恋人2、Bashful
和やかな夕食の時間が終わり、眠りにつく時間となっても姫様の機嫌は直らなかった。
当の姫様は怒っていないとおっしゃっているが、やはり彼女は私に対してお怒りになられているご様子だ。
明らかに私と他の恋人達との態度が違う。
リゲルブルクの皆さんにも「何かあったのか?」と影ながら心配された。
性に対する差異の問題なのか、それとも噂通り少し……なのか、はたまた懐が広いのか。毎度の事ながら一体何を考えているのか判らない、姫様の第一婚約者であらせられるアミール王太子殿下に「今夜は君の番で幸運 だったね、しっかり姫 の機嫌をとるんだよ」と励しの言葉を掛けていただきながら肩を叩かれて、私達はこの小屋で一番大きな主寝室に追いやられた。
「…………。」
「…………。」
姫様は憮然とした表情のまま、寝台の上でひたすら御髪 に櫛を通されている。
私は沈黙が苦痛な性質 ではない。この口下手な性格故に、普段はむしろ沈黙で皆を困らせている側の人間だ。
しかしこの状態がかれこれ十数分続いており、今夜は珍しく私の方がこの長苦しい沈黙に苦心していた。
一本一本細部まで美しい姫様の御髪にはもう櫛の必要はない様に見える。
彼女も真剣に髪を梳かしている様子ではない。適当に櫛を入れ、時間を潰している様に見える。――つまり、姫様は今私と話したくないのだろう。
今日は待ちに待った姫様と二人きりの夜だった。
ずっとこの日を心待ちにしていたが、姫様がこの様子では仕方あるまい。
「姫様。お加減が優れない様ですので、今夜はもうおやすみになって下さい」
そのまま部屋の明かりを消そうとすると、大きなベッドの上で不機嫌そうにブラシをかけていた姫様が「えっ!?」とこちらを振り返る。
「いかがなされましたか?」
「…いえ……なんでも」
「そうですか、ではお休みなさいませ」
「…………メルヒの、馬鹿」
「はい?」
「…………。」
姫様は答えなかった。
それから私達は寝台に寝転がったが、それから数十分経っても姫様は眠れないご様子だった。
私に背中を向けたまま横になっている姫様に、お声を掛けてみる。
「姫様、眠れないのですか?」
眠れないのなら昔の様に子守唄でも……と思ったが、私は自分が音痴な事を思い出した。
そのせいで吹き出した姫様の笑いが止まらなくなり、逆に彼女が眠れなくなってしまった事がある位だ。
「…………メルヒのせいです」
私に小さな背中を向けたまま姫様はぼやく。
「私が何かなさいましたか?」
「…………だから、メルヒのせいです!」
「はあ」
「メルヒなんか、……きらいです!!」
「…………。」
(仕方ない)
「分かりました…」
そのまま嘆息混じりに起き上がりベッドを降りると、後で姫様が起き上がる気配がした。
「メルヒ……?」
「違う部屋で、寝ます」
「なんで……?」
「嫌いな男と同じ部屋で眠るのは、つらいでしょう」
ベッドサイドに置いていたランプに火を灯すと、姫様はポカンとした表情で私を見上げていた。
「……姫様?」
どうしたのだろうと声をかけると姫様は俯いた。
そのまま肩を震わせる姫様のご様子に、「やはり御加減がよろしくないのだろうか?」とランプをおいて彼女の様子を覗おうとしたその時だった。
「…………違げーよこの朴念仁!!なんでわかんねぇんだよ!?」
「はい?」
ボスッ!
顔に直撃した柔らかいものを手で受けとめる。
どうやら私は姫様に枕をぶつけられたらしい。
「鈍いにも程がある!!普通分かるだろ!?分かるよな!?なんで分からないの!?この馬鹿!!ばかばかばかばかばかばかばかばかっ!!」
姫様は手当たり次第枕をぶつけられ、私は唖然としながら彼女を見下ろした。
(一体どうなされたと言うのだろう……?)
