むくらい、壊れそうなほど強く抱いて欲しい。朝までずっと繋がっていたい。頭がおかしくなる位体を揺さぶって、声が出なくなるまで激しく衝き上げて欲しい。
 お腹が熱くて、奥がジンジンしてて、中がむず痒くて、息が苦しくて、もうワケがわからない。気が狂いそうだ。せっかく挿入()れてくれたと思ったのに動いてくれないなんて、酷すぎる。

 もう、いい加減この淫猥な熱から解放して欲しい。――…お前の言う事、なんでも聞いてやるから。

「お願いします、アミー様の子種を私にください!!ほしいの、もう、がまん、できないの!だから、だから……!!」

 男は薄ら笑いを浮かべると、スノーホワイトの髪の毛を指に巻き付けて遊びながらこちらを覗き込んだ。

「私の子供を産んでくれるの?」

 自分の髪で遊ぶ男の角ばった指を見つめていると、熱が冷めない頭が「舐めたいな…」なんて異常な事を考えだす。

「……うみ…ます、」
「聞こえなかったな、もっと大きい声で言ってくれる?」
「うみます、うみます、から……っ!!」
「王子も姫も沢山産んでくれる?」
「はい!!産みます、だから……っ!!」
「本当に?」
「はい!!」

 もう自分で何を言っているのか解らなかった。

 そんなのもうどうでもいいから口の中に何か入れて欲しい。さっきから俺の目の前でもったいつけてるその指でも、たった今濡れた唇の端を舐めたその赤い舌でも、この際アレでも何でも良いから。
 もう何でもいい。
 この躰の内の熱を解消してくれるのなら、今の俺は何でも言うし何でもするだろう。


****


(あれ……?)

 目が覚めるとそこは知らない場所だった。
 見知らぬ白い天井をしばらく無言で見上げた後、鈍痛で痛む頭を押さえながら体を起こす。
 何だかとても体が重くてだるかった。

「ここは……?」

 そこは不思議な世界だった。

 俺は石で出来た天蓋ベッドの様な祭壇の上に裸で横たわっていた。
 周りを見渡してみると、どこか神殿めいている場所だ。
 台の上から降り、階段を何段か下るとその下には見事に何もなかった。
 月の表面みたいにクレーターだけがある大地がどこまでも果てしなく続いている。地平線の向こうには、夜空が――いや、宇宙が広がっていた。

「えーっと…」

 顎に手を当てながら頭上を見上げると、流れ星がビュンビュン流れていた。
 しばし無心に流れ星が落ちて行く様子を眺めながら、自分が何故こんな場所にいるのか、記憶の糸を必死に手繰り寄せた。

(ああ、そっか。俺、あの王子様に剣の中に閉じ込められたんだっけ?)

 そうだそうだ、思い出した。

『なら、言うんだ。自分で自分の太腿あしを持って”どうかリンゲインの為に、ディートフリート・リゲルの血を引く正統なる王者の子種をお授けください”と』

『お、おねがい!ほしいの!あなたが欲しいんです、お願いします!リンゲインの為に、アミー様の子種を私に授けてください!!』

『……偉いね。上手に言えたけど、でも私の言った通りではないな。ほら、自分で脚を持ち上げて、もう一度可愛く私におねだりしてごらん?』

『……どうか…リンゲインの為にっ!……ディートフリート・リゲルの血を引く正統なる王者の子種を、アミー様の精を、私にお授けください……っ!!』


―――思い出した。……俺、何かとんでもない事を言ってしまっている…。

「うわあああああああ!!何て事を言わせやがるんだ、あの王子様!!」

 直前の事を思い出して、自分の頭をぼかすか殴りながらその場にしゃがみこむ。
 膝を抱いた瞬間、くぷっと音を立てて中から白い物が溢れて来て「うう…」とうめき声が漏れた。
 穴があったら入りたい。……と言うか、むしろ自分で穴を掘って埋まりたい心境だ。

