『Shirayukihime to 7 Nin no Koibito』to iu 18 kin Otomege Heroin ni Tenseishiteshimatta Ore ga Zenryoku de Oujitachi kara Nigeru Hanashi chapter 33

2・俺の残念な幼馴染について。……オタな。
 アキラに避けられる様になって、俺は自然とアキと二人でいる事が多くなった。
 俺にも彼女が出来たしクラスも違うので、学校で顔を合わせても話す事はあまりなかったが、暇さえあれば以前の様にふらりと隣の三浦家に遊びに行く癖は変わらなかった。
 とは言ってもアキラとはあの通りなので、アキの部屋でダラダラとくっちゃべってるだけなのだが。
 実は少しだけアキラとの仲直りも期待して遊びに行っていたのだが、俺が家に行くとアキラは頑なに部屋から出て来る事はなかった。

 絶交した手前アキラは俺に「もう家に来るな」と言いたいのだろうが、俺は元々三浦のおばさんとも仲が良く、彼女も今回の喧嘩の原因を知っている。
 「本当にどうしようもないわねぇ」と苦笑いする三浦のおばさんは、元々オタク化して行く息子を苦々しく思っていたらしく今回の件に対しては俺の味方だ。

「ごめんねぇ。あんな頑固なオタクだけど嫌いにならないであげて。おばさんもあとで言っといてあげるから」
「……ウッス」

 そんな話をおばさんとダイニングでしていたら天井が「ダン!」と鳴り、ダイニングテーブルの上の照明が揺れる。
 2階にある自分の部屋で俺とおばさんの話を聞いていたアキラが、どうやら床ドンしたらしい。

「アキラっ!!いい加減にしなさい!!」
「あ、別にいいっスよ、俺気にしてないんで」

 上のアキラに向かって叫ぶおばさんに、俺は涼しい顔のまま煎れて貰ったお茶を飲む。

「そうじゃないの。いえ、それもあるんだけれど、言いたい事があればハッキリ言えば良いのに、本当にあの子と来たら!!」

 そう言って肩を怒らせながらドスドスと階段を登ってくおばさんとすれ違う様に、「今日は数学だっけ?」と2階からアキが降りて来た。

「そうそう。今日学校でやったんだけど、Uみたいなのが俺苦手なんだわ、コツ教えてくれよ」
「Uみたいなの。……二次関数の事かな?」
「ああ、それ」
「えっと、そうだな、ちょっと待っててね、それなら部屋にあるドリルを使った方が良いかも」
「じゃお前の部屋に行こうぜ」
「え?……あ、ごめん、ちょっと待ってて。今部屋片付けてくるから」
「は?別に汚くてもいいって。俺とお前の仲だろ」
「年頃の女の子には見られたくない物もあるのよ、もう」

 いそいそとキッチンから出て行くアキの後ろ姿を見送る。

 最近アキの様子が少しおかしい。
 ちょっと前までは多少部屋が散らかってても俺を入れてくれたのに。
 何か部屋に隠しているんだろうか?

 おばさんはあの後、「ゲームをするなとは言わないが、成績が落ちる様なら全部売るから」「口があるなら口で言えば良いでしょう?壁ドン床ドンはやらないの!今度やったらパソコン叩き割るぞ!」とアキラの部屋でアキラに至極真っ当な説教していた。
 おばさんの声と、渋々頷くアキラの声は隣のアキの部屋まで聞こえて来る。
 その後、アキの部屋で宿題をやっている俺達に軽く挨拶をしてバイトに出て行った。

 俺は三浦のおばさんに信用されている。
 「年頃の娘と部屋に二人きりにしたとしても間違いが起こる訳がない」と信頼されてるし、「間違いが起こったら起こったでシゲ君なら良いか」と言う位好感まで持たれている。
 実際何度か「今の彼女と別れたらうちのアキなんかどう?」なんて冗談混じりに言われた事もある。

(でも、アキはないわ……)