怒りのあまりかいつもと口調が違う。心なしか、顔付きまで違う様に見える。
手元の枕やクッションがなくなると、姫様は寝台の上で「ううううう」と唸りながら恨めしそうに私を睨みつけた。
「昼間、あんな状態でお預けにしておいて、本当に最後までしないつもりかよ!? お前のせいで体が火照って眠れないんだけど!!」
「ひ、ひめさま……?」
姫様の言葉に、私はふとある事を思い出した。
淫獣や淫蟲の粘液による催淫効果とは、男が中で精を放って向こうの精を中和しなければ解放されない物が多い。
「膣の子程度の淫蟲の催淫効果ならば、男の先走りだけでも充分と聞いておりましたが、……やはり中で精を吐き出さなければならなかったのでしょうか?」
私の言葉に姫様はガクッとベッドの上で項垂れる。
(まさか、あれからずっと、姫様は膣の子の淫猥な熱に浮かされていたと言う事なのだろうか?)
拳をギュッと握り締めて震える姫様を覗き込むと、彼女はキッと顔を上げ、ベッドの上に仁王立ちになられた。
「メルヒ、早く脱がせなさい。――これは太陽王の末裔、スノーホワイト・エカラット・レネット・カルマン・レーヴル・ド=ロードルトリンゲインの命令よ」
姫様のそのお言葉は、私の様な色事に疎い男にとって非情に解り易いもので、――…そして私を陥落させるには、十二分なものだった。
****
心躍る命を受けたものの、それからが大変だった。
私は女性の夜着どころか服全般に詳しくない。
姫様が肩に羽織った薄手のカーディガンを脱がせた後、私は彼女が着込んでいるナイトドレスとやらをどうやって脱がせれば良いのか判らずに悪戦苦闘する事となる。
そう言えば私は今まで姫様の服を脱がせた事がなかった。
複数で睦み合った時は、他の恋人達が姫様の服をスルスルと脱がせていたし、姫様と初めて関係を結んだ時は、彼女は最初から何も身に纏っていなかった。
二人で大きなベッドの上に向かい合って座ったまま、私は顔を顰めながら彼女の胸元のリボンを指で摘む。
「このリボンは解いた方が良いのだろうか?」と思いきや、解けない様に縫い合わされているリボンだったり、リボンかと思えばボタンの上にリボンが付けられてあったりして、その複雑な夜着は私を酷く困惑させ、消耗させた。
やっとの思いで彼女の夜着を脱がせたはいいが、次に更なる難問が私に襲い掛かった。
中でも私を酷く悩ませたのは俗に言う「紐パン」と言う破廉恥な下着だった。
腰の左右で紐を解けば脱げる仕組みのものである事は知っていたが、実際自分の手で解いてみるのはこれが産まれて初めてだ。
そしてこれが、――…何故か解けないのだ。
(困った……)
腰を屈めて、そのフリフリしたレースなのだかリボンなのだか紐なのだか分からぬ物の結び目の部分に顔を近付けてみる。目を細めてその結び目を凝視し、これは一体どうやって解くのだろうと思案していた時だ。
プッと上から吹出す音に顔を上げれば、姫様は口元を押さえおかしそうに笑っていた。
「メルヒ、ごめんなさい。これは紐パン風の下着で紐パンじゃないんです。だからね、えと、……そのリボンは解けないの」
死にたい。
「そんなに……笑わないで下さい」
「ごめんなさい、何だかおかしくて。メルヒ、とっても可愛いわ」
「……大人をからかうものではありません」
姫様は何故かとてもおかしそうに笑っていたが、私が苦虫を噛みつぶしたような顔をしている事に気付いたらしい。顔の前でパン!と手の平を合わせ、ぺろりと舌を出すと「ごめんね」と可愛らしく謝った。
姫様のその仕草もその表情もとても可愛らしい物なのだが、しかし、今は彼女を可愛らしいと思う気持ちよりも羞恥心の方が勝り、雄特有の暗い征服欲が込み上げて来る。
姫様が口元からちらりとのぞかせた赤い舌にむしゃぶりついて、そしてその可憐な唇におのが肉を咥えさせ口腔内を陵辱し、最後には舌の上に大量の白濁液を吐き出して懲らしめてやりたい。――…などと乱暴な思考に染まった脳内からその破廉恥な妄想を追いやる。……この手の事は考えるだけで、した事はないのだが。
(まあ、いいか…)
姫様の機嫌は直った様だし。
私の朴念仁ぷりも役に立つ事もあるのかもしれない。……と思ったが、ベッドの上に倒れ、腹を抱えながら笑い転げる姫様のその様子に、流石の私もやや憮然としてしまう。
「……仕方がないでしょう、ずっと女性とは縁のない生活を送って来たのです」
私の言葉に姫様はきょとんとした表情を浮かべながら身を起こす。
「え?まさか私が初めてだったの……?」
あまり答えたくない質問――…と言うか、答えない方が良い質問だと思い、私はそのまま姫様を寝台の上に押し倒して唇を塞いだ。
「ぅ、んっ、……ちょ、ずる……い…!」
ミュルシーナは私の片恋の様なものであったし、恋愛経験など毛ほどもないような人生であったが、男も三十年生きていれば男女の仲とは全て正直に話せば良い物ではない事に気付く。
時には嘘も必要だし、謎がまったくない男など味のなくなったガムの様につまらないものだろう。
とりあえず紐パンとやらは諦めてブラジャーのホックを解こうと姫様の背中に手を伸ばし、――そして、私はまた困惑した。
(ホックがない……?)