 しかしどうしたもんか。俺は全裸のままこの変な世界に来てしまったらしい。どうしよう。もしかして俺はアミールの奴がここから出してくれるまでずっと裸のままなのだろうか?
 本当に気が利くんだか利かないんだか良く判らない王子様だ。
 何だか少し肌寒くて、スノーホワイトちゃんの細い肩を抱いてさすりながら溜息を付く。

「これが昔、同人誌で見たちんぽには勝てなかったよ現象か…」

(男時代はオークに負けた姫騎士や触手に負けた魔法少女が快楽堕ちするエロ漫画をオカズにして抜いてたけど、まさか俺がちんぽに負けてしまうとは…)

 もう笑うしかなかった。

 あの頃はまさか自分が女になってちんぽに負ける日が来るなんて、夢にも思わなかった。
 いや、この敏感過ぎる体に生まれ変わって、あいつらと出会ってからは違う。そう遠くない未来この手の結末が待っている様な気はしていたのだ。それはもう、嫌になるくらいヒシヒシと。

(だから俺は何度も何度も逃げたのに…)

「捕まえられちゃった…」

 あのあと滅茶苦茶セックスした事を思い出して、赤い顔のまま大きな溜息を付いた。

「まあ、いっか…?」

 後頭をボリボリやりながら、もう一度溜息を付く。

(あの王子様、俺の事マジで愛してるみたいだし。あんなに好き好き言うんだから結婚してやっても良いのかも…?)

 だってこれいわゆる玉の輿って奴だろ?

 毎回毎回長時間焦らされまくってもう無理!って思うけど、なんだかんだで気持ち良いし。頑張れば最後はちゃんとご褒美くれるし。なんだかんだであの王子様、俺にゲロ甘で優しいし。そういや結婚したらすっげー沢山別荘プレゼントしてくれるとか言ってたな。……うん、これって女の夢の玉の輿って奴だ。リゲルブルクの王太子なら、小国の王女のスノーホワイトちゃん的にも悪い案件じゃない。多分、本当に俺が欲しいと言えばあの王子様は本当に何でも揃えてくれるだろう。その位の甲斐性ならありそうだ。

 母子家庭で家族3人、爪に火を灯す様な生活を送って来た時代があるせいだろう。昔から俺には将来結婚したら子供には金銭的に苦労をかけたくないと言う思いがあった。
 アキと違って俺は頭が良くなかったから、安定職の公務員がいいなとか、一生喰いっぱぐれのない資格を取っておきたいなとか、その程度の考えだったけど。

 朝はパン屋で、昼は病院の清掃、夜は工事現場と、バイトを掛け持ちしていた母親の姿を思い出す。

『やだやだ!バイトになんか行くな!行かせないから!』
『駄目だよアキラ君、お母さんはもうお仕事の時間なんだから』
『ごめんね、アキラ、アキ。今下村さんが来るから…』

(母さん…アキ…)

 バイトに行こうとする母親のニッカポッカのズボンを掴んで泣いている自分を宥める幼い姉と、若かりし日の母の困惑顔を思い出す。

『毎晩すみません、下村さん』
『いいんですよ、ご近所のよしみです。ほら、アキラ君、DVD持って来たからおばさんと一緒にみよっか?』
『ちーっす!遊びにきてやったぞアキラ!今夜も俺と一緒に二段ベッドの上で寝ような!』
『やだやだ、アキラお兄ちゃんとはシゲミが一緒に寝るのー!!』
『シゲミは女同士アキと寝ろよ、夜は男同士の大事な話があるんだから邪魔すんなよ』
『えー、何それぇ』
『もう皆で寝れば良いじゃない』

