『Shirayukihime to 7 Nin no Koibito』to iu 18 kin Otomege Heroin ni Tenseishiteshimatta Ore ga Zenryoku de Oujitachi kara Nigeru Hanashi chapter 34

3・俺の残念な死に方について。……合掌な。
―――あの事故から1ヶ月が経過した。

 なかなか踏ん切りが付かなかったが、その日俺は病院に行った。
 目撃者によると、車に轢かれそうになったアキをアキラを突き飛ばして助けたそうだ。
 しかしアキラはやはりアキラと言うべきか、それともアキがドン臭いと言うべきか。アキラが突き飛ばした先にあった電柱にアキは頭をぶつけ、そのまま目を覚ます事はなかった。
 弟の方も運が良かったのか取り返しのつかない外傷はなく、全身軽い打撲状態と言った状態で病院に運ばれた。
 ただ車に飛ばされた時の衝撃で頭を強く打ったらしく、目を覚まさない。

 何だかんだで仲の良い姉弟だったと思う。

(でもよ。いくら仲が良くても、姉弟二人で一緒に眠り続けたまま目を覚まさないとか、そこまで仲良くなくても良いんじゃねぇの?)

「シゲ君、来てくれたのね」

 病室の窓を閉めるおばさんの目元は赤い。
 さっきまで泣いていた事を察し、俺は何とも言えない気分になった。

 三浦姉弟の母親は若い。
 確かまだ30ちょっとだったはずだ。
 子供の父親の事は頑なに言えない、堕胎もしないと言い切った彼女は16の時に実家を勘当されたそうだ。
 子供がある程度大きくなった後、実家と和解もしたらしいがそんな実家の両親も年老いてもうこの世にはいないらしい。
 アキラ達が小さい頃は苦労したらしいが、今は祖父母の遺産だ保険金だでそんなに不自由もしていないらしい。
 シングルで、彼女の様に若くて綺麗な女性が金に苦労をしていないと言う事は、それだけで色眼鏡で見られやすい。
 そのせいで口さがない奴等が色々言っている事も俺は知っている。

「あら、また身長伸びてない?」

 薄化粧の上に浮かぶあどけない笑顔はお世辞抜きで30代に見えない。
 こんな若くて綺麗な母親ちゃんで、あいつらが羨ましい。
 うちのオカンなんてジャイ●ンの母ちゃんみたいな巨峰デブだからこそ余計に。

 しかしおばさんもここ連日の看病やら何やらで心労が重なったのだろう、流石に少し老け込んでいた。

「ありがとね、この子達も喜んでると思う」
「……ウッス」

 軽く頭を下げて俺は二人のベッドの中央にあった椅子の上に腰を下ろした。
 二人の顔は青白いが、寝ているだけの様にも見えた。

「……コイツらの調子はどうなんスか?」

 うちのババアから話は大体聞いている。
 所謂植物人間状態で、生命維持をするだけで莫大な金がかかるらしい。

 先日医者に安楽死を勧められたそうだ。

―――しかし、

「二人共怪我はもう大体治ったからあとは目を覚ますだけね。おばさんさ、むしろこれで良かったんじゃないかって思っているのよ。寝ている間に怪我が全部治るなんて不幸中の幸いって言うか、むしろラッキーだったんじゃないかな、なんて」

 おばさんは気丈な様子で話すが、アキラ達はもう1ヶ月近く眠り続けたままなのだ。
 俺が口を噤んで俯いているの見て、彼女は俺が事情を知っている事に気付いたのかもしれない。
 おばさんの顔に貼り付けていた様な笑顔が消えた。

「お医者さんには諦める日が来ることを覚悟するようにって、遠回しに言われたけれど、――……でも、私は待つわ。この子達は絶対に帰って来る」

 強い瞳でそう言い切るおばさんの目元に光る物に、俺はまた何も言えなくなった。 
 やべ、こっちまで貰い泣きしちまいそうだ。
 でもそんなダッセー真似、この人の前ではしたくない。
 俺は込み上げてきた物を必死に抑える。

「私中卒で馬鹿だけど、おばさんもおばさんなりに頑張って色々調べてみたんだ。ほら、意識はないけれど二人とも自発的に呼吸は出来ているでしょう?って事は、脳幹機能?とか言う奴は保たれている状態らしいの。この場合、大脳機能がある程度回復する可能性はあるみたいなのね。だから、辛いかもしれないけど、二人には頑張って貰おうって思って、」
「……でも、こういうのってスッゲー金かかるんでしょ?」
「ええ。……それでまた暇な人達が裏である事ない事言ってる事は知ってるわ。なんで旦那もいないのにそんな金持ってるんだ、何か変な仕事してるんじゃないか、誰かの愛人でもしてるんじゃないかって」
「…………。」

