『Shirayukihime to 7 Nin no Koibito』to iu 18 kin Otomege Heroin ni Tenseishiteshimatta Ore ga Zenryoku de Oujitachi kara Nigeru Hanashi chapter 36

5・俺の残念なご主人について。……死ぬわ。
 ホナミはすぐに国王陛下の寵妃となった。

 この国の寵妃は、王に寵愛されればされる程地位が高くなる。王の愛を一身に受ける事が出来れば、寵妃の地位や権限、発言力は正妃をも上回る。
 陛下に溺愛されるホナミの地位はすぐにフロリアナや王子達よりも高くなり、彼女の地位は確固たる物となった。
 するとホナミは高価な宝石やドレス、高価な調度品を買いあさりる様になり、激しい浪費を始めた。

 陛下は何も言わなかった。
 ただ贅の限りを尽くすホナミを幸せそうに見つめていた。

 ホナミの事を忠言した臣下達もいたが、その度に陛下は彼等に厳しい処罰を与えた。城から追放された者も首を切られた者もいた。次第に誰も陛下には何も言わなくなった。
 一度ホナミが税を上げるように陛下に進言したが、流石にここでアミール王子が間に入った。
 アミール王子が何を言ったのかルーカスの知る所ではないが、流石に息子に諭されてバツが悪かったのだろう。増税はなくなったが、それからホナミはしばらく荒れに荒れ、陛下は彼女を諌めるのに苦労したらしい。
 それから陛下はアミール王子が謁見を願っても避ける様になった。
 いつもの様に「困ったねぇ」と微笑むアミール王子の目は、今回に限り笑っていなかった。

 エミリオ王子は動かなかった。
 いや、動けなったと言った方が正しい。
 何だかんだで彼の中で兄は万能的な存在として位置づけられている。そんな兄が身動きも取れないこの事態に、彼も動揺したのだろう。
 難しい年頃のエミリオ様からすれば、父親の変化もショックだったのかもしれない。自分達だけではない、フロリアナ達に対してもいつだって無関心だった父の、ホナミが来てからのこの変わりよう。
 昼間から睦みあい、ホナミを連れて馬で遠乗りに行き、夜は二人で寄り添いながら星空を眺める。
 エミリオ様はただ苦々しい顔でホナミを寵愛している父親を見ていた。

 現正王妃のフロリアナは当然面白くない。
 陛下が夜、フロリアナの部屋に行く事もなくなったと言う噂が城内でも持ちきりになった。
 どうやらそれは事実だったらしく、フロリアナの憎悪の矛先はエミリオ様達からホナミへと向けられた。
 フロリアナは事あるごとにホナミに喰ってかかるが、フロリアナをどこ吹く風と言った様子で彼女の暴言や皮肉をかわす。そんなフロリアナを叱り、罰を与える陛下。

 アミール王子はしばし静観に入った。
 今の陛下は正気ではない。
 今動くのは得策ではないと思ったのだろう。彼は動く機会を淡々と狙っている様に見えた。
 エミリオ王子も兄のそんな様子を察すると、自分も今は下手に動いてはならないと勘付いたらしい。

『あれ、今回はエミリオ様ずいぶんと大人しいですね』
『あいつが今動かないと言う事は、何か考えがあっての事だろう。別にそれを邪魔する気はない』
『王子もそういう事にやっと気付ける程度には成長したんですねぇ』
『うるさいぞルーカス、黙れ』

―――そんなある日、

コンコン、

 深夜、人目を忍ぶ様にルーカスの部屋を尋ねて来たのは同僚騎士のヒルデベルトだった。
 ルーカスはヒルデベルトが嫌いとまでは言わないが、苦手だ。天然ちゃん…とでもいうのだろうか。女の子の天然ならまだ可愛く思えるが、男が天然でもイライラするだけだ。何よりこの男、皮肉が通じない。
 調度眠りかけていたルーカスは渋々ベッドから身を起こし、ドアを開ける。