―――ずっと忘れていた元の世界の望郷の念が、今になって込み上げて来る。

「…駄目だ。やっぱり俺、元の世界に帰らないと!」

 頭をブンブン振りながらその場に立ち上がる。

 頬をパン!と何度か叩くと、目が覚めた様な気分になった。

(母さんは昔苦労させた分、将来は同居okの優しい嫁さん貰って楽させてやるって決めてたんだ。アキはいくつになっても夢見がちで危なっかしいから、俺が傍で見張っててやんないと。母子家庭の女は年上の変なオッサンに引っかかりやすいって言うし、父親がいない家庭の女は男に舐められやすいからな。将来アキが連れて来る男は俺がしっかり見定めなきゃいけねぇし、シゲもさっさと向こうに連れて帰らなきゃ。あいつ将来はバーテンダーになりたいって言ってたし、下村のおばさんもシゲミちゃんも心配してるはずだ)

 しかしその時胸を過ぎるのは、こちらの世界にいる7人の恋人達の顔だった。

 どいつもこいつも俺がいなきゃどうしもうもない奴等だ。

(俺が消えたら……あいつら、どうすんだろ?)

 泣く…だろうか?

 ヒル辺りは周りの目も気にせず号泣しそうだ。
 あいつは俺が元の世界に帰る時はついてくるって言ってたけど、本当にそんな事が可能なんだろうか?

『君達がこの世から消えて元の世界に帰る時は、その体も抹消する』

 あの時のアミールの台詞を思い出す。
 あいつの言葉が嘘でければ、俺が向こうに戻る時はどういう訳かスノーホワイトちゃんの体もこの世界から消滅するらしい。
 その時は、俺もスノーホワイトちゃんも最初からこの世界に存在していなかった事になるのだろうか? あいつらの記憶からも消えてしまうんだろうか?

「あ…れ……?」

 頬を濡らす生温い水滴に気付き、唖然とした。

(そうか、俺……なんだかんだで、こっちの世界も、あいつらの事も好きだったんだ…)

 俺が消える時、あいつらの中からも俺の記憶が消えるのならばそれが良い。彼等の今後の人生を考えるならば、それが一番良いはずだ。
 もしかしたらあいつらの中だけじゃない、俺の中からもこちらの世界であった記憶は消えてしまうのかもしれない。

 それを想像したら何だか泣けて来た。

 今になって、こちらの世界もいつの間にか自分の中で大きな比重を占めていた事に気付く。

「…………選べねぇよ…」

 こっちの世界も向こうの世界も俺は大切なんだ。

―――その時、

パン!パンパンパン!!

(へ…?)

『ぱんぱかぱーん!!三浦亜姫(みうらあき)ちゃん、いらっしゃーい!!』

 紙テープと紙ふぶきがもろに顔にかかり、俺の暗い思考は一気に吹き飛んだ。

 派手な音と少量の火薬の匂い。
 目の前に突如現れた幼女が持つ、紐がついている小さな円錐形の紙の容器には見覚えがあった。前世でお馴染みのクラッカーだ。

『あのねあのね!!あなたが大好きな18禁乙女ゲームの世界に良く似た世界を作ってみたんだけど!!どう?どう?楽しかった!?勿論レベル上げやスキルアップ、親密度上げの作業なんて野暮なモノは一切合切何もなしのチートスタート!選択肢自動選択、スーパー逆ハーレム重婚ED一直線!!』

 俺の背中をバンバン叩きながら捲し立てる、髪の長い幼女の姿を俺は愕然と見上げる。

 宙にふよふよと漂うその少女はどう見ても人間ではなかった。
 まず第一に人は空を飛べない。そしてこちらの世界の常識として、水色の髪の人間は存在し得ないのだ。
 彼女の周りにいくつも浮いている水の塊も、彼女が人間ではないだろうと思える大きな要因だった。

