恋人5、Sleepy
「なに、なんで、え、え、えええええええ――――!?」
「いや、絶叫したいのはこっちだわ。スノーホワイトちゃんの中身がまさかお前だなんて…、うっわ、吐きそう」
頭を抱えて叫ぶスノーホワイトちゃん――…いや、アキラの姿に、俺は脱力して床にしゃがみ込む。
「それはこっちの台詞だっつーの!!女の子とセクロス経験する前に男とエッチしちゃうとか、……しかもその中の一人が、よりにもよって下の村とか…マジねーよ…」
「俺のマカロンホワイトちゃんの中身がアキラとか……俺のトキメキ返せよ、マジねーわ…」
「はあ!?そっちはまだマシじゃねぇか!中身が俺でもスノーホワイトちゃんみたいな超絶美少女にハメられる機会なんて、普通なかなかねぇぞ!?……それに比べて俺なんて……はあ…」
その後アキラも床にしゃがみ込んで、青い顔を付き合わせるとお互いにボソボソと「お前の方がマシ」「いや、お前の方が絶対マシ」と不毛な言い争いを延々とした。
そのやり取りが非建設的な事に気付いた俺はふと顔を上げる。
「つーかお前、この世界が一体何なのか知ってる?」
「何ってあれだろ。アキがやってた乙女ゲー『白雪姫と7人の恋人』」
「だ、だよなぁ…?やっぱそうなんだろうなぁ…」
「最悪な事に18禁バージョンの方な」
「笑える」
「笑うなよ、笑えねぇよ、俺からすれば死活問題だっつーの」
はあ、とここで俺達はもう一度大きな溜息を付いて項垂れた。
「って、そうだ。俺達死んだのか?それともこれ、夢なのか?お前こそ何か知らねぇの?」
俺は下村茂の最後の記憶がしっかり残っているが、アキラの言葉にこいつはそうではなかった事を知る。
「なんだ、お前知らなかったのか?俺達は……、」
俺はそこまで言いかけて、目の前の可憐な美少女の瞳が希望で光るのを見て言葉に詰まった。
―――自分が死んだ事に気付いていない人間に、それを告げるのはとても酷な事だ。
(いや、ちょっと待てよ……?)
俺の――下村茂の最後の記憶を辿ってみると、アキラもアキもまだ生きている。
(と言う事は、もしかして俺も生きている可能性があるって事なのか…?)
―――アキラ達と同じく、眠っているだけで。
いきなり希望が湧いてきた。
「どうした、シゲ。おい、おい」
「アキラ、良く聞け。方法は良くわかんねーけど、もしかしたら向こうの世界に帰れるかも……」
自分の腕を掴むスノーホワイトちゃんの細い肩を掴んで、そこまで言いかけて俺は固まる。
―――いや、分からない。
もしかしたらあの後、俺もコイツもアキも死んだ可能性だってあるのだ。
(って、アキ……?)
今更ながらこいつと一緒に病院のベッドで眠っていた姉の存在を思い出す。
(そうか、こいつがここにいるって事は、アキもこっちに来ている可能性もあるって事か……?)
しかしもしアキがこちらにいると仮定して。
この広い世界で、恐らく俺達と同じ様に姿形ところか性別・年齢さえも違う姿で生きている、最悪人間でさえない可能性がある彼女を見つける事が可能なのだろうか? 否、不可能に近い。
「お前、アキに会った?」
「アキがこっちに来てるのか?」
「可能性の話をしているだけだ」
「会ってねぇけど、……もしアキがこっちに来てるなら俺の継母だろうなぁ」
アキラは「うんうん」と一人で納得する様に頷きながらそう言い切った。
「言い切ったな。確証があるのか?」
「そらな」
「……なんでか聞いてもいい?」
「お約束なんだよ」
「お約束?」と疑問符を浮かべる俺を見て、アキラは胸を張りながら答える。
「まずは現実世界で彼氏いない歴年齢のアキみたいなパッとしない女がこの手のゲームに転生するのがお約束なんだよ。その場合転生するのは大抵ゲームのヒロインじゃない。何故かヒロインをイジメる悪役令嬢に生まれ変わっていて、死亡フラグを回収している間に、ヒロインを好きになるはずの逆ハーメンバーに惚れられるのがお約束。ヒロインもゲームの知識を持っている転生者で、悪役令嬢から逆ハーメンバーを奪い返そうとするのもまたお約束。股掛けプレイをするビッチなヒロインが悪役になって、悪役令嬢の代りに断罪されてざまぁされるまでが一連の流れなんだよな。――…って、この理屈だと俺がビッチヒロインで、継母にざまぁされちゃうの?あれ、俺やばくね?」
真顔になって考え出すアキラ――…ではなく、スノーホワイトちゃんは、今日も狂おしい程美しい。
中身がアキラだなんて信じたくない。
「……そもそもこういう乙女ゲー転生って普通、『白雪姫と7人の恋人』を前世やりこんだ女がスノーホワイトちゃんに転生するはずなんだけど、俺、元男だし…?それに誰一人としてうちの逆ハーメンバーが継母に奪われてないんだけどなんで?どゆこと?」