『何だよ、何か用か?』
『うん、大事な話がある。――…ホナミについてだ』

 なるほど、だから目深にローブなんか被って顔隠してるワケな。
 そうなると無碍に扱う訳にはいかない。

『入れよ』

 欠伸を噛み殺しながら部屋に招き入れると、彼の目はテーブルに置かれたアップルパイに釘付けになっている。
 さっき女が持って来た物だったが、そういえば喰い忘れていた。

『……喰えば?』
『やった!!ルーカス、君って良い人だね!!』
『別にいいよ……。』

 つーかそんなキラキラした目でこっち見んな。
 男にそんな目で見られても嬉しくねぇし。

『で、話は何だ?』
『あ、そうだった。アミー様からの伝言なんだ。エミリオ様の所に直接行くのはから人目に付くし、ほら、色々リスクもあるから君に来たんだけど、』
『要点は何?』
『――…アレは人間じゃない』

 あっと言う間にテーブルの上のアップルパイを全て平らげたヒルデベルトは、自分の指についたバターを舐めながら低い声で言う。

『人じゃない。……アレは妖狐だ。恐らく妖狐と人間の半妖』

 ルーカスの目は一気に覚めた。
 慌てて戸締りを確認し、盗み聞きされている気配がないか確認する。

『なんで判るんだよ、直接見たのか?証拠はあんのか?何の根拠もなく言ってるなら、お前まずいぞ』

 ただでさえ今この国はホナミの絶対王政だ。こんな事を言っている所を誰かに聞かれたらまずい。

『なんでかは言えない。でも、俺にはニオイで判る』

 またニオイとか言い出したよ。この野生児ワンコ君。

『だからエミリオ様が無茶しないように見張っててくれないかって。アミール様からの伝言』
『まあ、言われんでもそれが俺のお仕事ですから』
『エミリオ様の成長は俺達も知ってるよ、アミール様も喜んでる。でも、それでも今のエミリオ様じゃホナミに敵わない』

 少々カチンと来る話だった。
 エミリオ様は、まあ、成長してもワガママプリンスのままでアレだなんだが。しかしその言葉は、同時にあの王子様に忠誠を誓ったルーカスの腕も否定された事になる。

『俺がエミリオ様についてても無理だって言うのかよ?』
『うん。正直、俺が一人でもホナミを討てるか分からない。一人で勝てるって見込みがあるんなら、もうとっくに狩ってる』

 ヒルデベルトはギリギリと悔しそうに親指の爪を噛みながらそう言った。
 この国一優秀な剣士の言葉に、ルーカスは思わず息を飲む。

『今、俺達はあの狐を狩る機会を狙ってる。だからどうか無茶だけはしない様に見張っていて。今、変なタイミングで彼に飛び出されたらマズイんだ』
『わーったよ』



 それからしばらくして、フロリアナがお茶会を開いた。
 それは極秘裏に、内密でと言うお達しで、人目を避ける様な場所で開かれた小さなお茶会だった。
 呼ばれたのはアミール王子とエミリオ王子の2名だけだ。
 敵の敵は味方と言う奴なのだろう。彼女もホナミを自分だけで追い出すのは難しいと悟り、王子達を味方につける算段の様だった。
 しかしフロリアナのその目論見は失敗に終わる。
 結論から言ってしまうと、そのお茶会でフロリアナは毒殺された。
 どうやら彼女が口を付けたティーカップに毒が仕込まれていたらしい。

 フロリアナが毒殺された現場にいたのは、アミール王子とエミリオ王子、そして護衛の俺とヒルデベルトだけだった。
 フロリアナが倒れた後、彼女の侍女達もバタバタ倒れだす。
 そうやら侍女達も事前に毒を盛られていたらしい。