 轢き逃げだった。

 車の運転手はアキラ達を轢いた後、警察や救急車に連絡する事もなく逃げたのだ。
 白い車が猛スピードで走り去って行く所を見た人は何人かいたらしいが、車のナンバーまでチェックできた人はいなかったそうだ。
 駅裏の通りであまり人通りがなかったで、目撃者も少なかった。
 轢き逃げした相手が捕まるかも判らない。 
 犯人が捕まればその相手に医療費を請求出来るらしいが、今はそれも出来ない。

「政府保証の轢き逃げ被害者救済制度があるからそれを使ってるんだけど、母子家庭だとこういう時変な目で見られてイヤよね。……まあ、仕方のない事なのかもしれないけど」
「……おばさん」
「大丈夫よ、そんな顔しないで。それにもうしばらくすれば轢き逃げ犯もきっと捕まるわ。シゲ君、日本の警察の検挙率の高さ知ってる?犯人がみつかったらガッポリ慰謝料取ってやるんだから」

 ブンブン腕を振り回すおばさんの様子に、自然と頬の筋肉は緩んだ。
 母は強しと言う奴なのだろう。
 そんなおばさんを見ていたら、俺は猛烈に腹が立ってきた。――…あいつらの父親に対して。

「父親は……来ねぇんスか?」
「え?」
「俺知ってますよ、アキが昔言ってました。本当はアイツ等の父親生きてるんだろ?死んだって嘘なんだろ?自分の子供がこんな事になってるっつーのに、父親は来ねぇのかよ」

 怒りを押し殺しながら言うと、おばさんは少し困惑した様な顔になる。

「……来たくても、あの人は来れないの」
「仕事が忙しいって奴ですか?自分の息子と娘が危篤状態だって言うのに来ないんスか?おばさんだって仕事あって大変なのに、全部おばさん一人に押し付けて、」
「シゲ君はやっぱりいいこよねぇ、うん、とっても良い子に育った。ちょっとチャライけどとってもいいこ」

 よしよしと子供の頃された様に頭を撫でられて、俺は思わずそっぽ向いて舌打ちする。
 一気に毒気が抜けてしまった。
 子供扱いされて腹が立ったが、おばさんの手は相変らず柔らかくてひんやりしていて気持ちが良い。

「……やめてください。俺、もうガキじゃないです」
「それでも赤ちゃんの頃からシゲ君の事を知ってるおばさんからすれば、あなたなんてまだまだ子供みたいなもんよ」
「るせーよクソババア」
「うふふ、言ったわねクソガキ、生意気っ」

 ギュッと後から腕を回され、肘で軽く首を絞められるジェスチャーを取られる。
 おばさんの豊満な乳が背中に当たり、不覚にもドキマギしてしまった。
 それを隠す様に俺はベッドに横たわる二人に目を向ける。

「……いや、マジな話ッスけど。父親なら来るべきだと思いますよ。今どこにいるんスか?俺、連れてきてやりましょうか?」

 おばさんは俺の首から腕を放しすと、寂しそうな笑みを浮かべた。

「シゲ君の気持ちだけ受け取っておく、ありがとね」
「いやマジで。俺、おばさんの為なら殴ってでも連れて来てやりますよ」

 おばさんは俺から離れると窓を開けた。
 ふわりと浮いたレースのカーテンにおばさんの姿は隠される。

「無理なのよ、シゲ君じゃ行けない。……あの人は、リゲルにいるから」
「リゲル?」
「……リゲルブルク」

 聞いた事がない。
 名前からしてヨーロッパの小国だろうか。

「ヨーロッパですか?でも、電話で連絡すれば、」
「電話しても通じないわ。そもそも電話がないから。それにあの人はアキとアキラの存在も知らないの」
「はあ?電話がない?つか、なんで子供の事教えなかったんスか?」

 彼女はレースのカーテンの向こうで、空を見上げている様だった。

「教えたくても教えられなかったのよ。……この子達の父親がいるのは、異世界だから」


・・・・・・・。


「なんちゃって」

 おばさんは悪戯っぽく笑いながら、窓脇に置いていた花瓶を手に取った。

「冗談よ。――ちょっと待っててね、おばさんお花のお水変えてくるから」

 俺はそそくさと病室を抜け出すおばさんの背中を、ポカンとした表情で見送る。
 アキラ達の父親にも腹がたったが、自分を子供扱いして妙な嘘をつき、上手い具合に話を煙に巻いて逃げたおばさんにも腹が立った。

