【閑章】鏡よ鏡、鏡さん
【閑話】嘘つき男と森の魔女
むかしむかし、嘘ばかりつく悪い妖魔がいました。
人里へ降りては女を唆し、森の奥まで浚ってきて、頭からガブリと喰べてしまう妖魔です。
ある日、彼は森の中で魔女に出会いました。
魔女と言う生物の外見は人とそう変わりません。
魔女の事を人間だと勘違いした妖魔は、彼女にいつもの様に嘘をつきました。
嘘がバレた時、魔女は怒り狂いました。
「私の事を愛していると言ったあの言葉も、全て偽りだったと申すか……!!」
妖魔は怒った魔女に鏡の中に封じ込められてしまいました。
―――魔女は嘘つきな妖魔にある呪いをかけました。――…それは真実しか答えられなくなる呪いでした。
「鏡よ鏡、鏡さん、あなたは本当は私の事を愛しているのではなくて?」
「いいえ、私はあなたを愛していません」
なんだかんだで魔女との生活は楽しい物でした。
妖魔とは基本単独で暮らす生物です。同属と縄張りが被ると戦いになるからです。
誰かと一緒に暮らし、毎日話をすると言う生活は妖魔にとってとても新鮮でした。
どうやらそれは妖魔だけでなく魔女もでした。
魔女は森の奥のこの小さな小屋で、子供の頃からずっと一人で暮らして来たそうです。
穏かに、優しい時間が二人の間を流れて行きました。
―――そんなある日、魔女は寿命を迎えました。
魔女と言う生物の寿命はそんなに長くありません、人間の3倍くらいの長さしか生きられないのです。
千年単位の時を生きる妖魔からすれば、魔女とはとても儚い命の、ちっぽけな生物です。
出会った頃は若く美しい娘の姿だった魔女も、いつしか老婆になりました。
「鏡よ鏡、鏡さん。いいかげん、私の事を愛してくれては良いのではなくて?」
「いいえ、残念ですが私はあなたを愛していません」
「真実しか答えられなくなる呪いをあなたにかけたのは私なのに、不思議なものね。私、今、あなたに嘘をついてもらいたいのよ。――…私の事を、本当は愛していたって」
そう言って、寂しそうに微笑みながら魔女は息絶えました。
魔女が死んで妖魔にかけられた呪いは解けました。
しかし呪いが解けて鏡の中から出る事が出来る様になっても、妖魔は魔女の家を出て行く事をしませんでした。
ただ、何年もそこで魔女の亡骸と一緒に暮らしました。
元の一人の生活に戻っただけなのに。
それなのに、何故こんなに悲しいのでしょうか。
それなのに、何故こんなに寂しいのでしょうか。
それなのに、何故こんなに苦しいのでしょうか。
それなのに、何故こんなにも涙が止まらないのでしょうか。
妖魔は魔女の骸の隣に置かれた鏡の中で考えました。
何年も考えて、考えて、考えて、――やっと答えが分かりました。
「そうか、私は彼女の事を愛していたのか……」
しかし今頃そんな事に気付いても、その唇から不器用に愛を囁いてみても、既に骸となった魔女は何も答えてくれません。
何故魔女が生きている間に自分は想いに気付けなかったのでしょうか。
魔女が生きている間に気付ければ良かっただけの話なのです。
呪いがかかっているからこそ、嘘つき男の自分が愛を囁いても魔女に信じてもらう事が出来たはずなのです。
魔女が生きている間に彼女に愛を囁く事が出来たら、――…彼女の最後の笑顔はあんなに寂しそうな物ではなかったでしょう。
涙も枯れ、抜け殻の様になった妖魔が魔女の骸と一緒に暮らしていると、ある日、一人の少女が現れました。
出会った頃の魔女と良く似たその美しい少女は、魔女の遠縁の娘でした。
妖魔はそれから彼女の使い魔となり、彼女の手となり足となる事に決めました。
その娘は少し冷酷な部分がある娘でしたが、魔女とは元々そういう生き物です。むしろあの魔女の様な女の方が珍しいのです。
彼女の姪の使い魔として暮らす生活は、幸せでした。
しばらくして、妖魔は不思議な事に気付きました。
―――魔女の血の力なのでしょうか?
呪いは解けたはずなのに、彼女に質問されると妖魔はまた真実しか答えられない様になったのです。
彼女に質問されると、妖魔が知らない事であっても、その光景やら知識やらが浮かんで来て答える事が出来る様になるのです。――例えそれが自分の知らない異世界の話でも、彼女の前世と言う突飛な話でも。
最近前世の記憶を取り戻したと言うその魔女は、不思議な事に妖魔が恋をした魔女と良く似ていました。
「アキ様……、」
疲れ果てたのかぐったりとした様子でベッドの中で眠り続ける魔女を見下ろしながら、彼は誓います。
この魔女の3ヶ月後の未来を全力で阻止しよう、と。
次話、鬼畜宰相のエロに戻ります
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