「あの…、」
「大抵悪役令嬢が「ほっといて下さい!」「平凡に生きたいんです!」って叫んでも、逆ハーメンバー達がここぞとばかりにヒロインの方から流れて行って溺愛されまくるのが今の流行りのはずなんだけど…」
「おい…?」
「ハッ!……まさかこのパターンは、悪役令嬢ではなくモブ転生か!?それとも人外転生?……って、俺がこないだポテトスターチEXで使ったスライムがアキだったらどうしよう!?そういやあの時使ったスライムってどうなったんだろう…、やっぱ死んじゃってるよな…?」
「相変わらずお前が何言ってんのか良く分かんねぇけど、――…お前がこっちに来てるんならアキもいるんじゃないかと思っただけで、アキがこっちにいる事は確定はしてないから安心しろ」
「あ、そうなの?それは良かった。ところでお前、向こうへの帰り方って知ってる?」
返答に困る質問だった。
向こうの俺達の身体が生きているのならば帰れそうな気もしてきたのだが、実際の所、向こうへの帰り方すら分からないのだ。
確かに俺が最後に見た時アキラ達は生きていたが、今も二人が生きている確証はない。勿論それは俺もなのだが。
顎に手を当てたまま黙りこくる俺を見て、目の前の美少女の瞳が不安に揺れる。
中身がアキラだとは言え、見た目がこんなに愛くるしい美少女となると彼女を安心させてやる言葉をかけてあげたくなるのが不思議だ。
「何か知ってたら教えてくれないか?俺、実はそろそろ帰らなきゃマジやべぇんだって、向こうの仲間達が俺の事を待ってるんだ」
「仲間?」
「ドグマグのMMO。ずっとネトゲにINしてねぇからそろそろ俺の死亡説が浮上してる頃だと思う。リーダーなのにこんな無責任な事をして許される訳がない」
大真面目な顔でそんな事を嘯く美少女に、思わずガクリと肩がこける。
「……良い機会じゃん、この際異世界で脱オタすればいんじゃねーの」
「はあ?ふざけんじゃねーよ!!……って言いたい所だけど、この世界って本当にオタクアイテム何もねぇんだよな…。俺、いい加減ネットしてぇよ。秋葉に行きてぇよ、ゆゆかりん姫のリンリン☆ライブに行きたいよ…」
(う…、)
やめろ、やめてくれ。
そんな儚げな顔で目を潤ませんな、悲しそうな顔をするな。
思わずギュッと抱き締めてあげたくなっちゃうだろ!!
「つーかマジでなんかないの?セーブポイント的な何か……ほら!お前ともガキの頃一緒にドグラマグラクエストとか幻想水遁DAYとかやったじゃん!?教会とかキューブとか、なんつーの?転送ポイントとか、特殊なアイテムみたいな奴!」
「それ、は…、」
「てか向こうの世界って今どうなってるんだ?まだ1日も経ってないとか、それともこっちの時の流れと同じく時間が進んでる系か…」
ついさっきまで下村茂は死んだものだと思っていた俺は、考えた事もない事だった。
呆けた顔をする俺に、俺が何か知っていると勘違いしたらしいアキラ――…いや、スノーホワイトちゃんの大きなおめめがキラキラと輝きだす。
(ううっ……、)
言葉を詰まらせる俺にアキラはすがりつく。
「勿体ぶらないで教えてくれよ!!元の世界に帰る方法、何か知ってんじゃねぇの!?さっき何か言いかけてたろ!?」
(こ、これは……。)
やめて欲しい。
そんな可愛い顔、これ以上俺に近づけないで欲しい。
中身がアキラでも、スノーホワイトちゃんが美少女である事は代わりないのだ。――それも、この世でお目にかかれたのが奇跡レベルの美少女。
―――そんな美少女に迫られたら、中身がアキラだと分かっていてもときめいてしまう。
奴から視線を逸らす様にして目線を下げると、今度はスノーホワイトちゃんの胸元から甘いショコラブラウンのブラと小ぶりな胸の谷間が俺の目に飛び込んできた。
ゴクリと喉が鳴る。
世の男達の妄想を掻き立てて、男に脱がされる為だけに作られた(と俺は個人的に思ってる)ブラジャーと言う名のえっちぃ下着の中に隠されたピンク色の可愛らしい突起と、あの絶妙な揉み心地のおっぱいの感触をついつい思い出してしまった。
瞬速で下腹部に血液が集中して行く。
(こいつのおっぱいって、俺の手の中にすっぽりと納まるんだよな…)
まるで俺に揉まれる為に俺の手の平ジャストサイズに膨らんでくれたんじゃね?って、真剣に運命感じちゃう大きさ。
「ば、馬鹿、あんま近付くな」
「はあ?」
「……お前さ、今の自分の美しさをもっと理解してくれよ」
「お前何言ってんの?」
「だから!そんなに近付くなって!!今のお前は最っっっ高に可愛いんだよ、襲うぞコラ!!」
