『Shirayukihime to 7 Nin no Koibito』to iu 18 kin Otomege Heroin ni Tenseishiteshimatta Ore ga Zenryoku de Oujitachi kara Nigeru Hanashi chapter 58

恋人4、Doc
―――確かあれは、父に「お前はあの子の事が好きなのかい?」と聞かれた日から、ほどなくした夜の事。

『良く見ておけイルミ、女なんてどれも一皮剥いてしまえば皆同じなのだよ。私達男を悦ばす為の道具でしかない』
『見てはだめです、イルミ様、イヤ、イヤです……』
『美しい女も醜い女も、学がある女も学がない女も、どこかの国の王女も奴隷でもな。裸にして脚を開き、男を捻じ込んでしまえば皆同じだ。――我が息子よ、私の言っている言葉の意味は解るかね?』
『みないで、お願い、イルミ様、見ないで……ッ!!』

 父に呼び出されたのは、使用人部屋の近くにある倉庫だった。
 壁の燭台の炎に照らし出された少女の顔は思い出せない。

にゅぷ…、

『ほら、良く見てごらん』

 父は背後から彼女の腰を掴んで乱暴に揺さぶっていた手を離すと、彼女の片膝を自身の腕にかけて担ぐようにしてみせる。そして腰の動きを緩めると、太く脈打つ物が彼女の中にゆっくりと出し挿れしている様子を私に見せ付けた。
 粘着質な水音を立てながら、濡れた父の太い肉が彼女の中に吸い込まれて行くのを見て、彼女が痛くはないのか心配になった。

 現に彼女は泣いていた。

『父上、泣いております。もうおよしになっては……』
『無粋な事を言って笑わせてくれるな。ほら、良く見てみると良い、女は皆これが好きなんだ。こわいこわいと最初はどれも泣き叫ぶものだが、二度三度咥え込ませてみればこの通り。おのずと腰を振ってねだりだすようになるのだよ』
『何を馬鹿な事を……』
『口ではどんなにいやだいやだ言ってもな。――ほら、見ていなさい』
『いや…ぁ……ぁぁ…んん!……あっ!あ、あんっ!』

(え……?)

 女の上げる甲高い声に父から彼女に視線を移す。

『ほら、とても愉しそうだろう?コレは本当に男が好きな雌犬でね、こうやってこの割れ目の奥を、私にペニスでグチャグチャに掻き回されるのが大好きなんだ』
『っん……!ッあ!ああああん!』

 言って父は彼女の下腹部にある小丘の片方を掴むと、自分達の結合部分が良く見える様に開いてみせた。

『こらこら、そんなに悦ぶな。――イルミ、お前は女のここは見た事はあるかい、これが女性器(ヴァギナ)だ』
『……いるみさま、みないで』
『ああ、イルミ、お前に見られてコレもナカをヒクつかせて悦んでいるよ。なんていやらしい雌犬だろうね、そうは思わないかい、倅よ』
『あっあん!旦那さま、どうかお許しくださ、い……っ!』
『許す?お前は一体何を言っている。自分が誰に生かされているのか、自分の主人が誰なのか、それを忘れている召使に懲罰を与えるのは主人の当然の役目であろう?』
『は、は…ぁ……あっ…あ、ああああ!』
『物覚えの悪い雌犬は、こうやってペニスでキチンと躾直してやらなければならん』

 私の知らなかった女の顔で涙を零し、腰をくねらせて、父の苦痛を飲み込みながら彼女はもう一度「みないで…」と言った。

 しかしどんなに彼女が見ないでと言っても、父の腕が彼女の太股を腕にかけて片足を持ち上げているのだ。その状態で大陰唇を開き、彼女との結合部分を良く見える様にしながら抽挿を繰り返している限りそれは不可能だろう。
 ならば私が見なければ良いだけの話ではあるのだが、私は何故か目の前で行われている蛮行から目を背ける事が出来なかった。