 真向かいに座る幼馴染の顔をテーブル越しに観察してみる。
 長いサラサラストレートの黒髪はいつ見ても綺麗だと思う。
 美人……とまでは言わないが、まあ、それなりに可愛い方だろう。豚鼻だとか出っ歯だとかそういう致命的な欠点がないと言うのはデカイ。
 地味な女だが、化粧をすれば一気に化けるタイプの顔だと思う。
 それを本人に言っても「校則を破る事はしたくない」と言って絶対やらないのだが。

(なんて言うかこいつ、全体的にモサイんだよな…。)

 処女特有のモサさとでも言うのだろうか。
 床にぺたんと座るその座り方から、髪のかきあげ方、歩き方や笑い方など仕草等どれを取っても色気がない。
 で、ダサい。究極にダサい。
 今俺達の下に敷かれてるラグからカーテンの柄、そしてアキが今着てる部屋着にいたるまで全てがダサくて芋臭い。今アキが使ってるシャーペンや筆箱までもがダサい。ここまでダサいのはむしろある種の才能なのではないか?と思う事もある。
 女子って皆可愛い筆箱とか色ペン好きじゃん?「なんでそれ買っちゃったの?」「もしかしてお前イジメられてて罰ゲームとかでそれ使わせられてる?」と真顔で問いたくなる位ダサい筆箱を使ってる。ついでに言うなれば乳もない。
 そう言った意味でアキは俺の守備範囲外で、年頃の俺達が一つの部屋で勉強していても間違いが起こる事もなかった。
 元々赤ん坊の時からの付き合いだ。今更変な気が起きる訳もない。アキラもアキも俺にとって兄弟の様な存在だ。

 そしてその事は彼女の母親も弟のアキラまでもが承知しており、俺がアキの部屋に入り浸る事に対して何か言う者はいなかった。

「で、解はこうなるの。シゲ君もやってみて?」
「ん?ああ…」

 アキは頭が良い。
 今日も勉強を教えて貰うと言う口実でアキの部屋に入り浸った俺だったが、アキの話も上の空で、アキラの部屋がある方向の隣の壁をぼーっと見ているとアキもすぐに俺が勉強に集中出来ていない事に気付いたらしい。

「そういえば、アキラ君と喧嘩したんだって?」
「喧嘩したっつーか、……絶交された」
「絶交って。……子供みたい、アキラ君って本当にガキだなぁ」

 そのまま部屋には沈黙が訪れて、アキのシャープペンシルがサラサラとノートの上を走る音だけが部屋に響く。
 やる気も出ない俺は、おばさんがくれたアクエリを飲み干した後、フローリングの上に敷かれたラグの上にだらんと倒れる様に寝転がった。
 アキの事は友人として好きだが、やはり異性と言う事で遠慮はある。
 アキは元々一緒に居て話が弾んで場が盛り上がるとか、その手のタイプではない。
 それに女のアキじゃ男同士でする様な気のおけない話は出来ない。
 真面目ちゃんタイプのこの女は、アキラとしていた様な馬鹿話や女の子の話も出来ない。
 その手の話をしてみれば軽蔑の眼差しで見られ、チクリと嫌味を言われるだけだ。

「そう言えばシゲ君、綾瀬さんと別れたんだって?良い子じゃない、何が駄目だったの?」
「だってあいつ中々ヤラせてくんねーんだもん、ヤレねぇなら付き合う意味ねぇし」
「……最低」

(ほらな、すぐこれだよ)

 白い目で俺を見るアキに、俺はスマホを取り出して奴のベッドの上に寝転んだ。
 ラグの上だとは言え、フローリングに寝転がるのは背中が痛くなる。

「そうは言うけどよー、女って付き合うとマジ面倒くせーんだぜ?1ヶ月記念のプレゼント寄越せだ、記念プリ撮りに行こうだ、初キス1ヶ月記念とか初デート記念とか事ある毎に記念日作ってさ。イベントは誕生日やクリスマスだけじゃねーんだよ、金がいくらあっても足りねぇし。LINE無視するとすぐにヒス起こすし、電話は長ぇし、……はあ、女ってマジだりぃわ」
「……そんなに嫌なら付き合わなきゃ良いじゃない」
「えー。でも彼女は必要っしょ、彼女いないなんて非モテみてぇでダッセーし?」
「あっそ。じゃあ我慢して付き合えば?」