『困ったねぇ、これじゃまるで私とエミリオが犯人みたいじゃないか』
『困ったねぇじゃない!!どうするんだ!!』

 のほほんと笑う兄王子に、エミリオ様は食って掛かった。

『アミール様!これも毒入りかな!?食べちゃ駄目かな!?駄目かな!?』
『駄目に決まってるだろう阿呆かお前は!!』

 テーブルの上にある焼き菓子に手を伸ばそうとするヒルデベルトに、思わずルーカスは声を張り上げる。

『とりあえずこの場にいたのは私達だけって事にしておこうか』
『何を言って、』
『ルーカス』
『へい』

 それでもまだ食べようと手を伸ばすヒルデベルトを羽交い絞めにしていたルーカスは、呼ばれて顔を上げる。

『今すぐエミリオを連れてこの場を離れてくれ』
『なにを……?』
『お前達は今日ここには居なかった、いいね?』

 エミリオ様は何を言っているのか判らないと言った顔で首を横に振るが、ルーカスは彼が言っている事の意味を瞬時に理解した。

『迂闊だったよ、確かにこの好機をホナミが見逃すはずがない。用心はしておいたつもりだったが、……見事にしてやられた』
『お前は、何を言っている…?』
『これは私の考えなしの行動が招いた結果だ、私が責任を取ろう』 

(アミール様…。)

 自然とルーカスの膝が床に付き、頭が下がった。

『畏まりました。弟君の事はどうぞ私にお任せ下さい、アミール王太子殿下』
『頼んだぞ、黒炎の騎士よ』
『おいちょっと待て!!なんでお前があいつの言う事を聞くんだ!?お前は僕の(しもべ)だろう!!』
『だって今お兄様のおっしゃっている事が最善の策ですし』
『僕は逃げないぞ!!僕もコイツも無実だ、何も後ろ暗い事なんかしていない!!どうせこれもあの女狐の仕業なのだろう!?いいだろう、ホナミ!このエミリオ・バイエ・バシュラール・テニエ・フォン・リゲルブルクが相手になってやる!僕は潔白を証明して、あの女狐を我が国から追放し……って、おいルーカス、こら、待て!何をしているんだ!?』

 ルーカスは立ち上がると事の重さを全く理解していないパープリンプリンスを小脇に抱え、もう一度アミール王子に頭を下げた。

『大丈夫だよ、きっと私が何とかするから』

 ひらひらと手を振るアミール王子に最後にもう一度だけ頭を下げて、ルーカスはその場を離れた。

―――そしてフロリアナの殺害容疑をかけられたアミール王子は、王位継承権と王族の地位までをも剥奪されて、国外追放処分となった。

 同時に王子派の宰相イルミナートと、エルヴァミトーレと言う高級官僚も一人追放された。
 エルヴァミトーレはアミール王子派というよりは、彼のスピード出世を快く思わない他の官僚たちから、イルミナートの弟と言う事で「アミール王子派」と難癖をつけられて巻き添えを食らった形で追放された。
 顔の皮が厚く肝の据わっている宰相殿と違い、犯罪者となったアミール様と腹違いの兄と共に国外追放される彼の顔は酷く暗い。

『皆、付き合わせて悪いね』
『良く言います、最初から付き合わせるつもりだった癖に』
『何の事だろう、私はイルミが何を言っているのか良く分からないなぁ』
『ったく。この貸しは高いですよ?』
『分かってるよ。いつか倍にして返してやるから私について来るといい』
『俺はどこまでも王子について行くよ!!』
『ふふ、ありがとう、ヒル』
『アミール王太子殿下、エミリオ様を置いて行ってもよろしいのですか?』
『もう王太子殿下じゃないんだ、アミールでいいよエルヴァミトーレ』
『……では、お言葉に甘えましてアミール様。エミリオ様を今、あの王宮にお一人でお残しするのは危険なのでは…?』
『エミリオにもそろそろ王族としての自覚を持って貰いたい所だからねぇ』
『はあ?』
『私は今回、賭けに出て負けた。……でも、私はもう一度だけエミリオに賭けてみたいんだよ』
『と、おっしゃいますと?』
『父としてはともかく、私はこの国の王としてのあの人の事は信用していた。王としてこの国の繁栄を真に考えるのならば、父上は今、私を手放してはいけなかった。……しかし私はこの通り、国外追放処分』
『…………。』
『でもね、私はもう一度だけあの人の事を信じてみたいんだ。ホナミに促されるまま私に処分を下した時、父上は確かに揺れていた。……あの時、ホナミ抜きで父上と二人で話せなかったのが今も無念だよ』