『いるみさ、ま、おねがいです、みないで、みない、で……ッ!!』

―――恐らくあの日。

 「お前はあの子の事が好きなのかい?」と聞かれ、言葉につまらせた私を見て、父は私が彼女を好いていると解釈したのだろう。

 彼女が私にとってどんな存在だったのか。

 父に貫かれながらくぐもった声を上げる彼女の顔を見ながら、そんな事を考える。

 広義的に解釈するのであれば、彼女は私にとって数百といる家の使用人の内の一人であった。
 当時の自分が彼女に対してどの様な感情を抱いていたのかと言えば、まあ、それなりに好意的な感情はあったのだろうと思う。――彼女と接する私を見て、実の父がそう思う程度には。
 しかし性的衝動も絡まぬ幼い時代の愛着をあの手の世俗的な名前で呼び、それにカテゴライズするのもナンセンスな話であろうと思う。

 彼女はそう、例えるならば毎朝パンに塗っているエッグモント産のバターの様な、私にとってなくてはならない存在であった。
 同時になければないで、代用品はすぐに探せる程度の存在でもあった。
 別にパンに塗るのはバターでなくても良い。バターを塗る必要のないパンを食べても良いし、朝食にパン以外の物を食べると言う選択肢もある。何なら朝食を食べないと言う選択肢だってある。

 元々自分は昔から情熱的なタイプではなかった。

 そんな冷めた自分を見て、アミール王子は事ある毎に「イルミも恋をした方が良いよ」と語るが、彼の言う通りほんの一時の情動的な興奮で自分の人生や人生観が劇的に変わるとは思えない。
 女は数え切れない程抱いて来たが、彼女達に対して激しい執着や強い興味関心を抱く事はなかった。友人(アミール王子)が語る様な身を焦がすような情動も、自分の人生を懸ける様な情熱も知らない。特段知りたいとも思えない。

 そんな風に自分が女性に対して冷めた人間になった切欠を突き詰めて追求して行けば、恐らくあの日の出来事が根底にあるのだろうが、だからと言って父や彼女を責めようとも責めたいとも思わない。
 それは別に私が出来た人間だからと言う訳ではなく、心の底からどうでも良いからだ。

 元々自分は昔から人や物に執着しないタイプだった。

 恵まれた環境に産まれ、物質的にも恵まれて育ったからだろう。
 欲しい物があれば誰もが競う様にして私の元へ持ってきたし、いつだってどこにいたって、一番良い物は物の方から私の元へとやって来た。
 何か欲しい物があれば、私が「欲しい」と言葉を発する前に周囲の人間が気を利かせて持って来る。産まれた時からそんな人生だった。
 物心付く前からこんな生活を送っていると、何かを大切にしようと思う気も起きなくなるものだ。
 自力で手に入れた物や希少価値の高い物は大切にする事もあったが、それでも他の人間に比べればあまり良い扱いはしていなかったであろうし、さしたる執着心もなかった。興味が薄れてどうでも良くなるのも早かった。

『地位、名誉、財産。私達の様に全てを持っている男が何で躓くか判るかい、倅よ』
『……身の丈にそぐわない野心でしょうか?』
『違う、女だ女』
『ああっ』

 言って父は彼女の胸を鷲掴みにする。
 屋敷の他の使用人に比べ、胸のない女だと思っていたが脱がせてみると意外にあるなと割とどうでも良い事を思いながら相槌を打つ。

『女、ですか』

 私の言葉に父は大真面目な顔で頷くが、裸に剥いた女を抱えながら息子にする話ではないな、と思った事だけは良く覚えている。

『歴史の紐を解いてみると良い。賢君と呼ばれたカルロス皇帝も、殲血王チャチーチルミも、帝国五大将軍ランカスターですら女で躓いている。女とは私達男を惑わす悪魔だ。特に美しい女は恐ろしい。魔性だよ、魔性。あやつらは私達が必死で築いた地位や財産を一瞬にして掠め取って行くのだから』

 父は至って真面目な様子で話をしているが、いや、だからこそ父と彼女の肌がパンパン音を立ててぶつかり合う音と、それに付随されてグチグチ鳴る水音がえらくミスマッチに感じられた。