 こちらの言い分を主張するが、幼馴染の眼差しはどんどん冷たくなって行くばかりだ。

「でもさぁ…デート費用で小遣い消えるし、放課後デートも俺持ちだし。指輪欲しいって言うから買ってやればよ、『友達の彼氏は大学生でバイトしてるの。だからティファニーの指輪もプレゼントしてもらってたよ』とか言って溜息つかれるし。ティファニーが欲しいなら最初から金持ってる大人と付き合えっつーの。……なぁアキ、俺可哀想じゃね?超可哀想じゃね?慰めたくなってきた?」
「ぜんぜん可哀想じゃない、慰めない」

 つっけんどんとした態度で教科書を捲る冷たい幼馴染に俺は唇を尖らせる。

「チッ…冷てぇ女」
「冷たくない、極普通の女の子の反応だと思う」
「ま、そう言うワケで面倒じゃん?維持するのに金もストレスもかかるのにヤレねーとかさ。なら次に行くわ次」
「本当、三次元の男は夢がないわ…」

 飽きれた様子で溜息をつくばかりのアキに、俺はベッド脇の壁を見る。
 この壁の向こうにアキラがいる。

 アキラと話したかった。

 アキラに今の話をしたら、きっと「金目当てのビッチ死ね」「お高く振舞ってんじゃねー!こちとらお前等がまんこつけて往来を歩いてるの知ってるんだぞ!!いいからさっさとまんこ見せろ!!」とか意味のわかんねー事言って笑わせてくれただろうと思うと、何だかまた寂しくなった。



 それから間もなくアキの方もオタク化した。

 正直「またか…」と思ったし「何なんだこの姉弟は…」と思った。
 三浦姉弟のオタク化にげんなりしているのは俺だけでなく、彼等の母親もだったらしい。
 近所のコンビニでおばさんと偶然会って世間話をしていたら「最近ね、子供達の部屋がどんどん凄い事になって行ってるのよ、本当に誰に似たのかしら…」と遠い目をしながらぼやいていた。
 俺も何故こんな若くて美人でイケイケの母ちゃんからあんな芋娘とキモオタが産まれたのか、常々疑問を感じていたのだ。
 恐らく今は亡き三浦父がよっぽどアレな男だったんだろうと思う。

 そして気がついた時には、アキは前髪を長く伸ばして顔を隠し、常に独り言いながらニヤニヤ笑っているただの不審者になっていた。

「デュフ、デュフフフフ、…淫蕩虫……雄しべ草…。エルにゃん、エルにゃんの生足、太股、純白ドロワーズ……自重、私、自重。…………フフ…。」

 うん、ワケわかんねぇ。そしてキモイ。
 帰り道、前を歩くアキに気付き声を掛けて一緒に下校している所なのだが、この女、さっきから一人でワケの分からない事ばかりブツブツ呟いている。

 元の顔は悪くはなかったのに、どうしてこうなった。
 昔はそこそこ可愛かったのに、なんでこんな不気味の谷の魔女みたいな女になってしまった。

 昔は可愛いが故に陰キャラグループで浮いていたのに、今じゃ見た目もグループにマッチして見事に馴染んでいる。

「お、俺やっぱ走って帰るわ…」
「シゲ君もしかして急いでる?なら私も一緒に走ろうか?」
「違ぇよ!お前と一緒に歩いてる所を誰にも見られたくねぇんだよ、着いてくんな!!」
「え…?」