―――真夜中だった。

 ルーカスがその場に姿を現すと、アミール様は巻きこまれ追放の文官からこちらに視線を移す。
 彼等はルーカスが隠れて盗み聞きしているのに気付いている風だった。 

『やあ、ルーカス良い夜だね。エミリオは私の見送りには来てくれなかったのかな』
『弟君なら部屋で不貞腐れて寝ていますよ』
『そう』

 この王子は自分の責と言って全てを被ったが、本来ならばエミリオ王子も、そして彼を守護すべきルーカスだってその責はあった。あの罠に事前に気付けなかったのが無念だ。
 ルーカスは迂闊だった自分と主の分まで引責し追放の身となった王太子殿下の前に跪くと、もう一度頭を下げた。

『そう遠くない未来、父上は国王としての責かホナミのどちらかを選択する時が来るだろう』

『陛下が国ではなくホナミを取った……その時は?』

 夜風がアミール王子が目深に被ったローブを乱暴に剥がし、彼の能面の様に冷たい無表情が露となる。
 ルーカスはいつも穏かな笑みをたたえている彼がこんな顔をするのを初めて見た。

『その時はただの阿呆だ。この国の王に相応しくない。――…その時は、私がホナミ共々愚王を討とう』

 王子はすぐにいつもの笑顔に戻ると、小さな紙切れをルーカスに握らせた。

『他にもいくつか理由はあるけれど、今はホナミを討つ時ではないのだよ。時が来たら合流しよう。私達は我が国とリンゲインとの国境の森にある隠れ家に潜伏している。一応お前には地図を渡しておくよ』
『アミール様、』
『私の可愛い弟のこと、よろしく頼んだよ』

 そう言ってアミール王子達は夜逃げするように城から消えた。


―――そして野心家のエミリオ王子が彼の王位継承権を奪い、追放したと言う噂がまことしやかに流された。


******


「それよりも、そろそろ行くぞ」
「行くってどこへッスか?」

 エミリオ王子の言葉に、俺は回想から現実に引き戻される。

「決まっているだろう、父上の玉座に図々しく居座っている女狐の所だ」

 覚悟した瞳で、エミリオ王子はスラリと宝剣バミレアウドを抜いた。

「……僕は、今日あの女狐を討つ」

 ああ、思い出した。
 確かこんなイベントもあった。エミリオ王子とルーカスの登場イベントだ。
 寵妃ホナミにエミリオ王子が単身挑み、返り打ちにされると言うイベントだ。
 命からがら城を逃げ出した二人は、このゲームのヒロイン白雪姫(スノーホワイト)と運命的な出会いを果たす。

「黒炎の騎士よ、お前は僕に命を預ける覚悟はあるか?」
「へいへい、地獄までお供しますよ、王子様」

 後に流した長い三つ編みを指で弾き、格好つけた仕草で答えながらも俺は内心ゾッとしていた。

(今、ヒロインのステータスはどうなってんだ?イベントはちゃんとクリアしてんのか?)