『皇教国のカルカレッソの悲劇をお前も耳にした事はあるだろう?女は時に国まで乗っ取り、傾け、滅ぼしてしまう事だってある。――…しかし私達男は女がいなければ生きていけない。女がいなければ子孫を残す事は出来ないからね。ではどうすれば良いのか?』

 虐殺は違うだろう。殺してしまえば、子孫を残す事は出来ない。
 遠ざければ良いのかと思ったが、それも違う気がした。

 父好みの回答はこれだろう。

『ローズヴェルドの様に女性の人権を取り上げるのが良いのでしょうか?』
『ああ、惜しいな。惜しいよイルミ。それは半分正解で半分不正解だ。何故ならばこの国ではそれは不可能な事だから。正解は――、』
『あん!』

 父は彼女の胸を揉んでいた手を下に伸ばす。
 二人の結合部位の少し上で腫れ上がっている肉芽を押し潰し、ぐにぐに弄くり回しながら父は腰の動きを早めて行く。

『やぁっ!やん!ぁっ!あ、はぁ、ぁ…っん!だんな、さま……!いけません……!!いけませ…ん……っ!!』

 女の上げる甲高い声にジンジンとした痺れが下肢に走る。
 体を流れる血液の全てが、下腹部に血液が集中して行く様な気すらした。

 私を一瞥すると父は汚泥の様に濁った目で嗤い、彼女の奥を穿ちながら言う。

『こうして慣れておくのが一番なのだよ。美しく、優秀で従順で質の良い雌犬を常な何匹か飼いならしておくのが良い。そうすれば外でどんなに良い女を見付けても何ら問題はない。コレクションの一つに加えてやるかどうか、そしてその労力と金をかけてやる資産価値があるのか冷静に判断する事が出来る。そうすれば女など恐るるにたらん。――さあ、お前もこちらへおいで、イルミナート』

―――あれは今から何年前の出来事だっただろうか?

『いけません、旦那様……!!あ、ああ、イルミ様、ダメです!こんな事……奥様に、知れたら、私はクビになってしま……んんっ!ん、んんんんーっ!!』
『こらこら、そんなに騒いだら皆が起きてしまうだろう?』

 悲鳴を上げる女の口に、父は床に投げ捨てていた彼女の下着を詰めた。

―――あれは確か、父が妙に荒れていた時期だった。

 元々うちの両親の夫婦仲はお世辞にも良いとは言える物ではなかったが、そんな両親の仲が一番険悪だった時期だ。

 ああ、確かあれはあのお方がお亡くなりになった年だったはずだ。

 恐らくそれもあり、父は仕事が大変な時期だったのだろう。 
 母も母で仕事で疲れて屋敷に帰宅した父を労ったりする様な女ではない。
 まあ、母をそんな冷酷な女にさせたのは他ならぬ父自身なので、父が「あの女は冷たい」と嘆く度、自業自得であろうとは思っていたのだが。

『犬猫の血統証と同じでな。狭い世界で、限られた高貴の血筋だけで世継ぎを作り続けると、徐々に弱い固体が増えてくるものなのだ。私やお前の時の様に外国の全く違う高貴の血と混ぜてみるのも良いが、この様にたまに下々の血を混ぜてみるのも良い』
『進化の淘汰圧と劣性遺伝子の問題ですね』
『ああそうだ、優秀な我が息子よ。純潔主義には辛い所ではあるが、まあ、こればっかりは仕方ない。下々(ざっしゅ)の血を入れる事により、健康な世継ぎが産まれる。馬車馬の様に働かせ税を絞り上げても、干ばつや飢饉に襲われても生き延びて来た者達の子孫は、どれも皆頑丈に出来ているからね。とは言っても何も優先的に当主にしてやる事はない。雑種は所詮雑種でしかないのだから。次期当主の座も家の財産を受け継ぐのも、基本は純潔の世継ぎだけで良い。ただ、いざと言う時の為の代理に何匹かこさえておくと良い。厳選した優秀な雑種との交合で、稀に純潔を凌ぐ有能な固体が産まれる事もある。その時はそちらを跡取りにしても良い。そうして我が家はここまで大きくなった。我が息子よ、覚えておくと良い』