「えっ!?」
「つーかさっきから胸の谷間が見えてんだよ!さっさと隠さねーと犯すぞマジで!!」
思わず叫んでしまった。
しかし俺の言葉に、ようやくアキラも今の自分が罪作りな美少女である事を思い出してくれたらしい。
真っ赤になって「ご、ごめん…」と謝ると、胸元を抑えて俺から離れる。
気まずそうな顔で俯くスノーホワイトちゃん。……じゃなくてアキラ。
キッチンに微妙な空気が漂う。
「あの、ルーカスさ……じゃない、シゲ」
「……あんだよ」
ギロリと睨むと、俺のズボンに張ったテントを見つめながら彼女はバツが悪そうな口調で言う。
「勃起してる」
「お前のせいだっつーの」
「……あ…やっぱり?」
「悪ィかよ、くそ。……お前は今の自分の可愛らしさをもうちょっと真剣に自覚しやがれ。今のお前にさっきみたいに迫られたらどんな男だって一瞬でフルオッキだっつーの」
「…………。」
舌打ちして吐き捨てる様に言う。
キッチンに漂う微妙な空気の中、真っ赤に染まった頬を指先で搔き、明後日の方向を向きながらアキラは言った。
「あの、よ…?」
「……あんだよ?」
「……とりあえず、抜いとく?」
「は?」
俺は我が耳を疑った。
(何言ってんだ、こいつ…?)
「そのままじゃ辛いだろ?積る話もあるけどその前に抜いてやるよ」
ギョッとしたまま絶句する俺を見て、アキラは真っ赤になって立ち上がった。
「え!?……いや!ちが、違う!違うからな!そういうんじゃなくて!俺は男だったから今のお前の気持ちが分かるし!?男だったからこそ、ちんぽおっ勃てて自分にハアハアしてる男と向き合いながら話をするのが気持ち悪いから、お前に抜いて欲しいだけで!でも今からその辺で一人で抜いて来いっつーのも薄情な話だろ!?だから俺が処理してやろうと……って、あー、なんだ、なに言ってんだ、俺……、」
困った。
(可愛い…)
真っ赤になってモゴモゴ言っているアキラはアキラなのであろうが、同時に俺が恋したお姫様でもあるのだ。中にアキラが入っていてもいなくても、スノーホワイトちゃんはやはり犯罪級に可愛らしい事実は変わっていない。
「…………。」
俺は立ち上がるとアキラ――…改め、プリンセススノーホワイトの唇を塞いだ。
「んっ……んんんんーっ!!?」
ドン!
目を白黒させながら俺の胸板を叩く細い手首を握り締めて、そのまま彼女の背中をキッチンの壁に押し付ける。
ググッ、
それでもまだ抵抗しようとうするので、膝を彼女の足の間に入れて、そのまま秘所を押し上げる様にして壁に固定したままキスを続けると、彼女は抵抗を諦めた。
逃げ場のない口腔内で怯える様にして縮こまっていた舌を自分の舌で絡め取り、唾液と一緒に吸い上げて、しばし彼女の甘い唇を味わい尽くす。
(甘いな…)
悪い毒でも盛られてるみたいだ。
彼女の唇も、唾液も、漏れた吐息すら甘く感じて、今すぐ彼女の全てを貪り尽くしたい衝動に駆られる。
ふと目を開けると、アキラは目をかっ開いたまま俺の顔を凝視していた。
唇を離すと銀糸が俺達の間を繋ぐ。
「…ん…っだよ、今の……?」
「何って、キスのつもりだけど」
「は、はあああっ!?」
「いつものキスと何か違った?」
「キス?…なん、で……!?」
素知らぬ顔ですっとぼけてみると、アキラは俺の胸倉を掴んだ。
「俺とおまえ、がっ、……今、キスする必要が、いったい、どこに…!!」
そんな事を言われても困る。
当の俺本人でさえも、今自分が何故こいつにキスなんかしてしまったのか良く分かっていないんだから。
「や、……なんかお前、可愛かったから」
正直な感想だった。
悪びれもなくそう返すと、アキラは乾いた笑みを浮かべながら脱力した。
「……だろうな、俺もそう思うよ。本当可愛いよな、今の俺…。」
「だな、マジで可愛いよ」
俺の言葉に憮然とした表情を浮かべながらも頬を染めるお姫様は、やはり可愛いらしい。
「悔しいけど、――今のお前、クッソ可愛い」
アキラが俺の胸倉から手を離す。
自分の体から離れて行こうとする少女の手首を掴んで、そのまま自分の元へ引き寄せる。――…無意識だった。
―――何故か今、こいつの体が俺から離れて行こうとする事が許せない。
「シゲ……?」
戸惑い揺れる瞳の中に浮かぶ、発情のサインを見逃さない。
見逃してなんかやらない。
―――先程のキスで火が付いたのは俺だけじゃない。
「――……とりあえずスノーちゃん、エッチしよっか?」
「……うん」
自分で言っておいて何が「とりあえず」なのか分からないが、目の前の美少女は俺の言葉に素直に頷いた。