 こうなってしまうと、流石の俺も一緒にいるのが恥ずかしい。
 それ以来俺はアキに外で会って声をかけられても、徹底的に無視をして知らない人のふりをした。


*****


「お邪魔しま~す、アキさんに勉強教えて貰いにきましたー!」
「あら、シゲ君いらっしゃい」

 それでもふらりと三浦宅に出入りする癖は変わらなかった。この家に出入りするのは小さい頃からの習慣だし、もう俺の習性に近いと思う。
 しばらくアキの部屋には遊びに行っていなかったが、調度彼女と別れて暇だった事もあって久しぶりに顔を出したのだ。
 今回の彼女は俺にしては珍しくもった。なんと4ヶ月だ。自己最高新記録。
 彼女って3ヶ月以上続く事もあんのな、驚いた。

「バイト先からアイス貰ってきたんだけど、食べる?」
「マジスか?いただきまっす、おばさん今日も美人ッスね!」
「もう、シゲ君たら相変らず上手いんだから。褒めてももうアイスはないんだからね?」
「チェ、バレたか」
「もう、シゲ君たら。……仕方ないなぁ、アイスはもうないけどクッキー出しちゃおうかな?」
「マジ!?やった!前から思ってたんスけど、おばさん10代でも通るんじゃないッスか?いや、アキの制服着ても絶対違和感ないッス!!おばさんマジぱねぇッス!!アイドルグループに入ったら絶対センター取れますよ!!」
「こらこら、これ以上褒めてももう何も出てこないぞ?」

 階段から降りて来たアキは、俺とおばさんのやりとりを見るなりとげんなりとした顔になった。

「お、アキ。勉強教えてもらいに来てやったぞ」
「今忙しいのに」

 アキは顔を顰めて嫌そうな顔をしたが、おばさんに「忙しいってどうせあんたもゲームしてるだけでしょ、シゲ君と一緒に勉強しなさい」と言われると不承不承に頷いて、俺を部屋に通してくれた。
 学校ではガン無視するのに、下校すればそ知らぬ顔で家に遊びに来る俺にアキは大変不服そうだったが、それでも口に出してその不満を言う事はなかった。

 すまんな、アキ。俺にも立場ってもんがあるんだよ。

「つかさ、お前前髪長すぎ。切ったら?」
「切らない」
「なんでそんなに伸ばしてんの?デコ出せば?お前元はそんなに悪くねぇのに勿体ねぇよ」
「……顔、見せたくないから」
「なんで?」
「シゲ君には分からないだろうけど、三次元には見たくないものが沢山あるのよ」
「……そのさ、二次元とか三次元とかオタクっぽい事外で言うのやめろよ、一緒にいるの恥ずかしい。家とか二人っきりの時はいいけどよ」
「…………。」

 その髪型や不気味な話し方もやめろと言うが、アキは首を縦に振らなかった。
 何気にこの女も頑固だ。

ガチャ、

 アキが自室のドアノブを回す。

(これは…、)

 おばさんの話していた通りだった。

 少し遊びに来ていない内に、弟の部屋同様強烈な事になっているアキの部屋に唖然とする。
 これはおばさんも死んだ魚の様な目をして、力なく笑う訳だ。

 姉の方の部屋にもアニメのポスターやら何やらがベタベタ貼られていた。
 ベッドの上に置いてあるこの長い抱き枕は、――アニメキャラの等身大抱き枕だろうか。……ドン引きした。
 恐る恐る抱き枕を引っくり返してみると、抱き枕には表と裏があって、表は普通に服を着ている男のイラストが書いてあるのだが、裏の男のイラストは何故か半裸だ。

「なにこれ」
「エミリオたんよ」
「え、エミリオたん……。お前こういうの好きなの?」

 抱き枕を俺からひったくる様にして取り返すとアキは憮然と言い返す。

「好きだけど。愛してるけど。最萌えだけど。何か文句ある?」

(最萌えって…。)