一体この乳バンドはどうやって外すのだろうか?
私の口付けが止まった事に気付いた姫様は瞼を開ける。――そして、私の動きが止まった原因にも気がついた様だった。
「ふふ、これはこうやって脱ぐのよ」
上体を起こした彼女は、胸の谷間の間で結ばれた大きなリボンを解く。
これがまた洒落た下着で、中央のリボンを解くと乳房があらわになると言う代物だった。
窮屈そうな下着に戒められていた二つのふくらみが、解放された悦びに大きく弾み、たゆんと揺れる。
それを見てごくりと喉を鳴らす私に、姫様はまた「うふふ」と笑みを零された。
もう年甲斐がないと笑われても構わない。
このまま姫様を押し倒し、その形良く張った乳房を揉みしだきたい衝動にかられるが、その前に私はまずやらなければならない事がある。
リゲルブルクの方々に頂いた夜着を破いてしまっては申し訳が立たないので、自分の着込んでいる夜着を脱ぎ捨てた。
上半身裸になると、姫様は私を見上げながら「はうっ」と熱い溜息を付く。
「……どうか、なさいましたか?」
「いえ。筋肉、凄いなぁって」
こんな熱い眼差しを向けられるのは、ウニコーンの粘液による催淫効果で姫様が発情していた時以来なので戸惑った。
「さ、触って良いですか……?」
「どうぞ」
断る理由もない。
にべもなく頷くと、姫様は寝台の上に膝立ちになり、私の上腕二頭筋から上腕三頭筋の辺りをさわさわと撫でた。
「すごい。……こっちも触って良いですか?」
「ええ」
私の全ては姫様の物だ。
本来ならば断りなどいらない。触りたいのならどこでもご自由に触れて下さいと思うのだが、やはりそこは姫様と言った所だろうか。なんとも奥ゆかしい。
私の割れた腹筋撫でながら姫様は感嘆の息を吐く。
「…………俺もこんな体だったら、夏はショーナンとかオンジュクに行ってナンパしまくったんだろうなぁ」
「何か言いましたか?」
「いえ、何でも」
「?」
小声でぼやくいた姫様のその言葉を私は聞き取る事は出来なかった。
「もう、良ろしいですか?」
姫様が小さくこくりと頷くのを合図に、私はゆっくりと彼女を寝台の上に押し倒す。
緊張で少し強張った顔へ、何かを覚悟する様にゴクンと息を飲み込んだ喉へ、震える鎖骨へ、汗ばんだ胸元へ、唇をそっと落として行く。
私の太い腕で華奢な姫様のお体を押し潰してしまわぬ様に、出来うる限り優しく。何よりも姫様が大切で、大事にしている事が彼女に伝わる様に、綿でそっと包み込む様に唇を落として行った。
自身のサイズの問題もあるので、前戯は長ければ長い程良いだろうと、熱心に彼女の体をほぐして行くと姫様の瞳が潤み出す。
「ぅ、……んっ!」
もぞもぞと内股を擦り合わせる様な仕草をはじめ出した姫様の胸の尖りを口に含んだ瞬間、「やんっ!」と上がった甲高い声に私は顔を上げる。
何かに耐える様にギュッと目を瞑り、プルプル震える姫様のそのご様子に私は懸念した。
(もしや、お嫌……なのだろうか?)