俺にさっき膝でグリグリされた足の付け根を抑えながら、真っ赤な顔のまま俯く美少女は――…今すぐ彼女が着ている衣服を破り捨てて犯し尽くしたい位可愛らしい。
(でも、これ……アキラなんだよなぁ……)
色々複雑に思いながら、彼女の腰のコルセットの紐を解いて行く。
下半身はともかく、俺の頭の方は冷静だった。
流石に中身がアキラだと知ってしまった以上、服を脱がせる手の動きは普段よりも遅い。
しかしショコラブラウンのブラジャーのカップから、ピンク色の可愛いらしい小粒がポロンと零れ、目の前の美少女が恥ずかしそうに眼をギュッと瞑ったその瞬間、俺の中の戸惑いは抹消した。
(もうアキラでも何でもいいや…)
―――だって今、俺に乳首吸われて「あんっ」って声出した子、死ぬほど可愛いんだもん。
*****
――事後。
「はあ、すっきりした」
床に落ちた服を拾い集めながらそう言う美少女の言葉に、同じく自分の服を拾っていた俺は「え?」と顔を上げる。
「マジかよ?女の身体も一発ヤればスッキリするもんなの?」
「そうだな、男時代抜いた後の感覚とはまた違うけど」
「ふーん、そういうもん?」
「そういうもん」
言われて見れば。
ブラウスのボタンをはめるスノーホワイトちゃんの顔も、やけにすっきりしている。
レディーファーストの国で長く生きたせいだろう。
なんとなくいつもの癖で、スノーホワイトちゃんの体を椅子に座らせて服を着せてやると、アキラは複雑そうな顔をした。
「いいよ俺が着せてやる、お姫様は座ってな」
「今更お前にお姫様扱いされてもなぁ…」
「スノーホワイトちゃんに対する俺の態度がいきなり変わったら、あいつらにおかしいと思われっだろ」
「まあ、そらそうだけどよ…」
不承不承に頷くスノーホワイトちゃんの爪先にストッキングを履かせて行く。
いつもの様に爪先にキスをしてしまいたくなったが流石にそこは自制して、さっきしていたくだらない話に話を戻す。
「ところで女の子も良い男が目の前に居たらヤリてぇ!ってムラムラしたり、男のズボンの中身とか想像したりするもんなの?」
「いんや。そう言うのは俺の記憶を取り戻す前も後もなかったなぁ、ただ生理前はムラムラする」
「へえ、やっぱそうなんだ?」
「目の前の男の裸を想像する事はあるけど、大概性欲は絡んでないな。こいつ毛深そうだな、とか。包茎っぽい顔してるなとか。こんなにイケメンなのに短小だったらうけるとか、そんな感じ」
「……それは…あんまり聞きたくなかった」
何だかんだで朝から2回もしてしまった。
1回は今俺が彼女に履かせた太腿で留めるタイプのストッキングだけ残して、椅子に座らせたままの彼女にたくさん悪戯した後、裸に剥いた彼女と立ちバックで。2回目は駅弁で、彼女が好きな抱っこちゃんスタイルで。
(あー、やっぱこいつとするエッチ最高なんだよなぁ)
やはりスノーホワイトちゃんは容姿もセックスも最高過ぎる。もしこんな奥さんが家に居たら、離れ難くて毎日仕事に行きたくなくて泣いてしまうかもしれない。
こんなに感度が良くてエッチな子なんて中々出会えるもんじゃない。更に絶世の美少女とくれば、絶対に手放したくない。
中身はアキラかもしれないけど、これからも定期的にセックスだけはしたい。切実に。
(そだ!)
彼女の服を整えた後、名案を思い付いた俺はそそそっとスノーホワイトちゃんの背後に回り込み、彼女の肩をお揉みする。
「ねね、アキラ君。また今度頼むよ、アイツ等に内緒でさ」
「はあ?」
「お前も元男なら分かるだろ?週1しか抜けない生活とか考えられる?マジで辛いんだって!またエッチしようよ?な!な、な?」
アキラは半眼になってピシッと俺の手を叩いた。
それでもめげずに俺はパン!と手を合わせて頭を下げる。
「一人でシコればいいじゃん」
「それも寂しいじゃん?」
「知らねーよ、そんなの」
「えー、俺達前世からの仲じゃーん、お願いー」
「変な声出すなよ、気持ち悪い」
(なんか……こういうの、久しぶりだな…)
何故だろう。
こんな訳のわかんねぇ状況なのに、昔みたいにアキラと普通に話せている現状が嬉しかった。
そんな馬鹿みたいなやり取りをしながら自分の服を着る作業に戻ると、さっき服を着せて貰ったお礼のつもりか、今度はアキラが俺が服を着るのを手伝ってくれた。
そっけない顔付きで、ぶっきらぼうな手付きではあるが、俺の胸のボタンをはめて行く彼女を見ていたら、たった今抜いたばかりだと言うのに息子がまた反応し始める。
(や、やめてくれ。そんな可愛い顔でそんな優しい事されたら、オニーサン真剣に惚れちゃうから!アキラでも良いとか思っちゃいそうだから!)