「いや、別に文句はねぇけど。……ま、まあ、アリなんじゃね?」

 一度アキラで失敗している俺は真剣に言葉を選んだ。
 すると長い前髪の下に隠れている幼馴染の目が輝きだす。

「え?本当?もしかして興味ある?シゲ君もこういうの好き?」
「あ、ああ、まあ」

 適当に頷くと、アキのマシンガントークが始まった。

「エミリオたんは『白雪姫と7人の恋人』って言うゲームの攻略キャラの一人でね!本名はエミリオ・バイエ・バシュラール・テニエ・フォン・リゲルブルク。リゲルブルクの第二王子殿下なの。お兄ちゃんに甘やかされて育ったワガママ王子だから攻略するのには”忍耐”のスキルが必要になるんだけど、や、でもその我侭な所もエミリオたんの魅力なんだよね!エミリオたんは油絵が趣味だから攻略するには”芸術”のコマンド上げないと駄目なんだ!王子様だから”気品”と”礼節”もそこそこ上げないと駄目で、登場するのも中盤からだから『白雪姫と7人の恋人』では2番目に攻略するのが難しいキャラだって言われてるんだけど、この子、好感度が低い時と高い時のギャップが凄いのよ。最初は攻略キャラの中で一番冷たいの。初回はさ、私も『何コイツ、マジ何様なの?』って何度もキレそうになったんだけど、もうメロメロ!! エミリオたんとイルミ様はこのゲームの2大ツンデレって言われてて、あ、イルミ様っていうのは、リゲルブルクの宰相でね、巷では鬼畜眼鏡とか麻縄宰相とか呼ばれててね、」
「あ、ああ」
「イルミ様を攻略するのがまた難しいのよ。貴族の家の出の気位の高い人だから攻略には”気品”も必要になってくるし、”知力”はMAXまで上げないと攻略出来ないのね。イルミ様の難しい所はイルミ様の親密度と同時進行でエルにゃんの親密度も上げなきゃならない所なの。あ、エルにゃんって言うのはイルミ様の弟なんだけど、腹違いの弟で仲があまり良くないのよ。それで二人の親密度を同時進行で上げて兄弟イベントを発生させ、イベントを全てクリアし兄弟仲を改善する所まで持って行かないとイルミ様EDは見れないの。あ、でもエルにゃんは兄弟イベントを全部見なくても攻略できるのよ。そうそう、エルにゃんだけど美少女な!男の子だけどビバ美少女!ここ大事!テストに出ます!!」
「は、はあ」
「で、イルミ様のEDの難しい所なんだけど、エルにゃんの親密度を上げ過ぎちゃうとエルにゃんルートに入っちゃってイルミ様ルートに戻れなくなるのよ。ここの匙加減がまた難しくてね。で、まだあるんだわ。エルにゃんの親密度を上げるには”家政”の中の一つの”料理”のスキルアップが必要になるんだけど、”料理”のコマンドばかり打ってるとワンコ君のイベントが発生しちゃうんだな。で、ワンコルートに行っちゃうの。皆初回はここで躓くのよね。イルミ様EDを見るつもりだったのに、気がついたら何故かワンコルートに入っていたって言う落とし穴に陥るの。かくいう私も何度もそこで何度も何度も躓いたんだけどさ、」
「お、おう」
「ああ、話すよりも見せた方が早いか。ちょっとそこ座ってて、今プレスタ起動するから」

(やっと終わった……?)

 ひたすら続くオタトークが終了された事に、俺は安堵の息を吐いた。
 ゲーム画面では、何やらキラキラしたムービーが流れている。

「OPムービー見る?スキップする?」
「あ……じゃあ、スキップで…」
「そうだよね!早くゲームしたいもんね!!」
「あ…ああ…」
「ちょっとまっててね、今イベントシーン見せてあげるから」

 弟の方もそうだが、姉の方もなんでそんなにイベントシーンを見せたがるのだろうか。
 別に見たくもないんだが、他にやる事もないので幼馴染の隣で胡坐をかいて、スタートボタンを押すアキを見守る。

「あ、そうだ!エミリオたんの前に7人の恋人の攻略キャラを一人ずつ紹介するね!!最初はメインヒーローのアミー様!!アミー様はね、難易度が一番高いキャラでこのイベント見るのに凄い苦労したのよ、3週間もかかった。EDはまだ見れてないんだけど、見れるようになったらシゲ君にも特別に見せてあげようか?」
「お、おう」
「じゃあアミー様のEDが見れたらシゲ君にLINEするよ、そしたらうちに遊びにおいで」
「おう」