私の様な身分の低い下男に、――…しかも年の離れた中年男に抱かれるなど、本当は姫様もお嫌なのかもしれない。
思い返してみれば、私達が初めて結ばれたあの時だってそうだ。
正気に戻った姫様はあの後、私との交わりについてどう思ったのだろうか。あの時の交わりは彼女からすれば不本意な物であったに違いない。
昼間のあれも姫様の意思ではない、膣の子と言う淫蟲のせいだ。
ウニコーンの件以来、ずるずると関係を持ち続けているが、本当は姫様は私の相手をするのは苦痛なのかもしれない。
あの時私は自分の気持ちを告げてしまっている。
正気に返った後、お優しい姫様はさぞかし苦悩なされた事であろう。
一度関係を結んでしまい、他の恋人達との情交が明るみに出てしまった以上、私だけを拒むのも悪いと思ってお情けで関係を続けて下さっていただけなのかもしれない。
そんな不安に苛まれながらも私は前戯を続けていた。
左手で乳房を優しくやわやわ揉んでやりながら、もう一方の胸の尖りを口に咥える。
自身の不安を掻き消す様に、乳首を絞り上げるようにしながら強く吸うと彼女の腰が跳ね上がった。
「ッあ、ふぁ……っ!」
感じて下さっている様な気もするのだが、男の私に女心が解るはずもない。
(今のは少し強すぎたのだろうか…?)
申し訳なくなって来て、お慰めする様に胸の飾りを舌で丁寧に舐めてみるが、ふとある考えが脳裏を横切る。
それを確認する為に口の中で転がしていた胸の頂きを強く吸ってみると、姫様はまた「やあ…ッん!」と大きな声を上げた。
「すみません……」
恥じらう様に顔の上で交差させた腕に力が入るのを見て、やはり痛かったのだと私の体は固まった。
息も絶え絶えの姫様のご様子に、このまま続けて良いのだろうかと思い悩む。
どうしたものかと彼女を見下ろしていると、姫様は目元を覆っていた腕を外し、小さな声で何やら呟いた。
「――て……?」
あまりにも小さな声で聞こえなかった。
私の反応に彼女は自分の言葉が届いていない事に気付いたらしい。
耐えられないと言った表情で姫様は横を向いて私から視線を反らすと、震える唇を開く。
「やめないで、……つ、つづけ…て」
(え……?)
「――…きもちいい、から、……だから、もっとして…ほしいの…」
「…………。」
一瞬自分の耳を疑った。
どうやら姫様は私の愛撫で感じてくださっていたらしい。
(あれは痛かったのではなく、悦かったと言う事……なのか?)
「もうやだ、何言ってるんだ恥ずかし過ぎる……!」と顔を隠したまま足をバタバタする姫様のその様子に、頬の筋肉が緩んだ。
「姫様、お慕いしております」
私は愛撫を再開する。
今度はさっきよりも少し強く乳首に吸いついてみた。
「ッひぁ!は、ぅ、……ぁ、あんっ!あ、やぁっ!」
先程よりも反応が良い。
なるほど、と一人で納得しながら先程よりも胸の尖りを強く吸い、軽く歯を立てみる。
もう片方も指で軽く捏ねったり、ぎゅと押し潰してみると姫様の呼吸は乱れて来た。
どうやらここは、私が思っていたより強く刺激した方が姫様はよろしい様だ。
それに気が付き胸を強く弄り出すと、姫様は自分の手の甲を噛む事でご自身のよがり声を抑え出す。
「駄目です……」
彼女が噛んでいる手を外し歯型が付いた手の甲に口付けすると、姫様はイヤイヤと首を振りながら快感から逃れようとシーツの上で身を捩るが私の腕はそれを許さない。
「ぁ…ん、んんっ……メル…ヒ…?」
一旦胸から唇を離し、そろそろ良いだろうかと姫様の下腹の方に手を伸ばした。
既に熱を持ち腫れぼったくなっている割れ目に手を這わせてみれば、下着の上からでも濡れているのが良く分かった。
「とても、濡れています……」
「そんな事…言っちゃ、……やだ…よぉ…」
下着越しに姫様の弱い部分に触れた瞬間、彼女の体がビクン!と跳ねてベッドのスプリングが弾む。
涙で濡れたその瞳に、私はまたしても戸惑った。
「お嫌、ですか?」
またしてもぷるぷると首を横に振られるが、姫様は今何故こんなにも涙ぐんでいるのだろうか?