妙にドギマギしながら、やっぱり俺って惚れさせるのが簡単なチャラ男騎士なんだなぁと少しだけ切なくなった。
「じゃ体も頭もスッキリした所だし、話の続きでもすっか」
相手は俺だし、アキラももう遠慮はいらないと思ったのだろう。
しかしキッチンの床の上でどっしりと胡坐をかいて男らしく座った。
そんなスノーホワイトちゃんの姿に、妙な切なさが込み上げて来る。「やめて!オニーサンの夢を壊さないで!?」と言う気持ちもあり~の、「あれ、これはこれでありかも…?」と言う気持ちもあり~の。
「真剣な話をするとして。まさかこれって、本当に今流行りの異世界転生って訳じゃねぇだろ?現実的に考えて何かの陰謀に巻き込まれて脳死状態になった俺達が、最新ゲームのVR の被験者にされてるとかそんな感じ?」
真剣に陰謀論やら秘密結社について語り出すアキラに、俺は下村茂の記憶を取り戻してから今までの疲れがドッと沸いてきた。
(ネットDE真実系の秘密結社や、都市伝説みたいな陰謀論が事実現実にありえると仮定して。俺達みたいな一般人がそんな大それた陰謀に巻き込む訳ねぇだろうが…。)
仮に存在していた秘密結社さんが、一般人を使って何らかの非合法の実験をしようとしていたとしてもだ。被験者に選ばれるのは俺達みたいな底辺高校に通ってた連中じゃなくて、もっと優秀な人間だったり、飛び抜けた才能や珍しい技能がある奴だろう。
俺がそう話すと、アキラは憮然とした表情のまま胸の下で腕を組む。
細い腕の上にぷりんと乗っかったおっぱいから俺は目が離せない。
ああ、揉みたい。
もっかいモミモミしたい。
アキラなのかもしれないけど、もっかい目の前の超絶美少女ともっかいエッチしたい。オニーサン、あんなんじゃ足りないよぅ。
「それにその実験の舞台が乙女ゲームはありえねぇだろ…」
「あるかもしんねーじゃん?何かの心理的な実験で、俺達みたいな一般人の心理や適応力が見たくてあえて選んだとか」
「ないないないない」
ないないと言いながら手を振って嘆息する俺に、アキラは顔を顰める。
「そういやお前はいつから記憶戻ったの?下村なら下村だって言えよ、気持ち悪いな」
「や、それについてはお互い様だから。お前もアキラならアキラだって言えよ、何だよあの喋り方。『アミー様ぁ』じゃねぇよ、馬鹿」
しなを作っていつもの彼女の真似をしてみると、アキラは不貞腐れた様な顔になる。
「るせーな仕方ないだろ、記憶が戻ったのってつい最近なんだから。それまでスノーホワイトとして生きて来た訳で、女言葉も女の仕草にも馴染んじゃってるし」
「へー、奇遇だな。俺もつい最近なんだよ、記憶が戻ったの」
「最近っていつ?」
「ここ来るちょっと前」
テーブルの上にあった青リンゴを手に取って齧る。
シャクシャクリンゴを齧りながら、ここに来てからいたる所でリンゴを目にする機会が増えたなと思う。……やっぱ舞台が白雪姫だからなんだろうな。
「ゲームで言えば、ルーカスとエミリオ王子がお前の前に現れる前のイベントん所だと思う」
「ああ、お前達がフロリアナに負けて城を追い出される所な」
「え?」
「フロリアナだろ?アミール達の継母のフロリアナ」
固まる俺に不思議そうに首を傾げながらアキラは言う。
「もしかしてお前知んないの?このゲームのラスボスって大臣のオッサンなんだよ。その大臣のオッサンの姪がラインハルト国王陛下の後妃のフロリアナ。そいつらの陰謀で追い出されたんだろ?」
―――ちょっと待て……。
実を言うと、俺は『白雪姫と7人の恋人』のストーリーをそこまで正確に把握していた訳ではないのだ。
何だってアキの部屋で、あいつがプレイしているのを隣で1度見ただけだ。
それも全て見た訳ではなく、攻略キャラの萌えイベントをチラリと見ただけで、メインイベントは飛ばし飛ばしで見た。その最中アキに見せられた攻略本やらファンブック、普段彼女が話していたオタトークで大まかな流れは掴んでいたと言うだけなのだ。
だからこそエミリオ王子とルーカスが、ラインハルト国王陛下の女に城を追い出される事は知っていたが、その女の名前までは流石に覚えていなかった。
(ゲームも寵妃ホナミだと思っていたが、そうじゃないのか……?)