 俺の答えに何故かアキはとても幸せそうに微笑んだ。
 こんな嬉しそうなアキの顔、久しぶりに見た様な気がする。

(そうか…そうだよな…)

 自分の好きな物を否定されれば悲しいし、肯定されれば嬉しい。
 アキラだってそうだろう。
 アキとの今のやり取りで、アキラとの仲直りの解決の糸口が見えた様な気がした。

(でもそうなるとまたアキラとあのゲームやらなきゃなんねーのか…)

 それもまたキツイ。精神的にキツイ。

『私は羽の生えていない天使を産まれて初めて見たよ』
『え…?』
『スノーホワイト、君の事だ』

 そんな事をやっていると、テレビ画面ではアミー様のイベントなる物が始まっている。
 アミー様とやらのクサい台詞に、俺の背中にムズムズと寒イボが立った。
 しかしアキと言えば、隣で頬を赤らめながらうっとりとした表情でアミー様とやらを見つめている。

(マジかよ…)

『それとも君は魔法使いなのかな? 一体どんな魔法を使って、私をこんなに惹きつけるの?』
『そんな…』
『悪い魔法使いにはお仕置きが必要だね。いけない呪文を唱えられない様に、私が君の唇をふさいであげよう』

 そして画面にはキスシーンのイラストが表示された。

「きゃあああああああああああああ!!!!アミー様、アミー様、マジ王子!!マジ王子様!!素敵、素敵、抱いてアミー様ああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!」
「えっ」

 叫びながら床の上をローリングする幼馴染の姿を俺は呆然と見下ろす。
 アキはハッと気が付いた様にすぐに起き上がると、咳払いをした。

「これがアミー様とのキスイベントね。イベントは発生してもステータスがイベント攻略数値まで達していないとこのスチルをゲットする事は出来ないんだ。で、スチルをゲットしていないとイベントを発生させていてもEDは見れない訳で、」

 また延々とオタトークを展開するアキだったが、彼女の言葉は俺の耳を右から左へと流れて行く。俺はアミー様とやらの台詞が表示される画面に釘付けだった。

『君は天使ではなく、私を惑わす為に天上から降りて来た墜天使なのかもしれないと最近思うのだよ。嵐が来れば簡単に折れてしまう、そんな可憐な花だとばかり思っていたが、それは私の思い違いだった。今宵の月をも惑わす妖美な常夜の精の様に危険な香りを今の君は秘めている。――…ああ、スノーホワイト、私の美しい人。どうかこれ以上私を惑わさないで』

 アミー様は未だ耳が腐り落ちそうなくらいクサイ台詞を吐き続けている。

―――もう限界だった。

 ついに耐え切れなくなった俺は思わず噴出してしまった。

「何この男、くっせー!!」
「え?」
「マジうける!!てか、お前こんな男好きなの?いや、ないだろ、これはない!つかきめーよマジ。いや、ないないないない、これはない!」
「な、な、な、…………なんですって…?」

 アキはゆらりと立ち上がる。  
 その鬼神の如き表情にまずいと思ったが後悔先に立たずだ。

「私のアミー様が、アミー様が、アミー様が……き、きききききキモイ!!?」

バンッ!!

―――俺はまたしても三浦宅を叩き出された。

「シゲ君なんかもう絶交よ!!!!金輪際うちに来んな!!もう二度とあんたの顔なんか見たくない!!」
「はあ!?お前も絶交かよ!?お前こそ弟のことガキとか言えねぇだろうが!!」
「人には我慢出来るラインと出来ないラインがあるのよ!シゲ君はそこを越えたの!もう絶対許さない!!」
「このガキ!!ガキ!!クソガキ!!」
「るっさいな!!私の方があんたよりも2ヶ月年上なんだから生意気言うな!!」