やはり私の様な中年男に抱かれるなど、嫌なのかもしれない。
もうやめようか。
姫様も私の様な親と代わりのない年の男ではなく、他の恋人達の様にお年が近い方がきっと良いだろう。
罪悪感を覚えた私が彼女の上から身を起こそうとした時の事だ。
「違う…」
「……は?」
「ちがうの。――あの、ね?……きもち、いい、から。だから…早く…、」
顔を両手で覆ってそう言う姫様に首を傾げる。
「……? 気持ちいいから、早く?」
「私を、お、お……ぉ」
「お?」
「――犯して、くださ…い…」
その言葉にぷつんと自分の理性が切れる音がした。
衝動に身を任せ、獣の様に荒々しく下着を剥ぎ取って一気に彼女を貫きたい所だが、やはりここは年の功とでも言う所だろうか。
私は必死で自分を押さえる。
しかしあと十歳若かったら難しかったかもしれない。
(やはり前戯はちゃんとしておいた方が良いだろう)
下着の上にぷくんと浮き出た尖りを強めに擦ってやると、姫様は甘える様な、私の腰にズンと来る声で啼きはじめた。
「ひあっ!?――やあ…ぁ…んん!だっ、だめ、まって……っ!?」
「嫌なら……やめます」
言いながらも、指の動きを止めることはしなかった。
姫様が悦んで下さっていると言う事が分かってしまった以上、止める理由はない。
女体とは奥が深いもので、下着の上から愛撫した時の反応はその布地によって違うのだ。
本日姫様がお召しになられている絹 の下着は、直に触れるよりも下着の上から触った方が反応が良い代物であった。
「やん!やぁ、だっ! あ、あぁ、……ぁっ…ああああっ!」
上品な光沢の絹の下着の上から、姫様の敏感な箇所を覆い隠す不躾な苞を剥いて優しく掻き毟ってさしあげると、彼女は私の背にしがみ付いたまま絶頂を迎える。
「下着をこんなに濡らして、……いけない方だ」
「――や、な、なに言……て、」
荒い呼吸を繰り返す姫様の腰を上げて下着を剥ぎ取ると、彼女の秘めやかな花はもうどろどろに蕩けており、ぬめりを持った花弁は花蜜で光っていた。
「ここを擦られると、そんなに悦いのですか……?」
「あ!…あ、あぁ……ッぁん…!」
どうやら一度達した事もあり敏感になっているらしく、直に指でそこに触れてみると、彼女の汗ばんだ腰が物欲しげに揺れる。
あまりにも反応が良いので、しばらくそこを弄り続ければ姫様は「もう無理」「やめてください」と泣き出してしまった。
しかし涙で頬を濡らしながらどんなにイヤイヤと首を横に振っていたとしても、もう彼女が嫌がっていない事も、私の愛撫で感じて下さっている事も、私の様な鈍い男でも流石に判る。
「まるで、子供が粗相をした様に濡れている」
「ひっく、……いじわる、いわないで……っ」
素直な感想だったのだが、私のその言葉は姫様の羞恥心を煽ってしまったらしい。
姫様は恥じらいのあまり、大粒の涙をぽろぽろと零す。
そんな彼女がとても愛おしく思えて、もっと悦ばせてさしあげたいと言う欲求が芽生えた。
「ひめさま、」
充血して膨らんでいる小粒を親指で上下に擦りながら、花露で濡れて息づいている紅い花の奥へと指を埋めて行く。
「んっ!ぅ…ん……あ、んっ!……めるっ、ひ、」
甘さをふんだんに含んだ声で名前を呼ばれ、また口元が緩む。
私の背に必死にしがみ付きながら、私の与える快楽を素直に受け取って下さる姫様が愛おしくて笑みが零れた。
胸に温かい物が広がって行く。
この世界にこんなにも幸福な事があったなんて。――…この年齢 になるまで私は知らなかった。
「メルヒがほしいの、はやくちょうだい……!」
涙混じりにねだられて、少し意地悪をしてみたい気分になる。
「ひめさま」
愛涎でどろどろに濡れそぼった入り口に、おのが肉の先端を擦りつけてみる。
自身の先端を花溝に添え、入り口から花芯へ反らして滑らせてみると、くちゅりといやらしい音が鳴った。
「やぁ…っん! も、むり……いれ…て……」
背を弓なりにしならせた姫様の胸が震える。
ぽろぽろと涙を流しながら懇願されたが、私は判らないと言った顔をして、揺れる胸のふくらみをギュッと鷲掴みにした。
「ッひぁ!あ、」