「なんだよ、マジで……。」

 おばさんが消え、静かになった病室で心電図のモニターの音だけが流れる。
 二人の心音は穏かだった。

「あんま、おばさんの事泣かすんじゃねーよ」

 ベッドに横たわるアキラの鼻を軽く摘んだり、耳朶を引っ張ったりしてみるが反応はない。

「アキを庇って轢かれるとか、そんなんお前のキャラじゃねーだろ。格好つけやがって」

 アキラの頬を抓りながらアキの方を振り返る。

「アキもさ、大学の推薦取れたんだろ。マジもったいねぇよ、早く戻って来いよ」

―――その時、

「みーつけた」

 それはかくれんぼをしている小学生の様な無邪気な声だった。
 しかしそんな無邪気な声と反比例する様に、どろりと濁った女の瞳に冷たい物が俺の背筋を流れる。

 ふらりと病室に現われた女は、俺が先月別れた女だった。

 綾小路レイナ。うちの学校1のお嬢様で美少女だ。
 その苗字と外見に惹かれて口説いた女だったが、これがまた高ビーで嫉妬深くて面倒くさい女だった。
 俺はすぐに別れを切り出したが、向こうからすれば自分を半年も口説いてきた男に折れて、仕方なく付き合ってやったらすぐに振られてしまったと言う最悪な形になるのだろう。しかも数回セックスをした後捨てたので、ヤリ捨てされたと感じている様だ。
 当然向こうは納得出来なかったらしくLINEをブロックしてから鬼電、家凸をされて大変だった。最近は連絡もないので、もう諦めたと思っていたが…。

「ここで張ってたら、いつか絶対会えると思っていましたのよ?」

 スクールバッグの中から綾小路が取り出したのは新聞誌で巻かれた何かだった。
 新聞紙の中から覗く柄を綾小路が引きぬくと、鈍色のナイフが光る。
 俺の顔が引き攣った。

「綾小路」

 俺は椅子を立つと、綾小路はその大振りのナイフの刃を見つめながら語りだす。

「おかしいと思っていたんです。シゲ様は私と付き合っている時も、いつも上の空で」

 綾小路の目はベッドのアキに向けられている。
 今までも何度か歴代彼女達に誤解された事があったが、俺とアキとは真剣にそういう関係ではない。

「いや、だからアキは違うって、」
「わたくしの事はずっと苗字で呼んでいらしたのに、その女の事は名前で呼ぶのですわね……」
「ま、待て、アキはマジで関係ねぇ!!」

 二人のベッドの前で両手を広げると、綾小路の動きがぴたりと止まった。
 彼女の視線は俺の鞄が置かれてある、アキラのベッドの方へと向けられる。

「……そうだったのね…、そうか…そっちか、そっちが本命か…」
「あ?」
「シゲ様、シゲ様はこのキモオタの事が好きだったんでしょう…?」
「は?」

(なに言ってんだ、コイツ……。)

 綾小路のトンでも発言に思わず目玉が裏返って白目になってしまった。開いた口が塞がらない。
 俺は今、もしかしたら世界で一番間の抜けた顔をしているかもしれない。

「……今思い返せば、ああ、そうですわ。そう考えると納得の行く事ばかり。わたくしと付き合ってる間もアキラアキラアキラこのオタクの話ばかりしていましたし」
「そんな訳あるか!!」
「酷いですわ、わたくしとエッチまでしたのにあれはただのカモフラージュでしたのね!!ホモでしたのね!!」
「やめろ、真剣にやめてくれ」

 涙を千切り悲劇のヒロインよろしく叫ぶ綾小路に「なんだなんだ」と病室の入り口にワラワラと人が集まって来る。

「うるさい!!裏切り者!!」

(やべっ!?)

 綾小路が振り下ろしたナイフを、スクール鞄で受けると彼女は窓脇に置かれていた花瓶を手に取る。

バチャッ!!

「うわっ」

 水と花が顔にかかり視界がゼロになった瞬間、

ガッ!!