「あ、あなたは…?」

 ふとスノーホワイトちゃんが今全裸である事を思い出し、手で前を隠しながらオドオドと見上げると、彼女はウインクで返してきた。

『私?リゲルブルクの女神ウンディーネよ。流石に細部までゲームと全く同じって訳にはいかなかったけど、驚く程良く似た世界でしょ?それもそうよねぇ、だって元々「白雪姫と7人の恋人」のモデルはこの世界なんだもん。似てて当然なのよー』
「え、えっと…?」
『ああ、そうそう。実はね、7人の恋人の攻略キャラの名前や顔、年齢なんかは全く違うのよ。でもあなたにはゲームと同じく見える様に、感じられる様に水のべールを掛けて細工してあるんだな!だな!!えっへん、凄いだろう!!』

 思考どころか動きまで停止する俺の目の前で、ウンディーネと名乗った幼女は手をパタパタ振る。

『おーい、大丈夫?』
「…………。」
『んー、もしかして私が女神だって信じられない?――…いいわ、これでどう?』

 反応しない俺を見て、ウンディーネと名乗った何かは一つ嘆息する。
 彼女がちょいちょいと指を動かすと、彼女の真横に浮いていた水の塊の一つがスノーホワイトちゃんの体にビシャッ!とぶつかった。
 冷たさはなかった。
 水の塊が体にかかった瞬間、スノーホワイトちゃんの体を彼女がいつも着ているドレスが包む。

―――と思ったのだが。

「これは…?」

 ペタペタ手で触ってみると、俺は全裸のままだった。
 しかし傍目にも自分の目にも、いつものドレスを着ている様に映る。

『これが水のベール。今、私がこちらの世界全体にこのベールをかけてるの。だからあなたにはこの世界が「白雪姫と7人の恋人」の世界に見えたし、そう感じたはずよ』
「……すごい」

 感嘆の息を洩らす俺に、女神様は宙で飛び跳ねる。

『やー、それほどでもあるんだけどぉ!!亜姫ちゃん、ね?ね?この世界、楽しんで貰えた?あなたが死ぬ程プレイしたがっていた18禁乙女ゲームに限りなく近い世界で、大好きなキャラ達に囲まれて溺愛されまくリング!至れり尽くせりの逆ハーレム!どうどう?楽しかった?楽しかったわよね?そろそろ満足したでしょ?』

―――って、ちょっと待て。

(この女神様、さっきから俺の事何て呼んでる…?)

 引き攣ったまま彼女を振り返ると、ウンディーネはえっへんと胸を張りながら言った。

『どう?大好きなゲームの疑似世界は?良い想いをさせてあげたんだからうちの国を救いなさい!』

「・・・は?」

 スノーホワイトちゃんの口から洩れたとは信じられない程ドスの効いた声が漏れた。

『ん?……だから、うちの国を救ってくれていいのよ?お礼として?』

「・・・・・・は?」

 きょとんとする女神様の胸倉を俺は掴んで叫ぶ。

「俺の名前は三浦晃(みうらあきら)!三浦亜姫の弟!俺、男!!」
『へ…?』
「おま、よりにもよって俺とアキ間違えたのかよっ!!男の俺がこんな世界喜ぶ訳ねぇだろうが!!」
『う、嘘。そうなの…?』

 胸倉を掴みガックンガックン揺さぶると、女神様の頬に一筋の汗が伝う。 

「……お前のせいだったのか……俺のファーストキスが男に奪われたのも、初エッチの相手が男になったのも全部全部、お前のせいだったのか…」
『え、えっと……、で、でも、アキラ君、なんだかんだで結構楽しんでなかった?』
「…………あ?」