 いや、ここが本当にあの乙女ゲームの世界なのか俺には判らない。
 判らないが、もしそうだった場合まずい。非常にまずい。

 俺、ルーカスもエミリオ王子も『白雪姫と7人の恋人』の攻略キャラだ。
 ヒロインの白雪姫(スノーホワイト)の前に俺達を登場させるには、いくつかの発生条件がある。
 アキのあのオタトークと、彼女に見せられた攻略本やらファンブックやらの内容を俺は必死に思い出した。

 確かエミリオ王子は「忍耐」「芸術」、ルーカスは「美貌」「流行」……で、そのスキルを上げるんだ。
 エミリオ王子を攻略する時に必要なスキルが「忍耐」「芸術」で、ルーカスを攻略する時に必要なスキルが「美貌」「流行」なのだ。そのスキルを一定以上上げて、各種イベントをクリアしないと彼等はヒロインの前に登場しない。

 ゲームをしない人間に分かりやすく説明すると、エミリオ王子を口説くにはこのワガママ王子の我侭に耐えうる不屈の精神が必要で、更に絵画が趣味のこの王子様の趣味に付きあう為に「芸術」のスキルも必要となる。そしてチャラ男騎士ルーカスは可愛くて流行に敏感な女の子が大好きと言う事だ。
 そう考えてみると、このルーカス・セレスティンと前世の下村茂は根っこの部分は良く似ているキャラクターなのかもしれない。……いや、でも俺ここまでチャラくなかったけどな。

(なんか嫌だな…。)

 アキの話を思い出すと(ルーカス)とワンコ……じゃない、ヒルデベルトが7人の恋人の中で、一番簡単に攻略出来るキャラらしい。
 ある程度選択肢をミスっても、イベントやスチルとやらを全部見なくても「美貌」と「流行」のスキルを上げてればEDが見れると言うちょろいキャラ。それが俺だ。

(ああ、思い出した、思い出したぞ)

 どんどん蘇る前世の記憶。
 当時はドン引きしていたアキのオタトークが、今はこんなに泣きたくなる程懐かしくて頼もしい。
 宰相イルミナートは「知力」「気品」、エルヴァミトーレは「家政」「礼節」、ヒルデベルトは「家政」「体力」、猟師は「体力」「優しさ」だった。
 ちなみに「知力」は語学、数術、魔術、「家政」は料理、掃除、裁縫、など幾つものコマンドに分かれており、それを全て上げなければならない。
 アキもアキラも金を貰える訳でもないのに、なんでこんなクソ面倒な事をやっているのか疑問だったが、今、俺はあのゲームがやりたい。そして俺が今後どうなるのか知りたい。こんな事になるなら、アキと一緒にあのゲームを最後までやっておくべきだった。

 それらのコマンドを選び、ステータスの数値をチマチマ上げていかないと7人の恋人達は攻略出来ない。
 メインヒーローのアミール王子にいたっては、全てのステータスをほぼ限界値まで上げないと攻略出来なかったはずだ。  
 ステータスが低いと俗にいう、肉便器ルートなる物に突入してしまうらしい。全年齢版では家政婦ルートだったか。

 (ルーカス)も隣国に雪の様な白い肌をしたそれはそれは美しい姫君がいると言う噂を耳にした事はあるので、『白雪姫と7人の恋人』のヒロイン白雪姫(スノーホワイト)は、恐らくこの世界に存在する。
 しかし俺には会った事もない隣国の姫スノーホワイトちゃんのステータスが今どうなっているか、判るはずもない。
 ただ、俺とエミリオ王子の登場イベントはの発生条件は、「忍耐」「芸術」「魅力」「流行」のその4つのスキルが一定値を超える事だ。
 その数値がいくつかは知らないが、その数値を越えない限り俺とエミリオ様はこのゲームのヒロインと出会う事はない。

(これ、マジでやばくないか…?)

 スノーホワイトのステータスが、俺達の発生条件を下回っているとここで俺達はゲームのシナリオに登場しない。
 即ち今後、俺と王子はヒロインの前には現れる事はない。

(ひょっとして、ヒロインのステータスが足りなかったら俺達ここで死ぬんじゃねぇの…?)