 ぐらりと視界が揺れる。
 グルグルと景色が回り、俺は思わずよろめき床に膝を付く。
 綾小路が持っていた花瓶が俺の後頭部に命中したのだろう。割れた花瓶の破片が床に落ちるのが視界の片隅に見えた。

「男の癖にシゲ様を誑かすなんて許せませんわ。……泥棒猫には制裁を与えなければ」

 打たれ所が悪かったのか、吐きそうだ。
 込み上げる嘔吐感を抑えていると、綾小路がナイフをアキラに振り下ろそうとしている所だった。

「やめろ……!!」

 反射的に俺はベッドの上に横たわるアキラの上に覆いかぶさった。

ガッ!!

 背中に鈍い衝撃が走る。

「……っ!」

 口から零れた血の赤さに自分でも驚いた。
 肺に血が入ったのか呼吸が上手く出来ない。
 喉からヒューヒューと喘鳴の様な物が漏れる。

「ひどい!!庇うなんて、やっぱりホモだったんですのね!シゲ様!!」

(んなワケあるか!!!!)

 何か反論したい所だったが呼吸も満足に出来ないのだ、言葉が出て来る訳もない。

「死ね!!死ね!!死ね!!死ね!!死んでしまえ!!」

 綾小路は叫びながら俺の背中にナイフを何度も突きつける。
 最初は刺される度に激痛に襲われたが、次第にその痛みも感覚も麻痺して来た。

(やべぇわ、これ……)

 今動くわけにはいかなかった。
 動いたらアキラに刺さる。
 つーか動きたくても動けない。せめてホモじゃねぇよと反論したい所だが、やはり声は出そうにない。

 ジワジワと俺の血がアキラの上にかけられた布団を濡らして行く。

「きゃはははははは!!ざまぁ、ざまあですわ!!」
「何、あんた!!ちょっと、何やってんの!!」

 病室に戻って来たおばさんに、駆け付けて来た人達が綾小路を抑える姿を目にした瞬間、体の力が抜けた。

(良かった……)

 これが走馬灯と言う奴だろうか。
 俺が覚えているはずない、赤ん坊の時から今までの人生の記憶が目まぐるしい速さで蘇る。

 ガキの頃の記憶の所で、ふいに頬に熱い物が流れた。 

『アキラー、シゲ君と冷やしたスイカ取っておいでー』
『うっし、行くぞシゲ!!』
『うん!!』
『え、待って、アキも行く!』
『シゲミも行く、おにいちゃん待って!』

 小学生の頃は、毎年夏になるとアキラの家とうちの家の家族全員で九十九里まで出掛けてキャンプをした。
 バーベキューをして、スイカ割りをして、夜は花火をするのが毎年夏の恒例行事だった。

(ああ、この頃は毎日が楽しかったな)

『馬鹿。これは男の仕事だ、女は肉でも焼いてろ!!』
『えー、ひどい!』
『るせ、行くぞシゲ!!』
『うん!!』

 砂浜の砂に足を取られた俺に「シゲ」と手を差し出すのは、学校で一番輝いていた頃のアイツだった。

『ありがとう、アキラ君』
『シゲは本当ドン臭いよな』
『う、うるせーよ』

(なんで今、こんな事思い出すんだ?)

 ああ、そうか。
 俺、こいつの事が大好きだったんだ。
 あの頃が、あいつらと友達だった頃が一番楽しかったんだ。 

『シゲ、大人達が寝たら二人でこっそりテント抜け出して冒険に行こうぜ!!なんか向こうに面白そうな洞窟見つけてさ』
『え、怒られないかな』
『見付かればな。見付からなきゃいいだけだろ』
『なんかドキドキするね、洞窟か』

(俺、馬鹿だ……)

 見た目とかステータスとか学校の立ち位置とかさ、なんであんな馬鹿みたいな事にこだわってたんだろうな。
 アキラがオタクでもアキがもさくても、そんなのどうでも良かったじゃねぇか。
 好きでもない見た目だけが良い女と付き合って、実は一緒に居てもそんなに楽しくないグループの奴等とつるんだり、何言ってるのか良く解らない洋楽聴いて格好付けて、馬鹿みたいに服や靴に金かけて。その為に寝る間も惜しんでバイトして。

―――今思い返すと、俺の人生、他人の目ばかり気にして格好付けて、本当にやりたい事なんて何も出来てない人生だった。

 俺よりも、むしろアイツ等の方が人生の満足度高いんじゃねーの?
 アイツ等はいつだって人目なんか気にしないで自分の好きな事をやっていた。
 アキラが「リア充」と皮肉っていた俺なんかよりも、あの二人の方がむしろ充実した楽しい人生を送っている様に思える。