 殺していいか、このクソガキ。

 俺の殺気が伝わったのか、ウンデーネは『やーん!ごっめーん!』と笑いながら半透明になって俺の手をすり抜ける。

「おい待てよこのクソ女神!この落とし前どうつけてくれるんだ!!」

―――ウンディーネは『この世界と夫君を救ってくんなきゃ、元の世界に返してあげないもーんっだ!』なんてクッソたわけた事をほざきながら宙に溶けて消えた。

 あまりもの事態に顔面麻痺を起こして立ち尽くす俺に、空からウンディーネの声だけが降ってくる。

『別に救わなくてもいいけどぉ。そうしたらあんたのお父さん、死んじゃうかもよー? いいのいいのー
? そんな事になったらホナミが悲しむんじゃないかなー?』
「は?親父?俺の親父がこの世界にいるって言うのか…?」
『うん、リゲルブルクで王様やってるわよー』
「マジかよ…」

 ウンディーネはその言葉を最後に消えてしまった。
 それから彼女が消えた虚空に俺が何を叫ぼうが尋ねようが、彼女から返事が返ってくる事はなかった。

―――どうやら俺は姉と間違って召喚された挙句に、自分達を捨てたと思っていた父親と異世界を救わなければならないらしい。

「ちょっと待て!俺に恩を売りたいんなら、その水のベールとやらで『マリアンヌ様がみてる』の世界に変えてけよ!!お、おい!!今からでも遅くないんですけど!!ねえ、お願い、変えてこうよ!?え!?なんで!?どうして『白雪姫と7人の恋人』のままなの!?せめて俺の体を元に戻して行こうよ!!ふっざけんな!!!!」

 ウンディーネが消えた方向に向かってギャーギャー捲し立てる事しばし。気が付いた時には、何故か目の前にアミール王子が突っ立っていた。
 場所はいつも皆が団欒してる暖炉のあるリビングだ。
 何故か部屋にはお通夜のような重苦しい空気が漂っていて、俺は「なんだなんだ?」と辺りを見回す。

「あれ、私…?」
「ごめんね、シュガー。私は少しどうかしていた様だ。あなたを愛し過ぎてしまった愚かな男の過ちを、どうか許してはくれないだろうか?」

 体を軋むほど強く抱きしめられて、一体何がどうしたのだろうかと考える。

(あ、俺元の世界に出して貰ったのか…? ああ、良かった)

―――って、

「あのクッソ女神――――――!!!!俺とアキを間違えやがって!!」

 思わず髪を振り乱しながら叫ぶと、何故か床には腰を抜かしたエミリオ王子とルーカスが居て、目を皿の様に丸くしながら俺を見上げている。
 目の前のアミールも狼狽を顔に漂わせる。

「ス、スノーホワイト?」
「あ、い、いや、なんでもないんですエミリオ様、うふふ」

 エミリオ王子に声をかけられて慌てて取り繕ろう思ったが――、今の精神状態じゃ無理だった。

「………じゃねぇよ、畜生!!あああああああああああ!!もう、もう、どうすれば!!」

―――その後、俺は自分の出世の秘密を知った。

(こないだアミールが「もしかしてアキラは私とは腹違いの兄弟になるのか?」と言っていたのはこういう事だったのか…。

 アミールとエミリオが自分の腹違いの兄弟と知り、腹違いの兄弟二人といたしてしまったと言う事実に流石の俺もしばらく鬱っぽくなった。


****


コンコン、

「入るぞ、スノーホワイト」

 あの後、何もする気になれなかった俺は昼が過ぎてもベッドでゴロゴロしていた。
 部屋を訪ねて来たのは意外な事にエミリオ王子だった。

「気晴らしに外の空気でも吸いに行かないか?」

(そんな気分じゃないんだけど……まあ、いっか…?)