 その可能性も十二分にあるのだと気付き、俺の顔は引き攣った。

 もしヒロインのステータスが低いままで、エミリオ王子とルーカスがゲームに登場しないままEDを迎えた場合、俺達はどうなるのだろうか?俺達は女狐に勝てるのだろうか?それとも敗北と逃走は既に決定事項で、ただ単純にヒロインと出会わないだけなのだろうか?
 アキなら知っているのかもしれないが、そんなの俺に分かるワケもない。
 楽観的に考えれば、もしかしたら既にエミリオ王子とルーカスの登場イベントは始まっているのかもしれないが…。

 自分でいうのも何だが、俺ことルーカスの剣の腕は超一流だ。
 ヒルデベルトにこそ敵わなかったが、あいつがいなければ俺が実質この国一の剣術使いだ。
 エミリオ王子も、そこらのゴロツキ複数に囲まれても一人で対峙できる程度には強い。

 しかしあの女狐は人間ではない。

 ヒルデベルトも言っていたが、魔性の類だろう。

―――人の世の者でない彼等に、人間が真っ向から立ち向かってもまず敵わない。

 魔女程度なら運が良ければ殺せるかもしれないが、妖魔や魔族相手だと端から勝ち目はない。
 そりゃ成人の儀式で、国宝の神剣を授かり高位の水魔法が使える様になったアミール王子や、野生児故の嗅覚や動体視力を持ち、戦場では悪魔的な動きをするヒルデベルト、魔導大国に留学して本場の魔術を学んで来た凄腕魔術師兄弟が居ればなんとかなるのかもしれないが、この王子様と俺程度の戦力ではまず敵わない。

 一番痛いのは俺にもエミリオ王子も魔力がないと言う事だ。――…つまり、魔術に耐性がなく、魔防がゼロ。

 ホナミに妖術の類を使われた時点で俺達は終了する。

 術が発動する前に首をとるのが唯一の勝利の道だが、あいつらは人間の魔術師と違って呪文詠唱を必要とせずに術を発動させる。
 そういう訳で殺るなら闇討ちが一番適しているのだが、あの女狐、その機会を中々与えてはくれなかった。
 俺達はその機会を虎視眈々と狙っていたが掴む事が出来ずに、今日に至る。

「ええっと、やっぱり二人で行くんですか?」
「ああ、兵を連れて行く気はない。僕が勝っても負けても、父上が出て来ても出て来なくても、彼等には逃げ場を用意してやりたい。これは僕達家族の問題だ」

 神妙な様子で頷くエミリオ様に俺は感涙する。

(成長したな…このパーピープーリンスも)

 王子の成長が嬉しくもあるが、同時に明らかに足りない戦力配分に俺は泣いた。

 せめて何人か魔術師連れてきましょうよ…。
 魔防ゼロで人外に立ち向うとかどう考えても無謀ッスよ…。


*****


 玉座の間に行くと、玉座には美しい女が座っていた。
 女が脚を組みなおすと、スリットの入った長いドレスから白い太股が覗く。――…寵姫ホナミだ。
 ホナミの足首から太股の上部にかけて、巻付く様に描かれた天翔ける龍は刺青だろうか。それともまじないの一種なのだろうか。
 長く美しい黒髪に、冷たいほどの美しさをたたえる闇色の瞳。
 日本では珍しくも何ともない髪色と瞳の色だが、この世界ではとても珍しい組み合わせになる。

(あれ…?)

 扇子の下に顔半分隠されたホナミの顔に、今日、俺は違和感を感じた。

(この顔、どこかで見た覚えがある様な……?)

「僕は父上に話があるんだ、父上に会わせろ」
「陛下は私以外にはお会いになりたくないそうです」 
「……実の息子の僕にも会いたくないと、父上自らがそうおっしゃっていると言うのか?」
「ええ、そうです。陛下のご意向に逆うのですか?」
「くっ……!」

 思い出せない。――…でも、誰かに似てる。
 そんな事を考えている間にもイベントは進行している。

「もう我慢ならん。良くも義母(フロリアナ)を毒殺し、アミールに汚名を着せてくれたな!!」
「あら、あなたはあの女が憎かったのではなくて?」
「ああそうだ、僕はあの女が小さな頃から大嫌いだった。……しかし殺すまで憎いと思った事はない」
「あなたは国王になりたかったのではないの?ずっと優秀なお兄様の事が目の上のたんこぶだったのでしょう?」
「……あの能無しの豚に王位を渡すくらいなら自分が王になると言ったまでで、僕は元々王になる気など微塵もなかった。――…この国の王に相応しいのは、僕でもロルフでもない、アミールただ一人だ!!」