 一番ダセーのは俺だった。 

 何であんなに赤の他人の目ばっか気にしていたんだろう。

 他人の視線に振り回されて、二人の事も沢山傷付けた。
 「一緒にいるのが恥ずかしい」とか「もっと普通の格好しろ」とか「オタクはきめぇよ」とかさ、今思うと結構酷い事言ってたわ。なんであんな酷い事言えたんだろうな。
 でも、あの時は俺も俺なりに必死だったんだ。
 そんなの言い訳にも何にもならないだろうけど。

 どうでもいい奴等にどう思われるかばかり気にして、俺はこいつらを――…かけがえのない親友を失った。

 なんでこんな事になっちまったんだろ。

 いつか仲直りできるって思ってたのに。
 いつか元通りになれるって信じてた。
 いつか謝ろうって、ずっと思ってた。

ゴホッ、

(アキラを庇って死ぬとか、笑える……。)

 なんとか半身を起こし、アキラの頬に触れてみる。
 こんなに近くでこいつの顔を見るのも久しぶりだと思った。

 元の顔はそんなに悪くはない……と思うのだが。

 ああ、駄目だ。やっぱ駄目だ。
 やっぱコイツだせぇわ、近くで見れば見る程キモオタだわ。
 やっぱコイツと一緒に街歩くのは無理だ、恥ずかしい。なんでパジャマの下のTシャツまでどきメモなんだよ畜生。あとなんだこの毛虫みたいな眉毛。眉毛くらい整えろよ。1000円カットになんて行かないで、ちゃんとしたサロンで髪切れよな、馬鹿野郎。

―――でも、

「おれ、また、お前と………ちに、なりた、……。」

 ぽたりとアキラの顔に透明な雫が落ちる。
 俺の血と涙でグチャグチャに汚れたアキラの青白い顔は、どんどん歪み、ぼやけて行く。

「シゲ君!!嘘でしょ、ちょっと、やだ、やめて!!看護師さん、早く、早く来て!!」
「だってだって!!シゲ様がホモだなんて思わなかったんですものーっ!!」
「え!?シゲ君ホモなの!?うっそぉ!!まさかうちの息子とデキてたって事!?」
「そうなのですわ!だから、わたくし、わたくし……!!」

 ちょっと待て。
 何を言ってるんだコイツ等は。

 おばさんと綾小路に全力で訂正したい衝動に駆られるが、次の瞬間、俺の意識は暗転した。


*****


「おい、さっさと目を覚ませ」

(ん…?)

 乱暴に体を揺さぶられ、視界に飛び込んで来たのはキラキラと輝く光だった。
 次第にぼやけた焦点は定まって行き、そのまばゆい光りの正体は俺を揺さぶり起こす少年の金髪だと言う事に気付く。

「いつまで寝ているんだ、今日は大事な日だと言っていただろう」

 小生意気な猫の様に吊りあがっている瞳は、吸いこまれてしまいそうな夏の空の様に鮮やかな蒼で、彼のその煌びやかな金髪(ブロンド)が揺れる度に、キラキラと光りを撒き散らす残像が見えた。肌は透ける様に白く、不機嫌そうにへの字に結ばれた唇は女の様に紅い。
 細くしなやかな四肢を包むのは白を基調をした軍服で、これがまた高そうなお召し物であった。袖もボタンも肩章も全て金で縁取られている。
 俺の顔を覗きこんでいた美少年が胸の前で腕を組んで仁王立ちになると、彼が腰に下げた宝剣の飾りがしゃらんと音を立てた。

(……なんだこの王子様、スッゲー美少年だな)

 寝ぼけ眼で美少年を見上げたまま数秒考えた後、――…俺の思考回路は停止した。

―――俺は目の前の美少年が誰か知っている。

 この顔、この格好、この声、全てに見覚えがあった。

 アキの部屋にあったあのデカイポスターやら抱き枕の、アレだ。あー、なんだっけ、アレだアレ。エミリー…じゃない、エミリオたん。

(って、エミリオたん……?)

「エミリオたん!?な、なんでぇ!?」

 俺の叫びが辺りにこだました。
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Siti Dara

Hi. I’m Designer of Blog Magic. I’m CEO/Founder of ThemeXpose. I’m Creative Art Director, Web Designer, UI/UX Designer, Interaction Designer, Industrial Designer, Web Developer, Business Enthusiast, StartUp Enthusiast, Speaker, Writer and Photographer. Inspired to make things looks better.

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