 この王子様は怒ると怖い。……と言うか、友達の家に遊びに行くと、いつも俺にだけ向かってギャンギャン吠えて来た小型犬に良く似てる。それもあって俺は何となくこの王子様が苦手なのだが、彼がGrumpyな以上こればっかしはどうしようもないのかもしれない。
 この王子様の誘いを断れば更に面倒臭い事になる。

「お気遣いありがとうございます」

 仕方なしにベッドの上から起き上がって会釈をすると、エミリオ王子は真っ赤になって俺に背中を向けた。

「す、すまん…!!ぼ、僕は廊下で待っているから、準備をすると良い!!」

 もうスノーホワイトの裸だって見ているのに、この王子様は今更ネグリジェ姿ごときで何をそんなに照れているのだろうか。
 ずっと苦手だと思っていたエミリオ王子が何だか可愛く思えて来て、思わずくすりと笑ってしまった。

「はい、エミリオ様」

 咳払いして部屋を出て行く王子様の背中をクスクス笑いながら見送った後、俺はスリッパを履いてカーテンを開ける。

 良い天気だ。
 確かにこんな良い天気なのに、一日中暗い部屋で引きこもっているのは勿体ないかもしれない。

 そういえばエミリオ王子とデートをするのは初めてだ。
 どこまで行くのか判らないけど、弁当でも作って持って行っても良いのかもしれない。

(さて、今日は何を着ようかな)

 スノーホワイトちゃんはどんな服でも似合うし、スタイルも抜群なので大抵の服は難なく着こなす事が出来る。よって俺は毎朝どのドレスを着ようか真剣に悩む。
 今日もどれを着ようか悩ましく思いながら、クローゼットの中から何着か取り出したドレスを選んで鏡で合わせる。
 うん。相も変わらずスノーホワイトちゃんは絶世の美少女だ。この鏡が真実の鏡なら「世界一美しい」と絶賛するであろう美貌を鏡で確認し悦に入る。
 最近この体で生きるのに慣れて来たのか、鏡の中に絶世の美少女が映っても驚く事もなくなった。むしろ今の俺は前世の自分の顔がどんな顔をしていたか、もうぼんやりとしか思い出せない。

「エミリオ様はどんなドレスがお好みなのかしら…?」

 鏡に映ったスノーホワイトちゃんの真っ赤な唇から洩れた言葉と共に、頭の中に三択が浮かぶ。

1・クラシカルなベルベッドの赤いドレス
2・フェミニンなピンクのリボンのドレス
3・セクシーなスリッド入りの黒いドレス

 ピコン!と言うおなじみの音に、俺は自分が手にとった赤いドレスが正解だった事を知る。

(クラシカルなドレスね、なるほど…)

 あの王子様らしいと言えばらしい。

 鏡の前で胸元のリボンを結びながら苦笑する。
 「このドレスを着てドアを開けたら、あの王子様はどんな顔をするのだろうか?」なんて喜々としながらドレスを着こんでいる自分に気付いて笑ってしまったのだ。

(エミリオ、喜んでくれっかな…?)

 デート前に服を選ぶ世の乙女達は、皆こんな気持ちなのだろうか?
 期待と不安で胸がドキドキしてる。

 ふと「現実世界でもいつもこの三択が出て来てくれれば良いのに…」、なんて都合の良い事を考えた。

―――あいつらが俺の事を好きでいてくれるのはこの能力のお陰だ。

 だから今、シゲと昔みたいに良い関係でいられるのも、ウンディーネがくれたこのチートのお陰なのだろう。
 この力を失って元の世界に帰ったら、きっとアイツとは今みたいに話す事もなくなるんだろう。

―――…今だけでいい。

(多分、今だけは…この世界では、シゲとだって友達でいられるんだ。――…昔みたいに)

 少しだけあのふざけた女神に感謝している自分に気付く。

「まだか、スノーホワイト」
「今行きます、エミリオ様」

―――今だけでいい。おとぎ話が終わるまで、俺に優しい、俺だけの為に作られたチートなこの世界を楽しもう。
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Siti Dara

Hi. I’m Designer of Blog Magic. I’m CEO/Founder of ThemeXpose. I’m Creative Art Director, Web Designer, UI/UX Designer, Interaction Designer, Industrial Designer, Web Developer, Business Enthusiast, StartUp Enthusiast, Speaker, Writer and Photographer. Inspired to make things looks better.

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