嗜虐と凌辱を今か今かと待ち焦がれる様にツンと上を向いた二つの乳首が私の指と指の間から覗く。
快感の突出部をキュッと指で摘み、もう片方は口に含んで舌で転がして聞こえないふりを続ける。
「っ、もう、無理……っ、はやく、ちょうだい……?」
姫様は震える手でシーツを掴むと、涙に濡れた瞳を固く閉ざして叫ぶ。
「おねが、つら…ぃ……っ!」
「なにを、ですか?」
「――うううううっ!!もう!メルヒまで!あいつらの悪い影響を受けて……!!」
姫様は涙目で私を撥ね付けながら憤るが、そんな様子も男 を誘っている様にしか見えなかった。
私はまた「一体何をおっしゃっているのか判らない」と言った顔をして、硬くなったものの先端で柔らかな肉の狭間を撫で付けていると、――姫様は折れた。
「メルヒが、ほしい…」
「私の、何をご所望なのですか?」
私の言葉に姫様のお顔に、カアアアッ!と朱が拡がって行く。
「メルヒの、メルヒの……、」
「はい」
「メルヒのっ、…………お、お、お、お…、」
「お?」
「お、お、おち………ん、――……うっ、うううううううっ!!」
そのまま目元を手の平でお隠しになられた姫様に、思わず吹き出してしまった。
「……メルヒ、これはさっきの仕返しなの?」
彼女は指の隙間から私を睨む。
(いじめ過ぎてしまったな…)
このまま姫様を怒らせてしまったら、一週間待ちに待った夜が台無しになってしまうかもしれない。
「すみません、姫様があんまりにも可愛らしかったので。……ついつい、意地悪をしてみたくなってしまいました」
「……ばか」
「すみません」
「……うるさい、早く挿れなさい」
「はい、お望みのままに」
私は姫様の太股を持ち上げ自分の肩に抱えると、蜜をいっぱいに溜めて身をよじっている彼女の中心部に自身の肉を添えた。
くち…と鳴った恥ずかしい水音が、涙で濡れた姫様の瞳を染め上げて愛欲の色がより深い物となって行く。
「…ん……っ」
じゅち……ぬち、
「朝まで精魂尽きるまでお仕えいたしますので、どうぞお許し下さい」
「ひあっ!」
何度も私の雄を受け入れて下さったにも関わらず、姫様のその部分は私の侵入を拒んでいるかのように硬く閉ざされていた。
「姫様…力を、抜いてください……」
「ん……、んん……ッ!」
今にも消え入りそうなか細い声で頷く姫様の頬に、手をそっと添える。
姫様の長い睫が震えていた。
自分の頬に触れる私の手に、目を伏せたまま手を重ねて来た姫様のその仕草に愛おしさが込み上げて来る。
「ひめさ、ま…」
頬を撫でる私の手に安堵したのか、ゆっくりと彼女の身体から力が抜けて行く。
彼女の体の力が抜けると、私をきつく拒んでいた箇所も私の雄を受け入れてくれる体勢に入った様だった。
それでも私はしばらく姫様の中に全てを押し込む事はせず、彼女の額や瞼、頬に口付けを落とした。
「……お辛くないですか?」と聞いてみると、姫様は私の背中に回して私の胸に顔を埋めながらコクリと頷いてくださった。
「いきます、よ、」
そのまま腰を押し進め、先端部位をねじ込んだ瞬間、圧迫感に呼吸が止まる。
腰の辺りが酷くむず痒くもどかしいが、このまま性急に事を進める訳にはいかない。
ゆっくりじっくりと腰を押し進め、浅い場所で何度か抽挿を繰り返して中に自身の熱を馴染ませた後、一気に奥まで貫くと姫様は泣きながら達した。
「ッ……!あ、ああ、…める、ひ、」
苦悶の表情を浮かべながらも、私の全てを受け入れてくれた姫様が愛おしくて、思わず力を込めて掻き抱いてしまう。
彼女は息を整えながら、また達しそうになるのを耐えているようだ。
私の方も骨の髄からしびれが来る様なその陶酔感に気が遠くなる。
そっと開かれた姫様の瞳は夢見る様にとろんと蕩けている。
「キス……して……?」
あまりにも可愛らしいおねだりに笑みを零しながら唇を重ね、上も下も繋がったままゆっくりと腰を動かし出す。
「んん、んぅ……あっ、あ、あぁ!…………んんッッ!!」
グチュグチュと私達が繋がっている部分から漏れる粘着質な水音にも、姫様は感じておられる様だった。
不思議とキスの合間から漏れる姫様の吐息や唾液まで甘く感じる。