「実はさぁ、俺もお前とエミリオ王子がここに来るまでメインストーリーの方は忘れてたんだよな。それよりもヒロインが誰にどんな風に犯されるかの方が印象的だったから、そっちの方に意識が向いてたっつーか」
アキラはこの乙女ゲーム『白雪姫と7人の恋人』のオタクだったアキの弟だ。
俺よりも断然このゲームのシナリオは詳しいのだろう。
「アキラ、ちょっとお前の知ってる『白雪姫と7人の恋人』のメインストーリーを俺に教えてくれないか?」
「はあ?いきなり何だよ?つーか俺が今話聞いてたんだけど!お前は元の世界に帰る方法知ってんの!?先に俺の質問に答えろよ!」
「取りあえず落ち着け。俺の知ってる事は後で全部話してやるから、その前にお前の知ってる事を全部話してくれ。もしかしたら俺はとんでもない思い違いをしていたのかもしれない」
・・・・・・。
それから俺はアキラに『白雪姫と7人の恋人』の正史――…つまり、大団円ENDの流れを聞く。
(やっぱり、そうなのか……?)
アキラが話した『白雪姫と7人の恋人』ストーリーの大まかな流れは、大体俺の想像通りで合っている。
―――しかし、ゲーム『白雪姫と7人の恋人』には寵妃ホナミは登場しない。
ゲーム『白雪姫と7人の恋人』とは、不治の病に倒れたラインハルト国王陛下が大臣に幽閉され、後妃のフロリアナ一派が利かせる世界らしい。最後はフロリアナと、一連の事件の黒幕である大臣ウーヴェを倒し、アミール王子が王位に就きめでたしめでたしと言う流れらしい。
余談だがそのメインストーリーは大団円ルートに入らないと全て見る事は出来ないのだとか。
ちなみにアミール王子やエミリオ王子がリンゲインに婿入りするENDもあるらしい。
リゲルブルクとリンゲインが統合して、呪いが解けてめでたしめでたしと言うのが『白雪姫と7人の恋人』の真のハッピーエンドであり、大団円ENDらしい。
―――って、
「……呪いって何だ?」
「流石にそこまでは覚えてねぇよ。でもおとぎ話なんてどれも悪い魔女を倒して何かしらの呪いが解けて、王子様とお姫様は末永く幸せに暮らしました!めでたしめでたしが基本だろ」
俺はまたしてもスノーホワイトちゃんの細い肩を掴む。
「アキラ、良く聞け。ここはもうゲームの『白雪姫と7人の恋人』とは違う世界だ、何かがおかしい」
「そらおかしいだろ、俺がスノーホワイトでお前がルーカスなんだから」
「そういう事じゃない。7人の恋人のラスボス大臣は今過労で倒れて入院中なんだ。ラインハルト国王陛下も病に伏している訳じゃない、俺とエミリオ様を城から追放したのはフロリアナじゃなくて別の女なんだ。フロリアナはその女に既に毒殺されている」
「そう、なのか…?」
俺に肩を抱かれている、麗しの姫君の瞳が揺れる。
「ああ、だからこの後俺達がどうなるのか全く分からない……マジ気を引き締めていかねぇと」
「あー……何?それってまさかおしべ草ENDとか、ナマハメENDとかに行くよりもヤバいラストがあるって事?」
「なんだそれ……?」
「なんだって18禁バージョンの『白雪姫と7人の恋人』のバッドエンドだよ」
「は、はあ…?」
(なるほどね…)
アキラが記憶を取り戻したのも、俺と同じゲームの開始時点、――つまりヒロインスノーホワイトが『白雪姫と7人の恋人』に出てくる登場シーンだったらしい。
その後18禁乙女ゲームの本質や、このゲームのバッドエンドを知っていたアキラは攻略キャラが全員揃う前に逃走するつもりだったそうなのだが、気が付いたら攻略キャラが7人揃ってしまい今に至ると言う事だった。
「お前はこの後俺達がどうなるか知ってんの?」
「わかんねぇけど……多分、お前が大団円ルートに入ってるのは確かだ」
「えっ!?なんで!?どうして!?」
「そんなの知らねぇよ。でも今のお前――…つーかスノーホワイトちゃんのステータスはパーフェクトなんだよ、ゲームみたいに数字とかは出て来ないけどそれだけは何となく分かる。そしてお前はゲーム開始地点から今まで出て来たであろう選択肢をことごとく正解し続けて来た。だから7人の恋人達はお前にベタ惚れなんだ」
「そ、そんな…、俺はどうすれば…?」
アキラは蒼白の表情になり床にへたり込む。
「どうすればって。――お前の話によると、今まで何度もこのゲームから逃げようとしても、逃げられなかったんだろ?いい加減諦めろよ。このゲームのヒロインとしてさっさとゲームを全クリしやがれ」