―――あの後、

『ああ、これではコレが孕んでもどちらの子供か判らないなぁ』

 朗らかに笑いながら言う父の言葉に、彼女の顔が真っ青になった。

『まあ、もし孕んだら私の子として育てるか。イルミの子供にして育てるのはあまりにも体裁が良くないからねぇ』

 翌朝。母が能面の様な顔の下半分を扇子で覆い隠しながら淡々と「首を吊って死にました」と告げた女の名前は――、



「――――――ッ!!」

 もしかしたら、誰かの名前を叫ぼうとしたのかもしれない。
 それとも何か、誰かを罵る言葉の類か。

 しかし喉が引き攣って、言葉らしい物は口から出て来なかった。

(……何故、 今更こんな夢を)

 ズキズキ痛む頭を抑え起き上がると外はまだ暗かった。
 眼鏡をかけて枕元の時計を確認するが、まだ日付も変わっていない。

「……スノーホワイト…?」

 隣で寝ていたはずの少女の姿がなかった。
 しかしシーツにはまだ彼女の体温が残っている。
 彼女がベッドを抜け出してそう時間は経っていないらしい。

「まったく、本当に手のかかるお姫様だ…」

 私は嘆息混じりに寝台から起き上がった。

―――最近、寝覚めが最悪だ。

 それもこれもスノーホワイト。――…あの少女に出会ってからだ。

 薄暗い廊下をランプの灯りを頼りに歩きながら、夢の続きを思い出す。

(そうだ、確かあの後父は…)

 倉庫の床に伏せて、すすり泣く少女を冷たい目で見下ろしながら父は言った。

『分かったね、女になんて夢中になる方がおかしいのだよ。私の父の国では、女に人権なんて大それた物を与えはしなかった。女を産めばその家は負債を抱えてしまう事になる。成長すればいつどこぞの馬の骨に子種を仕込まれ、孕んで来るかも判らない。――基本的にこいつらは馬鹿なんだよ。甘い言葉を囁いてちょっとばかり優しくしてやれば、愛だ恋だ運命だと浮かれてすぐに股を開く。金をかけて育ててやっても、どこぞの種馬に破瓜させられてしまえば最後、良い家に嫁がせて家に貢献する出す事も出来なくなる負の遺産だ。つまりハイリスクローリターンでしかない。解るかね?』
『ええ』
『ああ、イルミ。お前が男で本当に良かった、お前が娘だったらと思うとゾッとするよ。むすめなんて雌猫と同じだからね。放し飼いにでもしてみろ、すぐにボテ腹になって帰って来る。下等な雑種の種を孕んで来られたらもう最悪だ、脈々と受け継いできた正統なる伯爵家の血が汚されてしまう』
『…ええ』
『だからローズヴェルドでは、娘に避妊薬を飲ませる費用や避妊手術を受けさせる費用の捻出が難しい家や、外で勝手に孕んで来ないように監視する人間を雇う余裕のない家では、女児が生まれた瞬間に括り殺すのが一般的なのだ』
『…存じております』
『女なんて動物だよ、動物。犬猫と同じだ。上下関係を力ではっきり判らせて服従させてやった後は、しっかり躾けてやれば良い。愛玩動物として私達男の心と体を癒す事が出来る、従順で可愛げのある奴だけ可愛がってやれば良いのさ。なぁに、あいつらは子供をあやすようにあやしてやって、砂糖菓子や適当な装飾品、宝石(いしころ)を買い与えていれば満足する単純な生き物だ』

 ローズヴェルド出身で向こうの男尊女卑思想に染まりきってっている祖父の教育を受けた父もまた、祖父の思想に近い。
 父のような人間がこの国で生きるのは、鬱憤も溜まって仕方がないのだろうと思う。
 ここリゲルブルクでは自国を守護する水の精霊、ウンディーネ崇拝が根本にあるので、女神崇拝や精霊崇拝の色が濃い。
 リゲルブルクは男女同権社会ではあるが、どちらかと言えば女性優位の社会だ。そして女神崇拝の如く、家庭内でも妻や母を女神扱いして崇拝するのが一般的だ。
 父もリゲルブルクの国風は十二分に理解しており、外では周囲に合わせて大人しくしている様だが、自分の王国である屋敷の中では別だ。