「メル、もっと、早く、……っ! ねえ、おねがっ……い…」
姫様は私にもっと早く腰を動かして欲しい様だったが、そんな事をしてしまってはすぐに持っていかれてしまう。
私はそんなに若くないので一晩でできる回数にも限りがあるのだ。
頑張っても三、四回が限度だ。
回数で他の若い恋人達に敵わないのならば、すぐにイってしまう訳にはいかない。
激しく突き上げ、姫様が達しそうになった所で腰の動きを緩め、深く口付ける。
腰をゆるゆる動かしながら夢中で舌を絡め取ると、姫様も私の口付けに応える様に自らの舌を絡ませて来てくれた。ちゅうちゅうと己の舌を吸われれば、愛おしさが猛烈に込み上げて来て、髪を撫でながらその華奢な体を力の限り抱き締める。
姫様は最初、悲鳴の様な嬌声を上げながら「イキたい」「イかせて」と申されていたが、その度に唇を塞いで言葉を封じ、激しく奥を穿っていた腰の動きを緩めた。
一時間近くそんな事を繰り返していたら、姫様は何も申されなくなった。
もうまともな思考も働かず、満足に言葉を発する事も出来ないご様子であった。
姫様は赤子の様に泣きじゃくりながら私の背中にしがみ付き、揺さぶられながらただ快楽に耐え忍んでいる。
私の背に回された彼女の腕が震えていた。
背中に立てられた姫様の爪が肌に食い込む痛みさえ甘美に感じた。
「も、やだよぉ……!」
しかし姫様の上の口がどんなに嫌だと申されても、ぐずぐずに蕩けきった彼女の下の口の方はとても正直だ。ふんだんに蜜を溢れさせ、子種をねだる様に収縮して私を翻弄する。
宥める様に姫様の額に口付けを落とし、ゆるやかに腰を動かすと彼女はまたイヤイヤとかぶりを振った。
「めるひ、もっと!」
「お嫌…だったのでしょう?」
「ちが……!っは、ぁ……もっと!もっとしてほしいの、おねがい、おねが、い……っ!」
「なにを、ご所望ですか?」
―――ここまで蕩けさせてしまえば、あとはもうこっちの物だった。
それから私はしばし姫様の清らかな唇から猥褻な俗語を語らせると言う、悪趣味極まりない行為を堪能した。
他の恋人達がしているのを見て、自分も一度に彼女に言わせてみたくなったのだが、これは良い。
(私も意外に嫉妬深いのかもしれんな…)
私は内心苦笑する。
他の恋人達の様に人前で姫様と過激なスキンシップを取る事が出来ない私は、実は日中ヤキモキする事が多いのだ。
最年長者と言う事もあってそれを言葉にするのも憚られる。
しかしこれであと一週間は持ちそうだ。
これで昼間、姫様が他の恋人達と仲睦まじくお過ごしになられているご様子を目にしても、次の夜まで耐えうる事が出来るだろう。
「姫様、愛して、います」
「わたしも、私もっ!……だか、らっ!もう、イかせて……!!」
「姫様も、私と同じ気持ち、なのでしょう、か?」
「あいしてる、あいしてる、から……っ!!」
何度も熱い口付けを交わして求め合い、愛を囁いて、囁かれて。
(ああ、幸せだ)
こうして肌を重ね合わせたまま一つになって、互いの温もりを感じ、愛する人の鼓動を聞きながら眠りにつく。これに勝る幸福がこの世にあるだろうか?
否、ある訳がない。
―――こうして二人きり、朝が来るまで抱き合っていられるなんて私はなんて幸せな男なのだろう。
しかしそろそろ私も限界が近い。
「ひめさま、そろそろ」とお声をかければ、彼女も私の言いたい事を理解したらしい。
親鳥に餌を求める雛鳥の様に口付けを求められ、求められるまま深い口付けを与える。
「っめる!ひ!すき、すきっ!……うっく、ぁ…あぁ、あ、あぁああああ―――ッッ!!」
「ッく、」
私は信じられない程の多幸感と充足感を感じながら彼女の中で果てた。
射精の気だるさを感じながら呼吸を整え、彼女の上から体を起こす。
本音を言ってしまえばあと一度くらいは愛し合いたい所だったが、あまり無理をさせるのも良くないだろう。
涙に濡れた目元に口付けを落とし、私はそのまま姫様を抱き締めて眠りに付いた。
(あなたを、愛してる)
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