「全クリ…。でも、ラスボスは入院中なんだろ?どうすりゃいいの?」
青ざめた顔のままアキラは俺を見上げる。
「とりまフロリアナと大臣の代わりに今、リゲルブルクを牛耳ってる寵妃を倒せばいいんじゃねぇの?勝ったらハッピーエンドでめでたしめでたし」
「負けたら?」
「さあ。ちなみにゲームの白雪姫の方はラストに負けたらどうなんの?」
「そ、そうだ……、確かスノーホワイトのステータスと攻略キャラの親密度が低いと、最後の戦いに負けるんだ…」
アキラは顔を両手の平で覆って、項垂れる。
「お前達の方はどうなるか覚えてねぇけど、俺は負けたら最後、悪の大臣の性奴隷ENDだった…。クスリを決められた状態のまま、乳首やクリにピアスを開けられて、全裸で首輪で犬の散歩状態でリンゲインの国民の前に晒されて……BADEND」
「……なんか壮絶だな…乙女ゲーム怖い」
「怖いのは俺だっつーの!!腹の出たハゲ親父のペットになんてなりたかねぇし!!つーか全裸に首輪の犬の散歩はまだ序の口なんだぞ!?クリトリスを紐で縛られて、その紐引っ張られながら城内散歩されられたり、まんこン中に判子を入れられて、その状態でデスクの上で判子を押して仕事手伝わされたりする毎日なんだからな!?判子がちゃんと付けなかったら当然お仕置きコースだぞ!?ありえねぇだろ!!」
・・・・・。
それを聞いたらオニーサン、またおちんちんがふっくらしてきました。
「アキラ君アキラ君、」
「何だよ?」
「何故か今ここにタイミング良く判子があるんだけど」
「……シゲ?」
胸ポケットから判子を取り出すと、アキラが半眼になる。
「ヒューヒュー、アキラ君のっ、ちょっとイイとこ見てみたい♪ はいはいはいはい!」
コールをかける俺の頭をぽかりと殴った後、アキラはまた大きな溜息を付いて項垂れた。
「最後の戦いに勝って大団円ENDに行っても、こんな奴等と重婚ENDとか救いようがねぇよ…。ああ、寒気がして来た。……もうさっさと向こうの世界に帰りたいんだけど、どうすればいいの?俺は今自分が知ってる事全部話したぞ?次はお前の番だ」
取りあえず俺も今自分が知っている事をすべて話した。
とは言っても、この世界は乙女ゲーム『白雪姫と7人の恋人』にはないルートに入ってしまった世界だと言う事。今リゲルブルクを支配しているのは、最高危険種の妖魔だと言う事。その妖魔に敗北して俺とエミリオ様はここに逃げてきた事。俺達2人では勝利する事は出来なかったが、高スペック揃いの7人の恋人全員でかかれば勝てるかもしれないと言う事位だが。
俺の説明にアキラは脱力する。
「結局シゲもこの世界の事や帰り方は分かってねぇんだな…」
「分かんねぇけど、……こういうのって、異世界救ったら元の世界に帰れるのがこの手のアニメやゲームのお約束なんじゃねぇの?」
「はあ?お前遅れてんなー、一体何年前のアニメやゲームの話してんの?」
それからアキラは今のオタク業界では異世界転移ではなく異世界転生がブームで、人生がつんでるニートやブラック会社勤務の社畜が異世界転生した後は前世の記憶やら知識を生かして内政チートをして、奴隷ハーレムを築き、モテモテ人生を謳歌するのだと今流行りの異世界物について語り出した。
ちなみに女版は貴族の娘やら王女に生まれ変わり、やはり前世の知識を生かして料理スキルなどで私SUGEEE!をして、イケメン達に溺愛されるのが一般的なのだとか。若年層ではイジメられっ子がクラスごと転生し、異世界でイジメっ子達をブチ殺して復讐し、俺SUGEEE!をするのがメジャーなのだそうだ。
まあ、そんな感じで異世界で高スペック美男美女に生まれ変わった後は皆、異世界で末永く幸せに暮らす事になっているらしい。
聞いていて何だか俺は頭が痛くなって来た。
(どうしよう…)
つまりお約束の神様がこの世界に居たとしてもだ。
一昔前のアニメやゲームみたいに、この世界を救っても俺達は現実に帰れる見込みは薄いのかもしれない。
―――だが、
「よくわかんねぇけどよ、……俺もお前もゲーム開始時点っつーか、ゲームの『白雪姫と7人の恋人』のスノーホワイトちゃんとルーカスの登場シーンで記憶が戻ってんじゃん、もしかしたらそこに解決の糸口があるんじゃねーの?」
「つまり?」