『そもそも女と言う奴等は――、』

 こうなると父の話は長くなる。

 息が酒臭いし、どうやらかなり飲んでいる様だ。
 とりあえず床に散らばっている服を拾い集めて彼女に渡す。
 私から服を受け取る時、彼女は父に聞こえない様に小さな声で「イルミ様、違うんです」と言ったが、一体何が違うの解らなかった。

 元々私達は恋人同士でも何でもない。

 愛の言葉を交わした事すらない。
 彼女は本当に、私の家で働いている使用人の内の一人でしかなかったのだ。
 彼女が私に一体何を弁解する必要があるのだと言うのだろう?――…元はと言えば彼女は、この屋敷の主人である父の所有物なのだ。

『こうやって何度か抱けばいずれ飽きが来る。食べ物と同じで、女は初物や旬の物を食べるのが一番良い。時にはワインやチーズの様に成熟した女も良い。食事も同じ物ばかりは食べ続けるのは辛いだろう?女もそうなのだよ、だから良い物を沢山つまみ喰いして食べ歩く。それが一流の男の、美食家のする事だ』

 父は自分の襟元を直し、どこか遠くを見つめながら嘆息した。

『……ラインハルトももっと賢い男だと思っていたのだがな』

(ああ、なるほど。また陛下と揉めたのか…)

 最近、陛下が自分の思い通りにならないと嘆いていたが、まぁ、また何かしら城であったのだろう。


****


 次第に父の言っている事はあながち間違ってはいないと思う様になった。

 確かに歴史を振り返ってみれば女で失敗している男は数多く存在する。
 現実問題、爵位や財産の有無に関わらず、周りでも女で失敗し失墜して行く男は良く見掛けた。

 パブリックスクールに通い出すと、どう見積もっても家の格が釣り合わない、結婚したとしても損益の色が濃い女にたぶらかされる貴族の学友を何人も目にする事になった。
 中には女との情事に明け暮れて、それに没頭したいがあまり学校を自主退学する馬鹿まで存在した。
 彼等は口々に「真実の愛を見付けた!」と言うが、一時の情熱――…いや、性欲で目が曇っている様にしか見えなかった。

 うちが代々政略結婚で、着々と地位と財産を築いてきた家だからだろう。

 彼等の言う所の真実の愛、――一銭の得にもならなければ、現状維持どころか家の格を下げる様な女と婚約するなどと言う行為は、愚かだとしか思えなかった。

 この国の貴族階級の子弟は長年、優秀な学者や家庭教師を屋敷に招いて指導を受けると言う学習形態を主としていた。しかし近年、社会勉強の一環と言う事で一定の基礎学力を身に付けた後は全寮制の学校に通うのが主流となった。
 それが私やアミール王子が通っていたパブリックスクールと言う物なのだが、この手の学校は入学金や学費が非常に高額で入学審査も厳格な為、生徒の半分は爵位を持った貴族か裕福層に属する人間となる。
 残り半分はどんな生徒かと言うと、難関試験を突破し、奨学金を得て入学して来る非常に優秀な一般人である。そこに親の財力や身分などは関係ない。

 ここまで言えば想像は付くだろう。

 運良くパブリックスクールに入学出来た一般生徒達は、何がなんでも学生時代に将来の伴侶を捕まえておこうと、死に物狂いで裕福層の学生に喰らい付いて来るのだ。

 例に漏れず私の下にも、未来のヴィスカルディ伯爵夫人の座を射止めようと言う女達が嫌になる位やって来た。
 しかし父がうちの使用人を美女で揃えているからだろう。
 股を開いて誘惑して来る女は腐る程いたが、女に慣れていた事もあって特定の女に夢中になる事はなかった。
 その度に女に不自由しない環境を与えてくれた父に感謝したものだ。
 女に免疫が出来てなければどうなっていたか。……その最たる例が周りに山の様に転がっているだけに恐ろしかった。”社会勉強”と笑い飛ばせない例がパブリックスクールには多過ぎた。