 スラリと抜刀するエミリオ様に習い、俺も抜刀する。
 脚を肩幅に開いて腰を降ろし剣の構えを取る。

「ホナミ、そこを退け。その椅子はお前ごときが座って良いものではない」
「あー、お兄様にその台詞聞かせてやりたいですねぇ」
「殺すぞルーカス」

 ギロリと睨まれた俺は、王子から視線を反らしてピュ-と口笛を吹いて誤魔化した。

「エミリオ王子、あなたは何を怒っていらっしゃるの?私がフロリアナ様を殺したという証拠でもあるのかしら?お兄様を追放したのもあなただと言う噂をお聞きしましたが?」
「この厚顔無恥な女狐が。よくもいけしゃあしゃあと。……ホナミ、僕はお前が人ではないものだと言う事にとっくに気付いている。さっさとその醜い化物の姿を現せ」
「へぇ?……これは私も坊やの事を甘く見ていたかもしれないわね」

 ホナミは目を細めると、パチン!と扇子を閉じて玉座から立ち上がった。

 「いや、あんたが人間じゃないのに最初に気付いたのはこの人じゃなくてヒルデベルトッスよ」と思いもしたが、主人想いの優しい騎士の俺はあえて伏せておく。

「父上を誑かした悪魔め。さっさとこの国を出て行け。――これ以上の狼藉は、見るに耐えん。エミリオ・バイエ・バシュラール・テニエ・フォン・リゲルブルクの名に懸けて、宝剣バミレアウドに誓って、この僕がお前を討つ」

 王子が剣先をホナミに突きつけた。
 エミリオ様の空色の瞳が怒りに燃えている。 

「……良い子にしていれば、見逃してあげても良かったのに」

 ホナミが扇子を床に捨てると、彼女の長い黒髪の銀色に変わった。
 ジワジワと目の色も血の様に紅い色に変化して、妖しく光り出した。

(まずい!この髪、この目、最高危険種だ……!!)

 あー駄目だ、死ぬわこりゃ。

―――人とは無力だ。

 下級妖魔でも対峙すれば人はまず敵わない。

 俺はそこそこ剣を使える方だ。
 うちの凄腕の騎士が10人いなければ倒せないと言われている魔獣でも、一人で倒す事が出来る。
 妖魔も下級妖魔なら何体か奇跡的に倒した事がある。

 だからこそ今この地位にいる。

 しかし、流石の俺もこの世界で最高危険種と呼ばれている銀髪紅眼の妖魔とやり合った経験はない。
 低級妖魔を倒した時ですら、命からがらだったのだ。 

(ま、仕方ねぇか。お供しますよ王子様)

 なんだかんだで俺はこの王子様の事が結構好きだ。
 こんな事を言ったら「不敬者!」と叱り飛ばされそうだが、俺は勝手にこの王子様を孤児院で神父に喰われた弟分と重ねて、自分の弟の様に思っている。

「私も退屈していた所だし、良いでしょう。――……来なさい、遊んであげるわ、ぼうや達」

 ホナミから毒々しい色の瘴気が滲み出す。

「エミリオ様、来ますよ!!」
「ああ、行くぞルーカス!!」

ブワッ!!

 玉座の間が巨大な闇に包まれた。
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Siti Dara

Hi. I’m Designer of Blog Magic. I’m CEO/Founder of ThemeXpose. I’m Creative Art Director, Web Designer, UI/UX Designer, Interaction Designer, Industrial Designer, Web Developer, Business Enthusiast, StartUp Enthusiast, Speaker, Writer and Photographer. Inspired to make things looks better.

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