―――かくて。

 俺は三浦姉弟との間には深い溝が出来て、三浦宅にお邪魔する事もなくなった。
 おばさんとは相変らず仲が良かったので、近所のコンビニで会うと今まで通り世間話をしたり、ジュースを奢って貰ったりした。



 俺が三浦姉弟と仲直りの機会を掴めずにいる内に、俺達は高校生になった。

 姉の方は少し離れた場所の進学校に進学したが、アキラの方は俺とそう学力が代わらないので、地元にある近所の同じ高校に進学した。
 入学式でアキラと同じクラスだと判った時、実は少し嬉しかった。
 もしかしたらまた昔みたいに戻れるかもしれない。

 しかしアキラは完全に俺を避ける。

 あんまり頭に来たので、奴がスクール鞄につけたアニメキャラのキーホルダーやオタクグッズをからかったりして絡んでみるが、そんな事をすればする程俺とアキラの距離はどんどん広がって行く。

(こっちが下手に出れば調子にのりやがって…、なんだよあのオタク。マジムカつく)

 坊主憎けりゃ沙汰まで憎いと言う奴か、俺も段々アキラが憎たらしく思えて来た。
 だから奴がいつも鼻の下を伸ばして股間を膨らませながらニヤニヤ見ている女子を、あえて口説いて付き合ってみたりもした。
 それでわざと大きな声で、わざとアキラに聞こえる様に彼女と寝た時の話をしたりして。

 そうやってちょっかいをかければかける程、俺は奴に煙たがられ、俺達の間に開いた溝がどうしようもなく深くなって行ったある日の出来事だった。

「お。アキ、今帰りか?」
「アキラ君か。うん、今日は早いんだ」

 駅から少し離れた裏通りまで来た時、路地で合流する三浦姉弟に気付く。
 声をかけても嫌がられるか無視されるのは分かっていたので、俺は声もかけずに彼等の横を早く通りすぎようと足早に歩いた。

 すると――、

「あ、下の村だ」
「リア充キタコレ」

 俺に声をかける訳でもなく、ひそひそ言い合う姉弟をギロッと睨むと奴等は口を噤んだ。
 帰り道の方向が同じと言うのは、こういう時不便だ。
 向こうも俺と同じ道を歩くのが嫌だったらしく、しばらく大通りの曲がり道で立ち止まったまま何やらぼそぼそ話していた。

ギイイィイイイッ!!

「姉ちゃん!!」

 しばし歩いて通りを曲がった後、車が急ブレーキの音とアキラの悲鳴じみた声が聞こえた。

(なんだ…?)

 胸が妙にザワついた。

 慌てて踵を翻して元来た道を舞い戻ると、そこには信じられない光景が広がっていた。

 硬いアスファルトの上に倒れている男女は俺が良く知る人間だったが、その青白い顔は俺の全く知らない人間の様にも見えた。
 二人の下にある赤黒い水溜りは、どんどん大きくなって行く。
 血糊のついたガードレールと電柱。下校中の女子校生や、夕飯の買い物帰りらしいの主婦の悲鳴。子供の泣き声。
 俺よりも先に掛けつけた人達が119に電話をしている声がどこか遠くで聞こえる。

(嘘だろ……?)

 ピーポーピーポーと遠くで聞こえる救急車のサイレンの音が、どんどん近く、大きくなって来る。

 俺はただ、呆然と立ち尽くす事しか出来なかった。


―――その日、俺は幼馴染を二人失った。 



ちなみにアキの初恋は下村です。
下村の初恋は三浦母です。
アキラ君はクレシン的男児で綺麗なお姉さんを見る度に恋をしちゃう系だったので、本人もどれが初恋だったか覚えてない模様。

アキの三次元の男性不信や男性嫌悪の元凶は、主に弟と下村君ですね。
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Siti Dara

Hi. I’m Designer of Blog Magic. I’m CEO/Founder of ThemeXpose. I’m Creative Art Director, Web Designer, UI/UX Designer, Interaction Designer, Industrial Designer, Web Developer, Business Enthusiast, StartUp Enthusiast, Speaker, Writer and Photographer. Inspired to make things looks better.

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