 父が世界各国から選りすぐりの美女を集めただけあって、大抵はうちにいる使用人の方が美しい。
 稀にうちの屋敷にいる使用人よりも美しい女や、ある程度の地位や財を持った家の令嬢もいたが、自分が婚約するに値すると思える女はいなかった。

 どんなに良いと思った女でも一度抱けば興味が失せる。
 どんなに美しい女でも三度抱けば充分だ。
 どんなに相性の良い体でもいつしか飽きは来る。
 あの手この手を使って子種を授けて貰おう、愛妾にして貰おうと必死な商売女、――身の程を弁えていない屋敷の下女達は興ざめする。
 自分好みに仕込んだ処女も、躾けに成功し、従順な性奴隷となってしまえば次第につまらなく感じてしまうものだ。じゃじゃ馬慣らしも慣らすまでの過程が楽しいのであって、慣らした後の行為は酷く味気ない。

 父の教育により自然とそうなって行った自分は、この先も女で躓く事はないだろうと思っていた。

―――そんなある日、私はスノーホワイトに出逢った。



 私の想像を裏切らず、スノーホワイトはキッチンに立っていた。

 恐らく明日の朝食の下準備をしているのだろう。鼻歌を歌いながらパイ生地らしき物を捏ねる彼女は、今夜も現実を超越した美しさだった。
 窓から射し込む青白い月明かりがメロウのベールとなって、夜着を身に纏った彼女の姿を覆い隠す。
 月光(つきひかり)のベール越しに透けて見る彼女は、どこか妖精めいている。
 女を褒め殺す類の言葉はあまり私の得意とする所ではないが、ここにアミール王子が居ればきっと「常夜の月の精霊がうちに迷い込んでしまったのかと思えば、なぁんだ。私の麗しの姫君、吸血夢魔(キキーモラ)じゃないか。キキーモラは願い事を叶えてくれると言うが、我が家の妖精(キキーモラ)はどうなのだろう?今夜は妙に肌寒くて一人寝が辛いんだ。心優しい私の妖精(シュガー)、どうか今から私の部屋に来てはくれないかな?」とでも言って、ベッドに誘い込むのだろう。

 簡潔に言ってしまえば、彼女の美しさは人間の美を超越している。

―――こればかりは認めるしかない。

 この女は私が生を受けてから今まで出会った女の中で、一番美しい。

 彼女を超える美を私は知らない。

「あらイルミ様、まだ起きていらしたのですか?」

 こちらを振り返り微笑む彼女のその笑顔は人間離れした美しさではあるが、たった今咲いたばかりの花の様に生き生きとした人間らしい生気に満ち溢れている。
 人より絶対的に美しいと言われている精霊や妖精、魔性の類には絶対に出せない、限りある命の溌剌とした輝きだ。

(一時の美しさに儚さでも感じているのかもしれんな)

 人間の女の美など刹那的な価値しかない。

 例え今彼女がどんなに美しくとも、私の家に飾られてある絵画やブロンズ像、地下のワイン貯蔵庫のワインの様に年々資産価値が高騰して行く物ではない。経年劣化による減価償却は免れない。

 それなのに、彼女を前にすると何故こんなにも心が揺れ動くのだろうか。

―――リンゲイン独立共和国が、教皇国カルヴァリオに蹂躙される事は最早決定事項である。

 そう遠くない未来、彼女の愛する国は、民は、大地は血で染め上げられ、炎で燃やし尽くされる事が決定されている。
 既に心の臓に聖釘を刺され、聖墳墓となる事が約束された国の王女に一体何の価値があると言うのだろう。

(同情?違う。……もしや私は彼女に罪悪感でも感じているのだろうか?)


―――リゲルブルクの宰相として、彼女の国をカルヴァリオの贄として捧げる事に。


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Siti Dara

Hi. I’m Designer of Blog Magic. I’m CEO/Founder of ThemeXpose. I’m Creative Art Director, Web Designer, UI/UX Designer, Interaction Designer, Industrial Designer, Web Developer, Business Enthusiast, StartUp Enthusiast, Speaker, Writer and Photographer. Inspired to make things looks better.

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