「お前は時代遅れだっつってたけどよ、取りあえずこのゲームをクリアしてみようぜ?ゲームが終了したら俺達のこの世界の役目も終わったって事で、スノーホワイトからもルーカスから俺達の記憶が抜け落ちて、現実に帰れるとか…?」
「そ、そうか、確かに…!俺達キャラクターの登場シーンの所で記憶が戻ったんだもんな!!ゲームが終了する所まで行けば元の世界に戻れる可能性も…!?」
慰める訳ではないが、何んとなく思いついたそれっぽい事を言ってみると彼女の顔はパアア!と輝いた。
その輝かしい笑顔に俺も晴れ晴れとした気分になる。――しかし、すぐにスノーホワイトちゃんは意気消沈した。
「――…って、現実世界の俺達は実は死んでる可能性は?その場合ゲームをクリアしちゃったら、記憶と一緒に全部消えてなくなる可能性が出て来ないか?ゲームのエピソードを全て消化した後もそのまま記憶は残ってて、こっちの世界でそのまま生きてく可能性だってあるだろ?」
「ま、まあそれはそうなんだけどよ、そこはお約束の神様を信じるしか……」
「そんな神様本当に存在すんなら、今からお百度参りに行くわ」
「今から二人でカルヴァリオに聖地巡礼にでも行っちゃう?」
「教皇国か……この世界の神様って、キリスト系っぽい感じの神様だろ。絶対神?唯一神だっけ?こっちの神様ってお百度参り知ってんの?効果あんの?」
「や、それは知んねーけどよ、困った時の神頼みっつーか…」
俺達が青い顔を突き合せて、そんな事をボソボソ言っていた時のことだった。
「面白い話をしているね?私にも詳しい話を聞かせてくれないか、ルーカス・セレスティン。――…いや、シモムラ・シゲルと呼んだ方が良いのかな?」
背中にかけられた声に俺達は慌てて後を振り返る。
(や、ばい……)
一体いつからそこに立っていたのか。
戸口に背を預けながら腕を組んで立っていたアミール王子の姿に、キッチン内の空気が凍り付いた。
「スノーホワイト。いや、ミウラ・アキラ。――……君はもしかして、以前我が国に降臨した聖女ホナミ・ミウラの縁者なのか?」
煌びやかな金髪が揺れ、その残滓が朝陽を浴びてキラキラと光をまき散らす。
いつかも思ったが、この王子様は普段顔に浮かべているその温厚そうな笑みを消した途端、別人の様に鋭利な印象となる。
王子に射抜くように鋭い視線を向けられたアキラは、狼狽を顔に漂わせ、ゆっくりと首を左右に振る。
「聖女ホナミ?……まさか…いや、そんなまさか…、」
ふらりとよろめき、一歩後に下がった彼女を背に庇う様にして俺は一歩前に立った。
(マズイ。これは本格的に、マズイ……。)
―――この話を聞かれたらこの世で一番マズイ男に聞かれてしまった。
王子様の青い目は、いつかの夜のようにどこか冷え冷えとしていた。――…何度も戦争に行って人を殺した事のある俺は、この冷たく威圧感のある瞳の本質を知っている。
国民を管理し、彼等が間違った道を歩まぬ様に道を示す者。
民を守る為に、時に非道な嘘を吐き、時に残虐な選択に迫られる者。そしてその選択を間違う事を決して許されない者の瞳。
だからこそ時に非情に、時に傲慢に、俺達下々の兵に敵国の兵を殺して来る事を命じる事が許される唯一の者。
だからこそ時に冷酷に、時に残酷に、自国の兵を切り捨てて、俺達に「国の為に死んで来い」と命じる事が出来る唯一無二の高貴の者、――王者の瞳だ。
アミール王子の放つ殺気と似て非なる何かに、圧迫感のある空気がキッチンの中に充満する。
俺は視線を彼に向けたまま、――しかしいつでも抜刀出来る様に、腰の双剣に意識を向けた。
(どこまで聞いていた?誤魔化せるか?)
これは、半端なくヤバい。
―――俺の想像が間違っていなければ、アミール王子の母親であらせられるベルナデット様の死因は、三浦のおばさん――聖女ホナミに起因する。
キッチンの壁に掛けられたリンゴ形の時計がパカッと開き、中から飛び出してきた7人の小人が場違いに明るい音楽で7時を告げる。
(まずいな、もう7時なのか…)
もうそろそろ残りの6人の恋人達が起きて来てしまう。
絶体絶命の4文字が脳裏に浮かんだその時、俺の背中にギュッとしがみ付く様にして隠れる少女の体温に我に返った。
(前世からの付き合いだしな。……しゃーねぇな、お前の事は俺が守ってやるよ)
俺の中で覚悟が決まった。
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